――― 見据エルモノハ ―――
―――――――――時は少しだけ遡り、夏子達が学校到着と同時刻。
古びた倉庫が並ぶ町外れの倉庫街。その一角で錆び付いた開口音が不気味に響く。
長い間人が踏み入れなかった倉庫内は埃にまみれ、何十本と組み立てられた倉庫の骨組みである鉄骨は随所に錆が差しており、トタン製の屋根から所々に穴が空き、その穴からは細く針のような日の光が地面に差し込んでいた。
歩を進める度に舞い上が埃の中、二つの幼い声音が響く。
「うわっ、埃が凄い。元の状態ってこんな感じだったんだ」
「フム、さすがはセフィリア。さすがの出来じゃのぅ」
凜と蘭はそれぞれ倉庫のを見渡しながら倉庫の中央へ進み、二人並んで歩を止める。
「魔力の気配からすれば丁度この辺りじゃが…………視えるか?」
「…………うん」
凜は微かに痛みに軋む右眼に視えた法術の欠片――――血塊を思わせる紅玉に目を細め、呻くように答えた。
「さっきセフィリアと商店街で封印してきた法術の欠片と同じ、みたい。赤い塊が動いてる…………」
「ふむ、どうやら『虚』と法術は取り込み対象として認識しておるようじゃな…………凜、儂を視」てみろ。儂の魔力――――魂の『核』は視えておるか?」
そう言って蘭は両腕を小さく脇に広げ、
「ううん、何も。左眼と同じで普通に見えてるけど?」
「そうか。となると…………」
凜の答えに広げていた腕を組み、状況を確認するように黙り込む。
「……………………………」
「お祖母ちゃん?」
蘭の沈黙に戸惑いながらも声を掛ける凜。
蘭は凜の声に小さくを息を付き、紫の瞳に凜を映す。
「凜や、悪いんじゃが話をする前に視えておる法術を取り込んでおいてくれんか? あの『死神』が事を起こす前に取り込んでおくにこした事はないからのぅ」
「うん、わかったよ」
凜は小さく頷き、法術の欠片へと一歩前に出た。
右眼に映る脈動する『核』。それままるで心臓のようにも見え、異様な不気味さを放っていたが躊躇うことなく触れる。
瞬間、昨日同様『核』に深い亀裂が刻まれ、亀裂から赤い閃光が溢れ出し、跡形もなく砕け散る。その残骸は例に漏れずと凜の右手に吸い込まれていった。
右手に最後の欠片が沈むのを見届けると凜の表情が和らぎ、
「…………よし」
僅かな達成感に一息尽き掛けた時――――――ズキッ!! と鋭い痛みが右眼に奔った。
「づっ!?」
その痛みに反射的に右眼を抑え、喉の奥からで込み上げてくる悲鳴を噛み殺す。
「…………………っ」
幸い、痛みが続く事はなく一呼吸の間に治まった。
「凜、大丈夫か?」
「う、うん……………なんとか」
すぐ隣で聞こえる蘭の声に苦味混じりに言葉を返し、ゆっくりと右眼を開く凜。
右眼の状態を確認するように何度かパチパチと瞼を開け閉めし、左眼同様に見える事を確認して蘭へ顔を向け、
「…………………えっ?」
右眼に視えたモノに絶句した。
視界に映るのは紛う事なき祖母の蘭。だが、右眼に映し出されているのは左眼とは違う――――――二つの異質。
「あっ…………」
「どうやら視えておるようじゃな」
戸惑いに硬直する凜の様子に蘭は凜の心を見透かすように呟き、
「今のお主の右眼には儂はどんな風に視えておる?」
「し、心臓の辺りに赤い『核』が…………それに、ほんの少しだけど体から赤い光が滲み出てる」
凜は自分の右眼の異質さにうっすらと嫌な汗が額に滲む。
法術や『虚』とは違う――――――命そのものを視ているような感覚。
「な、なんで? さっきまで普通に…………」
「欠片とはいえ法術の魔力を取り込んで、お主の力が増大したんじゃろうな。儂には視えておらんから正確な事は言えんが…………今ならば夏子さんは勿論、セフィリアの魂の『核』も視えるはずじゃ」
「魂の『核』って…………じゃあ、さっきの法術の『核』みたいに触ったりしたら」
「先程同様、お主の魂に取り込む事になる。じゃが」
自分の中で膨れ上がっていた嫌悪感をさらりと代弁する蘭の言葉に、凜は思わず声を荒げた。
「そ、そんなっ!? じゃあ、僕が間違って触ったりしたらっ!!」
「慌てるでない。それについてはちゃんと対処法がある」
「た、対処法…………?」
「そうじゃ、対処法じゃ」
