やる気にあふれた金曜日
ある雨の日。カサをもっていないお父さんのために、まつえちゃんはがんばろうときめました。
その日は雨がふっていました。
まつえちゃんはお父さんがカサをもっていないと聞いて、こりゃてえへんだあ。と、おじいちゃんのまねをして言いました。
「まつえ、おむかえにいく」
大好きなお父さんがずぶぬれになってはたまらないと思ったのです。
「あらあら、まあまあ」
お母さんはびっくりしてしまいました。
だってまつえちゃんはまだ小さいのです。
「ちゃあんといけるよ。かけっこだって早くなったもん」
まつえちゃんは、えへんと胸をはって言いました。
「そうねえ。……じゃあお願いしようかしら」
しばらく考えてから、お母さんはまつえちゃんをお迎えにやることにしました。
産まれたばかりの娘は、いつのまにかお姉さんになっていたようです。
いつまでも親に甘えてばかりではいけません。
外に出るという大冒険も、いつかはしなければならないのです。
雨がたくさんふっていますし、歩きにくいでしょうが、やる気になっている今がチャンスとお母さんは考えました。
「うんっ、まかせて!」
決意のこもった顔はパッと笑顔にかわり、まつえちゃんはスタタタッとかけていきました。
きっとカサを探しに行ったのでしょう。
しばらくすると、まつえちゃんが戻ってきました。
右にはまつえちゃんのうすい緑色のカサ。
左にはお父さんのこい緑色のカサ。
「あらあら、まあまあ」
お母さんはまたまたびっくりして言いました。
どうしてかって、まつえちゃんが持ってきたお父さんのカサがとても大きかったからです。
「まつえちゃん、お父さんのカサはもう少し小さくてもいいんじゃないかしら」
今でもすでに引きずっていて、ちゃんと持って歩けるかしら、とお母さんは心配です。
「だいじょうぶ。お父さんがぬれたらかわいそうだもの」
お母さんの心配はまつえちゃんには伝わりませんでしたが、わたしはこのぼうけんをやりとげてみせます!と顔にかいてあるまつえちゃんのやる気を減らしてやるのはかわいそうかと、それ以上なにかを言うことはやめておきました。
「気をつけていってらっしゃいね」
まつえちゃんのみづくろいをととのえてやってから、お母さんはまつえちゃんをぎゅっと抱きしめました。せっかくととのえたのが台なしです。
「いってきます!」
元気よく外に出ていった小さなむすめをみおくって、お母さんはどきどきしています。
「ちゃんと帰ってこれるかしら…」
思いをふりきるように、あたたかいスープでも作ろうと台所へとむかいます。
きっと帰ってくるころには全身冷えているにちがいありませんから。
それは噴水を囲む生垣の下の隅っこに住む、小さな小さなねずみ一家の大きな大きな冒険のお話。