小犬のおもう日曜日
水に囲まれた中央で、小犬は何を考える?
「今日は楽しそうな人たちが多いね」
ボクのひたいに乗ったカラスが言う。
「お仕事が休みの日だからね」
カラスをひたいに乗せたボクが言う。
「みんな休みなの?」
カラスが問う。
「みんなじゃないけれど」
ボクが答える。
「そうだよね。きみも休みじゃないものね」
黒い頭をボクのひたいにこすりつける。毎日大変だね、と。
「ありがとう。でもこれがボクの存在意義だから」
「ソンザイイギ?むずかしい言葉だ」
巣立ったばかりのカラスは唸るようにのどを鳴らす。
「すぐに分かるようになるよ。キミは賢いから」
ここを動けないボクと違ってどこまでも飛んでいけるキミは、毎日新しいことを知っていく。
「このセカイはなんだかややこしそうで、少々げんなりしているんだ」
「げんなり?ふふふ、さっそくおもしろい言葉を覚えたんだね」
「黒い服を着た男の人が言ってた」
壮年のサラリーマンだろうか。
「おもしろい?」
「うん、おもしろい」
「そう」
今度は嬉しそうにのどを鳴らす。
「またおもしろい言葉を聞いたら教えてあげる。きみにたくさん、教えてあげる」
羽音がして、空に向かう姿が見えた。
「…本当にキミは、賢いね」
ボクのほしいものを、いつ知ったのか。
幸せそうな人、辛そうな人。
決意した人、迷っている人。
笑っている人、泣いている人。
和んでいる人、緊張している人。
大人に子供に成長中の人。
人の流れは水のよう。
一所にとどまることなく進み、分かれ、一つになってまた分かれ。
ボクはその様を見て、見て、見続けるんだ。
いつかボクに会うことがあったら覚えておいて。
嫌なことは全部ここに置いていけばいいよ。
涙はここに落としきればいい。
水に触れ、空に飛ぶ露を仰ぎ見てそして、また歩けばいい。
ボクはここにいるから。
ボクはここに、ずっといるから。
今話をもちまして、『7日間』全8話、完結です。
毎回読んでくださった方、時々ちらりと覗いてくださった方、ありがとうございました。
お気に召す一文が少しでもあれば喜びです。
それではまた、いつか。