蘭は凜を落ち着かせるように肩をポンポンッと叩き、自分の右眼を指差す。
「お主の右眼は魔力の通っているモノの『核』を視覚化させているだけじゃからな、右眼に魔力の通っていないモノを被せれば問題ない」
「魔力の通っていないモノって…………」
「今まで通りコンタクトをしておれば視えんという事じゃ。まぁ、もっと単純なのはお主が右眼をずっと閉じておれば良いだけの話じゃな」
「な、なんだ。コンタクトしてれば大丈夫なんだね…………もう、焦らせないでよ」
蘭の告げた対処法に安堵からドッ!! と体から力が抜け、
「ちゃんと説明しようとしたのに、いきなり声を荒げるのがいかんのじゃ。人の話はきちんと最後まで聞くもんじゃぞ」
可愛らしい眉を眉間に寄せ、呆れ混じりに苦笑する蘭。
「ご、ごめん……次からはちゃんと話を聞くように気をつけるよ」
「うむ」
凜も反省の念を織り交ぜた苦笑で返し、蘭はそれに満足そうに頷く。
「さて、話が変な方向に飛んだがここからが本題、といいたいところじゃが……もう一つ。話の前に確認させて欲しい事があるんじゃ」
「確認したい事? そういえば家を出る時もそんな事言ってたけど…………何を確認したいの?」
脱力した体を正し、真っ直ぐ蘭を見据える凜。
「セフィリアからはお主の力の事は聞いたかの?」
「うん、聞いたよ。セフィリアは僕のこの力は『魔力具現化封印』って言ってた……僕の魂は無限に魔力を取り込めるから死神にとっては強力な矛にも盾にもなる、って。凄いよね、神様でも欲しがる力を持ってるなんてさ……………でも」
落ち着きを取り戻した声は次第に無力感に溢れる弱々しい声へと変わり、
「それだけ凄い力を持ってるのに、夏先輩の力になれないなんだから笑っちゃうよね」
無力感から出た失笑を浮かべながら呟いた。
「ほんとに、こんな力の為に……夏先輩を巻き込んじゃうなんて、さ」
「凜…………」
「神様も欲しがるくらいの凄い力なら夏先輩を生き返らせる為に、今までいた日常へ帰す為に使えたら良かったのに…………ほんと、に」
自分の無力さを噛み殺し、自責の念に沈んでいく凜。
そんな凜の脳裏には昨日、ジュマが言ったあまりにも軽薄で残酷すぎる言葉が脳裏を過ぎった。
――――――無駄死に、かな。
「くっ…………」
頭の中で響いたジュマの不快な声音は神経を伝うように全身へと駆け抜け、
「…………凜」
それを断ち切る幼くも鋭く重い蘭の声に、凜は右眼から手をはなし蘭を見据える。
「な、何? お祖母ちゃん」
「何度も言うが夏子さんが殺されたのはお主の所為ではない」
「っ…………」
自分の心を見透かすように告げられた言葉に凜の表情は強張り、
「でも…………」
「と、儂やセフィリアがいくらいっても納得できるとは思っておらんよ」
言葉を返そうとしたところで蘭が、自分の中の答えもわかっていたとばかりに形にする。
「じゃからこそ、お主に聞いておきたい事があるんじゃ」
「僕に?」
「そうじゃ。今のお主が自ら背負おうとしているモノと向き合えば必ずぶつかり、選択を強いられるものじゃからな」
穏やかだった瞳は冷たい厳格さと深い後悔に染まり、自らも選択を強いられているよな痛みに強張る表情。
それは自分が生きてきた十六年の中で一度も見た事のない祖母の顔。いや、これは萩月蘭という人間が幸せの価値も、悲哀の苦渋も、後悔の意味も…………それらを引き寄せる選択と連なる結果の重さを身に刻んだ姿。
「…………っ」
その姿に言葉を忘れた様に息を呑む凜。そしてそんな凜の動揺を感じながらも蘭はただ言葉を紡ぐ。
「凜」
まるで自身への呵責のように、まるで自身への呪詛のように、自身の在り方を否定するように。
「お主は―――――――――――――」
凜の心に深々と傷を刻み、それを懺悔するように言った。
「えっ?」
あまりにも唐突で、それでいて明確すぎる問い掛けに凜は思考が一瞬止まり掛けた。
その一瞬。それは自分の空耳だと、ただの聞き間違いだと思考が再加速するが、目の前にいた蘭の表情に――――聞き間違いなんかじゃないんだ、と心の中で再確認する。
「そ、それって……」
どういう意味? と問い掛けようとした瞬間だった。
―――――――――ビキィッ!!
