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7日間  作者: 山側 森
4/8

嬉しい木曜日

電話が鳴った。あら電話なんて珍しい、そう思うより早く友は衝撃発言をぶつけてきた。外で叫ばなかった自分を褒めてほしい。


改札を出て手にしたスマホ。

着信1と表示された画面に誰だろうと思った瞬間、液晶が光りだした。

表示された友の名前に珍しいと思いながら通話アイコンを触る。

「もしもし、もしかして電話くれた?」

『うん、したした。ごめんねまだ仕事中だった?』

「ううん。電車に乗ってて気付かなかった、ごめん。何かあった?」

返事を急がないやり取りばかりをする私たちのツールはいつもメールだ。それなのに、電話なんて。

『結婚しようと思う!』

それなのに、電話なんてよほど大事な要件なのだろう。そう思考しきる前に耳に届いた相手の声。

「……へ?」

3秒前の相手のセリフを脳内でリピートさせる。


ケッコン シヨウト オモウ!


ケッコン しようと おも……けけけ結婚んん?!


「ちょっと、なっ、え?えぇ?」

『ははは、驚いてる驚いてるーっ』

そりゃ驚くわ!大切な友の一大決心宣言。

大事だわ、これは大事な要件だわ。こんなのメールで送る内容じゃない。

でも電話で伝える内容でもないと思う!

「ええ、えっと、えーっと」

横でザーザー振り落ちる水音に思考が邪魔される。

ああもう鬱陶しい。いつもは水が降ってるわ―としか思わない噴水も今ばかりは止まってほしい。

噴水に恨みも辛みもないけれど、思考がテンパってる今は余計な雑音にしか聞こえない。

そんな願いが届いたのか時間設定的な偶然なのか、確実に後者だとは思うが、パシャパシャッと小さな水音を立てて噴水が静かになった。


「えっと、えー」

『えーばっかり言ってるよ』

言葉が出て来んのだ嬉し過ぎて!そう頭の中で返事してふと気付く。

嬉しい。そう、嬉しい。とても、とても。

喜びよりも嬉しさが主成分となっている自分のテンションに気が付いて、あぁ自分はこの友人のことが本当に好きなのだと知る。

「う、わぁぁ。うわー」

『今度は、うわ?』

機器の向こうで笑ってる声。

「おめでとう」

ようやく出せた、意味のある声。

「ほんっと、おめでとう。嬉しいよ」

『ありがとう』

一番に教えたかったんだと伝えてくれる友。

「今から家行くから」

『いいけど、明日仕事でしょ。だから電話にしたんだけど』

なるほど電話だったのは彼女なりの配慮だったらしい。でも電話でも話し続けるに決まってる。それなら直接会いに行っても変わらない。

「行くから」

これは決定事項だから覆されないから断れないから拒否権なんてないからという感情を込めて言う。

『わかった』

「じゃ、一回切るよ」


スマホを鞄にしまってから時計を見る。ケーキ屋はまだ開いているか。ホールケーキ残ってるかな。

今夜は取り急ぎ祝いじゃ、祝い!

ホール食いしながら全てを聞き出してやると決意を固め、私は歩き出した。

きっと明日は徹夜明けの出勤になるな、と思いながら。




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