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7日間  作者: 山側 森
6/8

やる気にあふれた金曜日~つまりはこういうこと~


二足歩行をしてお洋服を着た、ちいさなねずみさんの世界。

お父さんが大すきなまつえちゃんと、見送るお母さんのおはなし。




その日は雨がふっていました。

小ねずみのまつえちゃんはお父さんがカサをもっていないと聞いて、こりゃてえへんだあ。と、おじいちゃんのまねをして言いました。

お父さんのふっさりした灰色の毛皮にぎゅっとだきつくのが、おかえりのあいさつです。それがぜんぶぬれてしまうだなんて。

もしかしてぴんと張った、りっぱなおひげまでも?なんということでしょう。それはいけません。


「まつえ、おむかえにいく」


大好きなお父さんがずぶぬれになってはたまらないと思ったのです。


「あらあら、まあまあ」


灰色ねずみのお母さんはびっくりしてしまいました。

だってまつえちゃんはまだ小さいのです。外に出てねこに捕まえられたらどうしましょう。カラスにつつかれて連れ去られたりしたら?


「ちゃあんといけるよ。かけっこだって早くなったもん」


まつえちゃんは、えへんと胸をはって言いました。すばしっこく駆ける練習だってたくさんしています。ねこさんより早いかもしれません。


「そうねえ。……じゃあお願いしようかしら」


しばらく考えてから、お母さんはまつえちゃんをお迎えにやることにしました。

産まれたばかりの娘は、いつのまにかお姉さんになっていたようです。

いつまでも親に甘えてばかりではいけません。まつえちゃんが巣立っていく未来に思いをはせます。

そう、巣の外に出るという大冒険も、いつかはしなければならないのです。

雨で歩きにくいでしょうが、やる気になっている今がチャンスとお母さんは考えました。

雨にもいいことがあります。晴れの日にくらべて、ねこやカラスが少ないといういいことが。


「うんっ、まかせて!」


決意のこもった顔はパッと笑顔にかわり、まつえちゃんはスタタタッとかけていきました。

しっぽがひょろんと角を横ぎります。きっとカサを探しに行ったのでしょう。

灰色ねずみのカサは葉っぱです。雨がふるたび自分にぴったりの大きさの葉っぱを探すのです。



しばらくすると、まつえちゃんが戻ってきました。

右にはまつえちゃんのうすい緑色をした葉っぱのカサ。まつえちゃんにぴったりです。

左にはお父さんのこい緑色をした葉っぱのカサ。


「あらあら、まあまあ」


お母さんはまたまたびっくりして言いました。

どうしてかって、まつえちゃんが持ってきたお父さんのカサがとても大きかったからです。まつえちゃんとお母さんがならんで入ってもお父さんがまだ入れるくらいに。


「まつえちゃん、お父さんのカサはもう少し小さくてもいいんじゃないかしら」


今でもすでに引きずっていて、ちゃんと持って歩けるかしら、とお母さんは心配です。


「だいじょうぶ。お父さんがぬれたらかわいそうだもの」


お母さんの心配はまつえちゃんには伝わりませんでしたが、わたしはこのぼうけんをやりとげてみせます!と顔にかいてあるまつえちゃんのやる気を減らしてやるのはかわいそうかと、それ以上なにかを言うことはやめておきました。


「あぶないと思ったら、カサをすてて走るのよ」


まつえちゃんはちょっとだけためらってから、うんとうなづきました。

だってこんなにりっぱなカサなのです。すててしまうだなんて。

だけれどまつえちゃんはいつもちゃあんと教えられて、それが正しいとも知っていましたから、こう言いました。


「いのちがいちばんたいせつです」


ああ、大丈夫でしょうか。

まつえちゃんのお返事をきいてもお母さんは心配でたまりません。

雨の日が好きなねこがいるかもしれません。雨のシャワーが好きなカラスがいるかもしれません。


「気をつけていってらっしゃいね」


まつえちゃんのみづくろいをととのえてやってから、お母さんはまつえちゃんをぎゅっと抱きしめました。せっかくととのえたのが台なしです。


「いってきます!」


元気よく外に出ていった小さなむすめをみおくって、お母さんはどきどきしています。


「ちゃんと帰ってこれるかしら…」


まつえちゃんが見えなくなった道をしばらく見ていたお母さんは思いをふりきるように、あたたかいスープでも作ろうと台所へとむかいます。

冒険をしたまつえちゃんは、雨で全身冷えているにちがいありませんから。



そう、帰ってきますよ。お父さんといっしょに。ちゃあんとね。







それは噴水を囲む生垣の下の隅っこに住む、小さな小さなねずみ一家の大きな大きな冒険のお話。




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