「ぐっ!?」
右眼を襲う刻みつけられるような鈍く、重い痛みに右眼を押さえる凜。
そしてそれが合図だった様に左眼に映る光景が一変する。
埃だらけの地面、錆び付いてた鉄柱。穴だらけの屋根は勿論、薄暗い倉庫を照らしていた陽光さえも、紅の波紋に深い紅へと染め上げられていく。
「これ、はっ」
「【紅境界】じゃとっ!?」
血染めの世界の一部になった倉庫に凜と蘭の揺れる声が響く。
「また『虚』が、来たの…………っ!?」
凜は右眼の痛みを振り払うように瞳を押さえていた右手を払い、
「いや、そうではないっ!!」
敵意という刃に研ぎ澄まされた声を飛ばし、凜とは逆方向へと体を向ける蘭。
ここから遠方から感じる強烈な魔力の波動に、蘭の瞳が軋む。
「この魔力は…………奴じゃっ!!」
「奴って……ジュマがっ!?」
「あぁ、じゃが……魔力の位置からして夏子さん達の所の様じゃな」
「なっ!?」
思いもしなかった状況に凜の瞳が大きく見開かれ、蘭も困惑に表情を歪める。
「何で夏先輩達の所にっ!? 狙いは僕じゃなかったのっ!?」
「その筈じゃが…………っ!?」
何かを感じ取ったのか、不意に蘭が弾かれたように体を反転させ、凜の背後。倉庫の外へ驚愕に染めた瞳を向ける。
「くっ、敵の死神は随分と馬鹿げた事をしてくれたようじゃな」
「ば、馬鹿げた事って…………っ!?」
蘭の辛酸混じりの言葉に状況を確かめようと問い掛けて、次の瞬間には蘭に抱き抱えられ倉庫の外へと連れ出されていた。
「な、なにっ!?」
「跳ぶぞっ!! 口を閉じておれっ!!」
切迫した蘭の声に訳のわからぬまま口を閉じ、それと同時に強烈な風圧と浮遊感が体を襲う。
「ぐっ!?」
今すぐ夏子達の所に向かうのだと思った凜だったが、それを否定するように体に感じていた感覚が不意に止み、タンッ!! と軽快かつ鋭い着地音が響く。
今、自分達がいる場所は倉庫の屋根の上。それもつい先程まで中にいた倉庫のだ。
緊急かつ切迫した状況で居場所がさして変わっていない事に凜は思わず首を傾げ、
「お、お祖母ちゃん?」
と、自分を無言で立たせる蘭に視線を移した。
「い、いきなりどうしたのさっ!? 急いで夏先輩達の所に行かないと」
「…………………すまんのぅ、どうやらそれは無理の様じゃ」
「む、無理って――――」
――――なんでっ!? と声を荒げそうになった凜だったが、苦渋に満ちた蘭の表情に声が喉元で消え、蘭の視線の先を見やって――――――全身に突き刺さる怖気に思考が凍り付いた。
恐れと遺恨に塗れた二人の視線の先に広がっていたのは――――――血染めの空を埋め尽くす無数の『虚』。
「なっ…………ぁ、ぁぁっ」
「…………どうやら、相手は本気で事を成すつもりのようじゃな」
そして無数の『虚』の眼下には、時間を奪われたように動きを止める大勢の人間達。
世界に施された【紅境界】の影響なのか、世界と同様に頭の上から足の先まで紅く染め上げられた姿は血染めの人形の様だった。一瞬、生きているのかと疑い掛けたが右眼に映る赤い光を放つ魂の『核』の脈動に安堵する凜。
だが、その安堵も仮初めで異常かつ緊迫した状況に、凜は何とか声を絞り出す。
「な、なん……で、皆が?」
「儂に対しての人質、といったところか」
「お祖母ちゃんに対しての、人質?」
蘭は凜の疑問に無言で頷き、冷たい光を宿した瞳で『虚』の軍勢を見やる。
「儂がジュマが真正面から戦えば必ず儂が勝つ。どれ程小細工を有しても儂とジュマの間にはそれほどの差がある事がわかっておるのじゃろう。それ故に儂が自分に手出しできない状況を作り出したのじゃろう」
「手出しできない状況って…………まさか」
凜は蘭の言葉と眼前に広がる光景に再び悪寒が奔り、蘭も頷きながら告げる。
「お主の考え通りじゃろうな。儂が不用意にジュマとやらに接近、もしくは仕掛ければあの『虚』共が一斉に町の住民を襲うように仕込んであるのじゃろう。それ故、魔力の低い人間が身動きのできない【紅境界】を施したのじゃろうな……今、儂等と住民達を襲っていないのが証拠じゃ」
「じ、じゃあ皆が襲われないように今『虚』を倒しちゃえばっ!!」
「その間にジュマが夏子さん達をどうにかしてしまうじゃろうな」
「そんなっ!? セフィリアがいればっ!!」
あり得ない、と言った風な顔で凜が叫ぶ、が。
「今のセフィリアは魔力が回復しきっておらんからの、あまり長い間戦ってはいられんじゃろ」
蘭は正面を向いたまま、淡々と返す。
「かといって儂が夏子さん達を助けようとすれば『虚』どもが住人達を襲う。それにこれほど用意周到な者が最悪、儂との戦闘を想定していない筈がない。となれば、いくら儂でも町全域の住民全員を護りきるのは不可能じゃ」
「じ、じゃあ………打つ手なし、ってこと?」
「いや、手はある…………至極単純な手がな」
苦い表情のまま告げる蘭とは反対に、一縷の希望。まだ反撃のチャンスが残されているのだとパッと表情を明るくする凜。
凜は蘭の顔を覗き込むように近づき、
「なら、それで――――」
「じゃが、最も危険な賭けとも言える方法じゃぞ?」
自身への呵責に塗れた蘭の言葉に遮られる。
「危険な、賭け?」
「あぁ、そうじゃ。それもこの方法は奴……ジュマが望んでいる状況でもある」
痛みに堪えるように目を閉じ、顔を俯かせる蘭。
「それって…………」
「……………………」
それから互いに重苦しい無言を重ね、
「…………」
「お祖母ちゃん」
続くかと思っていた沈黙は凜の声に崩れ、蘭は躊躇いながらも凜を見やる。
罪悪感に染まり、怯えにも似た瞳に映る凜の姿――――――それはあまりにも凛然としたものだった。
「その賭けに勝てば夏先輩にセフィリア、お祖母ちゃん…………それにこの【紅境界】にいる町の人達皆助けられるんだよね」
「…………あぁ、そうじゃ。ワシらが賭けに勝てば皆助けられる。じゃが、凜……この賭けは」
「賭け金は僕の命だけで足りるかな?」
「っ…………」
一切の恐れも躊躇いもない真っ直ぐな銀と紫の瞳に、蘭は言葉を返す事ができず。
「夏先輩を、セフィリアを、お祖母ちゃんを……町の皆も全部。僕がこんな事に巻き込んじゃったんだ。だから、これは僕の責任。どんなに分が悪くても、どんなに危険な賭けでも僕は逃げないよ」
「…………そう、か。お主が覚悟しておるなら何も言うまい」
何の迷いもなく言い切った凜の姿に、蘭は嬉しさを覚えた反面。悲しさ、切なさ、無力感といった感情が胸の中で渦巻いていく。
たった十六歳で誰かの為に命を賭けられる男になった。一人の人間としては尊敬に値する。だが、一人の女として、育て親として、祖母としては簡単に選ぶ事も賭ける事も望んで欲しくなかった。
「凜よ、この賭けの勝敗はお主の力と働きに掛かっておる」
「…………うん」
しかし、自分が望む望まないに関係なく目の前の可愛い孫はもう決めてしまった。
先程、【紅境界】が発動する直前。凜に問い掛けた言葉がふと過ぎり――――――きっと今の聞いた言葉が、あの時聞けなかった答えなのだと思った。
だからこそ、自分も覚悟を決める時が来たのだと……そう直感した。
「儂はこれからお主を空間術で夏子さん達の所へ送る」
蘭はそう告げながら着物の袖口から数枚の呪符を取り出し、
「術で送るって……ほんとにお祖母ちゃんは何でもありなんだね」
「「当然じゃな、儂はお主の祖母なのじゃからな」
感心と呆れ、驚きと様々な感情ごちゃ混ぜの苦笑いの凜に、自信満々に告げ呪符を投げる。
投げつけた呪符は全部で三枚。それらは凜を中心に三点で囲みチリッ!! っと紫電を瞬かせながら宙に浮いた。
「儂はお主を夏子さん達の所へ送り飛ばしたら、町中の『虚』共を一体残らず蹴散らしてくる」
「うん、お祖母ちゃんも無茶しないでね」
「何を言っておる。これくらいの事を無茶といってはお主の祖母として名が廃る」
「祖母の名が廃るって……」
「儂の事は心配せずともよい。それよりも今からお主がしなければいけない事を話す、
しっかり聞くんじゃぞ?」
「うん、わかってるよ」
命を賭した戦いに躊躇うことなく力強く頷く凜。
その姿に今は亡き、一人の女性の姿が重なり――――蘭は心の中で祈る。
(すまんの、ベルフェ。お主と交わした約束……護れんようじゃ)
世界で一番、孫不幸な祖母になると決めた。
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
紅い世界に降り立つ柔らかで冷徹な黒。
「あっ……ぁ」
子供の様な無邪気な笑顔で自分を見下ろす来訪者――――ジュマ=フーリス。
その姿に夏子は喉元に刃を当てられているような緊迫感に声が出てこない。
「神村夏子さん、君はこのお祭りの最後の出し物」
無邪気さに綻んだ笑顔で静かに夏子へ歩み寄るジュマ。
「あぁ…………ぁっ」
「ボクと一緒に来て欲しいんだよね」
夏子は目の前で微笑むジュマへ言葉を返す事もできず、差し出された右手に視線が釘付けになる。
「あ、ぁっ…………」
ジュマが差し出した右手が断頭台へ続く階段のように見え、その手を握れば最後。自分は死への道を辿るしかないと心が叫んでいた。
恐怖にか細い声しか出せない夏子へ、催促するように右手を小さく振り、
「さっ、ボクと一緒に……ん?」
「ナツコ!! 伏せて!!」
突然、恐れを切り捨てる声が響いた。
夏子はその声に咄嗟に体を伏せ、
「ハアアアアアアアアアアッ!!」
夏子の背後から響く裂帛の咆哮と白銀の閃光がジュマの胴目掛け、甲高い音共に叩き込まれる。
白銀の閃光はジュマを呆気なく上下真っ二つに切り裂き、閃光と入れ代わるように夏子の前へ降り立つセフィリア。
「ナツコッ!! 大丈夫っ!?」
大鎌を下段に構え、顔だけを振り返らせ叫ぶセフィリア。
「う、うん……なんとか」
「そう、ならよかった」
セフィリアは夏子の返答にほっと息を付き、
「へぇ、良かった……ねぇ。状況の改善があったようには思えないけど?」
驚きと感心に弾む声にバッ、と正面に顔を戻す。
するとセフィリアの一撃で真っ二つになったはずのジュマの体は宙に溶け込むように消え、二人の背後――――やや後方から嘲笑うように姿を見せ、セフィリアは夏子を背に庇い大鎌を構え直す。
「そう? アンタを探す手間が省けたて助かったけど」」
廊下の最奥、その壁に寄りかかっていたジュマへ唾を吐くよう告げ、セフィリアはジュマを睨み付けたまま、夏子を安心させるように陽気な声で言葉を紡ぐ。
「もう、子供じゃないんだから泣かないの……って無理か、こんな状況じゃ仕方ないか。でも、駄々はこねないでよ?」
「な、泣いてないよっ!! それに駄々もこねないからっ!!」
セフィリアの茶々入れに夏子は涙を拭きながら浮き上がり、セフィリアの背後で身構えた。
一先ず夏子の気概を取り戻せた事に小さく笑みを浮かべ、
「そう、良かった。なら、ナツコは少し下がってて……」
「……うん、セフィリアも気をつけて」
「ん、ありがと」
短く夏子との会話を済ませ、セフィリアは目の前の敵に集中する。
向けられた敵意にゆらりと壁から離れ、両腕を開きながら歩み出すジュマ。
「史上最年少、若干七歳という若さで『死神』の最高位たる『第一級』に昇格。歴代ベェルフェール家頭首でさえ並ぶ者なしとまで言われる稀代の天才。魔力の絶対容量から近接戦闘技、法術取得数に任務達成率……全てにおいてトップクラス。そして現在はボク達『死神』が全十三部隊に編制されている中で、最精鋭とされる第十三部隊に所属。家柄、才能、実力…………三拍子揃った次代を担う者の一人」
言葉終わりに「さすがはベェルフェールの嫡子」と嫌味を含んだ笑みで告げるジュマに、セフィリアは喉の奥から込み上げてくる不快感を惜しげもなく吐き捨てる。
「人の事を得意げにグダグダと……それくらいじゃないと自分の相手にならないって言いたいの?」
「いやいや、そんなつもりは全然ないんだけど……気に触ったなら謝るよ」
セフィリアの敵意に満ちた視線に、苦笑いで頬を掻くジュマ。
セフィリアはそのジュマの姿に、一瞬だが凜の笑顔がダブり……すぐに別物だと認識した。
同じ柔らかで純粋な笑み。凜の笑顔は見ただけで心が温かくなるそんな笑顔。だが、いま瞳に映るジュマの笑顔は質が違う。
どこまで続くかわからない暗闇に心を鷲づかみにされるような感覚と、氷塊に閉じ込められているような冷たさ。
体を蝕んでいく冷徹な感覚を振り払うように、大鎌を下段に構え声を張る。
「アンタに質問よ」
「ん? 何かな?」
ジュマは意外とばかりに目を見開き、頬を掻いていた手を下ろながらセフィリアへ問い返した。
「この微弱な沢山の魔力は人間よね? 関係ない人間を【紅境界】に取り込んで一体何をするつもり? 関係ない人間を盾にすれば私が戦えないとでも思ったの?」
「ピンポーンッ!! 大正解っ!! って、言いたいところだけど人質って所だけは正解かな」
「人質だけ、ですって?」
ジュマは困惑するセフィリアへ得意げな笑みで答え、
「そ、これは君に対してじゃなくて【殲滅斬手】に向けてのだよ。本当の目的は……まぁ、すぐにわかるから」
と、示すつもりはないと唇にの前で右人差し指を立てる。
「…………さてと、彼が来る前に君の後ろにいる『霊現体』――――神村夏子を渡して貰うとすごく嬉しいんだけど」
「はっ、馬鹿言ってんじゃないわよ。誰がアンタなんかに渡すと……っ!?」
セフィリアが侮蔑を込めた宣言をジュマへ言い切る前に、ある方向から吹き出すように放たれた圧倒的な力の波動に、思わず目を見開き顔を窓の外へと向ける。
「なっ、この魔力はランさん!?」
それに先程まで感じ無かった町を飛び交う無数の気配――――これは『虚』!?。
「嘘っ!? さっきまで何も」
「はは、驚いてる」
ほんの一瞬だった。セフィリアの注意が町へと向けられた一瞬。その隙に、滑り込むようにセフィリアの懐へ踏み込んだジュマの姿に、反射的に大鎌を眼前で立てる。
「ッ!?」
瞬間。周囲の空間を埋め尽くす魔力の急激な高まりと共に、
「どっかーーーん」
ジュマの間延びした声の効果音付き拳が大鎌に叩き付けられ、大鎌を握っていた両手に爆発的な衝撃が襲う。
その刹那。廊下のガラスが波を打つように鋭い音と共に砕け飛んで、壁や床は重く響く低音をぶつけ合いながら亀裂を刻んで円形状に吹き飛ぶ。
「ぐぅっ!!」
衝撃に痺れる両手を無視して大鎌でジュマを両断、
「へぇ、今の受け止めたんだ。結構本気で打ち込んだんだけどなぁ」
したつもりが振り抜いた先には軽口だけが残り、その奥で感心と共に立つ。
「さすがにそう簡単に壊れないね……何回も使えるわけじゃないから速く壊れて欲しいんだけど」
嘲笑を浮かべるジュマの姿に小さく舌打ちをすセフィリア。
互いに元の位置で対峙し、その間を取り持つように壁や床の残骸がパラパラと軽い音を発てて降ちる。
「………………っ」
両手が痺れる感覚に、思わず息が漏れるセフィリア。
――――今の一撃、気がそれた一瞬で魔力を最大まで高めて拳に乗せた。
魔力での身体強化は基礎中の基礎。だが、ただ魔力を循環させるだけでなく極限にまで高めた魔力を肉体に収束させ、肉体そのものを強固な武器として戦う全距離対応の高等技法。
「へぇ、アンタも結構法術なしでも戦えるタイプなんだ」
「まぁ、これでも君の十倍は生きてるし、これくらいはね。でも、さすがに【殲滅斬手】みたいに馬鹿すか使えるわけじゃないよ。魔力制御も気が抜けないし、何より一回使うだけで結構体力も消費するし……使い勝手はそんなに良くないかな」
「見た目は若作りでも体力はお爺ちゃんみたいね」
セフィリアは悪態をつきながら大鎌を下段に構えて、静かに息を呑んだ。
――――今の私じゃ完全に分が悪い、魔力は半分も回復してないし…………何よりナツコを庇いながら戦うのはかなりハンデがあるわね。
できるならこちらからも仕掛けたい所だが、仕掛けたタイミングで『虚』が夏子を襲う可能性もある状況では下手な事はできない。その上『空絶』を張り夏子を護りたいが、今の魔力では紙切れ程度のモノしか張れない。
魔力の気配からすればランさんは『虚』の相手で手一杯。ここはナツコを連れて引くのが最善――――と、この場から離脱しようとフィリアが一歩後ろへさがった所へ。
「あぁ、君達が逃げたらここの生徒を暇つぶしに殺すよ? まぁ、何人殺すかは知らないけどね」
まるでセフィリアの出方を見透かしたようにテヘッ、と舌を出しわざとらしい笑みを見せるジュマ。
そんなジュマの言葉にセフィリアの足が重く止まり、
「ブリっ子ぶるな、男が気持ち悪いのよ」
悪態をつきながら――――最悪、と心中で歯を食いしばった。
殺す。その言葉を言った時のあまりの自然さに――――この場から逃げれば確実に生徒達は皆殺しにされる……事後の陰惨な光景が鮮明に浮かんだ。
脳裏に浮かんだ光景に身じろぐセフィリアを余所に、嘘だと隠すつもりもない不愉快極まりない泣き真似をしてみせるジュマ。
「シクシク…………ひどいなぁ、いくらボクでも地味に傷つくよ?」
「あっそっ、じゃあその傷で死んでくれないかしら?」
セフィリアの一切容赦のない皮肉に、ジュマは一瞬呆気にとられジトッとした目つきでを見据える。
「…………結構毒舌だね。君」
「あら、どういたしまして」
セフィリアもジュマの視線をわざとらしく満面の笑みで受けてみたものの、完全に遊ばれてるのがわかる。
「それにしても意外だったよ」
「何が意外よ?」
ジュマはセフィリアの問い掛けに視線を夏子へ移し、の視線の変化に妙な胸騒ぎを覚えるセフィリア。
「いや、どんな任務も徹底して完遂してきた君がたかだか一人の人間に気を遣うなんてさ」
遊び道具を見つけた子供のように目を輝かせ、わざとらしく息を付くジュマに。
「っ!?」
「君も災難だったね、神村夏子さん」
「わ、私?」
下卑た笑みで告げられた言葉に、夏子は何を言っているのかわからず。
「あっれぇ~っ? ベェルフェールや彼から聞いてなかったの?」
まるで自分を捨てられた人形のように見るジュマの瞳に燻っていた恐怖が再燃し、否応なしに体が震える。
「い、一体何の話を…………」
「いや、何の話って……」
「しゃべるなっ!!」
怒気を撒き散らし、ジュマの声を遮るのと同時に大鎌を振りかぶるセフィリア。
「神威『第二位』解放!!」
セフィリアの怒気を顕現するように大鎌が強烈な白銀の閃光を宿し、
「アアアアアアアアアアアアアアッ!!」
殺意まみれの咆哮と共に一足でジュマの懐に入り込む。
「っと」
ジュマはセフィリアの姿に短く声を漏らし、
「消し飛べ!!」
白銀の閃光がジュマを飲み込み、耳を劈く轟音と共に粉塵が舞い上がる。
「っ!?」
その閃光と轟音は夏子の悲鳴をかき消して、
「ハァ…………ハァハァッ、くっ」
二階の一角を完全に吹き飛ばし、周囲の視界は粉塵一色。
その見通しの悪い中、セフィリアは怒り任せに振り抜いた『処刑人』から伝わった馴染みのある感触に、嫌悪感が滲み出ててくる。
「っ………………」
セフィリアの攻撃が当たる直前、ジュマは魔力による障壁を張ったようだった。が、セフィリアの渾身の一撃は障壁を悠々と斬り裂き、握っていた大鎌から伝わってきたのは肉と骨を切り裂いた感触。
その確かな感触にセフィリアは表情を歪め、
「あっぶなぁーっ!! まともに喰らってた死んでたよ」
「なっ!?」
粉塵を散らす強烈な風と、驚愕と安堵の声音が場を嘲笑う。
「ガッ!?」
「セフィリアッ!?」
夏子の悲鳴と共に体に走る灼熱感と、強烈な浮遊感。
―――――――――――――――バキバキッ!!
自分の体が奏でるぞんざいな音が耳に届く頃には、背後から轟音と共に砕かれる様な激しい痛みが襲い――――それを身に感じた時にはいつの間にか自分に前には床にへたり込んだ夏子がいた。
「ナツ……? ッ、ゴホッ!!」
「ハハッ、飛んだ飛んだ!!」
霞む視界の真ん中には自分と同じ金髪の死神が血で染められた顔で無邪気に笑っていた。
「いやー、右腕一本で済んで良かったよ」
今まで黒一色だった服は右肩から指先まで血に染まっていたが、
「全力で魔力障壁を張ったのにコレかぁ、それも魔力が回復してない状態でこの威力とは…………末恐ろしいね。まぁ」
てんで無傷の左手でパチンッと指を弾き、蒼い光が右腕を包むように一瞬だけ瞬き、傷が跡形もなく消えた。
「それがどうした? っていうだけだけど」
「あ…………っぁ、う……嘘」
夏子の怯えた声に体の悲鳴を無視し、
「ナツ、コ…………にげっ、て」
壁から抜け出し、『処刑人』を床に突き立て体を支えるセフィリア。
「逃げてみたら? 無駄だけど」
ジュマがもう一度指を弾くと今度は吹き飛んだ制服の右袖が復元。元の無傷な姿へと戻る。
「質問に答えて上げるね」
夏子の前まで歩み寄り、目線を合わせながらしゃがみ込む。
「話って言うのはね、君が殺された理由だよ」
「っ!?」
「ははっ、驚いてる驚いてる。いい顔だね」
今にも崩れ落ちてしまいそうな夏子の表情。そんな夏子をジュマがあやすように頭を優しく撫でる光景は不快以上に歪だった。
「くっ…………」
――――すぐに助けに行きたいのに、膝が笑って床に吸い付いてみたいに動かない、動かせない。
「君が死んだのは」
他者に絶望を突き付ける事への陶酔。心が壊れていく様を嬉々とした表情で望んだジュマの口元が自然に緩むのが見え、
「聞い……ッ!? ゴホッゴホゴホ!!」
聞いちゃ駄目、そんな一言すら叫ぶ事すらできず――――――言葉の代わりに出てきたのはドス黒い血。
「――――萩月君の所為だよ」
「なっ!?」
「君が通り魔に襲われて死んだ日、本当は通り魔に殺されるはずだったのは彼の方だったんだから!!」
「っ!?」
無邪気なんてほど遠い。遠目でもハッキリわかる、どこまでも残忍な笑顔。それと一緒に夏子の体が驚愕と震えた。
「あははははははははははははははははっ!! ビックリしたぁ?」
ジュマは自らの笑い声をバネに跳ね上がるように立ち上がり、
「ボクもビックリだよ!! 法術で人間を操ってみたけど、そう上手くいかないものだね。それに君はいつも彼の側にいたのかな? 君の魔力に彼の魔力が微かに混ざって、君を標的にしたみたいでさ………全く、困った話だよねぇ」
高揚する感情を抑え込むように右手で顔を覆い、それでも堪えられないと体を反らせて笑うジュマ。
「で、気分はどう? 自分が死んだ理由がわかってどんな気分なのかな? 彼が君の近くにいたから!! 彼が君と親しくなってしまったから!! 君は彼の代わりに殺されて、君が生きて過ごすはずだった日常も、幸せに溢れていたかもしれない未来も。彼が彼が彼が彼がっ!! 彼がいた所為で!! 彼が生きていた所為で!! 彼が存在していた所為で君はっ!!
「違うっ!!」
ジュマの陶酔に染まった凄絶な笑みを、恐怖とは違う感情に震える声が断ずる。
先程までの弱々しい姿が嘘だったかのように、揺るぎない意志を込めた瞳でジュマを睨み付ける夏子。
その姿にジュマは驚きに目を丸くし、
「な……に?」
理解できない、理解しがたいものを目の当たりにしたように言葉を失った。
「私が死んだのは凜の所為なんかじゃない!! 悪いのは全部あなたでしょっ!!」
怒りや虚勢とは違う、純で澄んだ心からの想い。
「ナツ、コ…………」
儚くも温かく力強い夏子の姿にセフィリアは胸に言い様のない熱と痛みを憶え、
「あなたが凜を殺そうとしたから、あなたが何の関係もない人を操って凜を殺そうとしたから!!」
夏子は自分の想いを押し出すように胸に手を添えて、全力でジュマを否定する。
「私が死んだのは凜の所為なんかじゃない!! 全部っ!! あなたの!!」
譲れぬ想いをありったけの声で叫び、
「あーあぁっ、つまんないの」
ジュマは理解できないものへの落胆が冷たく奏で――――その刹那。右腕を振り抜き、右脇にあった教室を粉々に吹き飛ばし、紅く染まった世界が顔を露わにする。
「ホントは彼が来るまで殺さないでおこうと思ったけど……なんかもういいや」
「な、何!?」
その呟きと共にジュマの影が伸び、夏子の四肢に絡みつき拘束する。
「あぁ、もう喋らなくて良いよ…………耳障りだから、さ」
陶酔は戸惑いから落胆へ代わり、嫌悪へと至る。ジュマは無関心を張り付けた表情で夏子の首に手をそっと伸ばす。
その光景はまるで飽きた玩具を捨てる子供の様で、いらなくなった玩具を壊す子供の様で――――悪い事を悪いとわかっていない子供がごく当たり前に悪い事する、といったそんな光景。
「いいよ、消えても」
「ナツ、コッ!! 逃げてっ!!」
ジュマの冷たい声音にセフィリアは夏子を救おうと両足に力を込めるが、それよりも早く夏子の首にジュマの手が掛かり――――間に合わないっ!! と、脳裏に夏子の首が握りつぶされる光景が浮かびかけた時。
――――ジュマの背後で空間が弾け、雷光が瞬く。
瞬間。夏子とセフィリアの瞳は驚愕に見開かれ、ジュマは背後に現れた巨大な魔力の気配に即座に振り向き、
「夏先輩から離れろおおおおおおおおおおおおおっ!!」
振りまき様に耳に突き刺さる咆哮と頬を貫く鋭い衝撃に、夏子を跳び越え荒々しい音共に着地する。
そしてジュマは痛む頬を押さえながら呆然と呟き、
「君、は…………」
「っ…………」
夏子は自分を護るように立つ少年の姿に、視界が滲み言葉が詰まる。
見慣れた紫色の髪と、紫と銀の左右色違いの大きな瞳。小学生にしか見えない華奢な体。
その華奢な体で振り抜いた右拳を戻し、一切の恐れも、迷いもないただ純粋で力強い面持ちで油断なく構え直す少年。
そんな少年の姿に夏子の頬を一滴の涙が伝い、
「アハハハハハハッ!!」
と、ジュマの嬉々とした笑い声が場に響く。
「っ!!」
その不快とも言える笑い声に少年はジュマを睨み付け、
「やぁ、待ってたよ!!」
頬を抑えていた右手を放し、出迎えるように両手を大きく広げ、歪な笑顔で喜々とした叫びを上げるジュマ。
「萩月凜!!」
狂気で満たされた世界に、歓喜がこだまする。