表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この家、ランカー出没注意  作者: Kai


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/4

カイの不遇

アメリカからの帰国便。フライト中も、視界には絶え間なくウィンドウがポップアップしていた。




『メッセージ 北斗星が「機内食はちゃんと食べたか?」「寝冷えするなよ」「アメリカの男には気をつけろ」と父親気取りで連投しています』



「ハァ、少しは休ませてくれよ、北斗様」



200年の付き合いだが、最近のこの神様は過保護がすぎる。俺はため息をつきながら、ようやく日本の我が家のドアを開けた。



「ただいま……」



だが、そこで俺を待っていたのは、家族の笑顔ではなく――銀髪のイケメン、世界4位のカイ・ステアリングだった。



「やあ、おかえり」



「っ!?」



反射的に、俺の右手が虚空を掴む。


星屑の粒子が収束し、漆黒の鎌『星裁』がその姿を現した。殺気がリビングに充満する。



「落ち着けよ。彰に話があって来ただけだ。彼はまだ『塔』から出てきていないようだけどね」



カイが肩をすくめたその時、背後からガチャリと音がした。



「ただいまー。あれ、お兄ちゃん? 昨日行


って、もう帰ってきたの?」



海が、不思議そうに俺を見ている。


そうだ。200年もの地獄を這いずり回ったのは俺と北斗星だけで、現実ではたったの1日。



「あぁ。これでも結構頑張ったんだよ」



俺は苦笑いして鎌を消した。


海は次に、リビングでくつろぐカイをじっと見つめる。



「ねえお兄ちゃん、そちらのおじさんは誰?」



「おじさん?」


カイの完璧な笑顔がピキリと固まる。



「失礼なガキだね。私はまだ32歳だ。おじさんと呼ばれる筋合いはないよ」



「えー、でも30代ならおじさんだよ。ねえ?」



海の無邪気な一撃に、カイはかつてないほどのダメージを受けているようだ。



『メッセージ:北斗星が「海、もっと言え! よくやった!」と爆笑しながらエールを送っています(海には見えていない)』




「悪いなカイさん。帰るならさっさと帰ってくれ。ここは一般人の家だ」



追い出そうとした俺に、カイは懐から札束の束――厚い封筒を取り出し、テーブルに置いた。



「いや、しばらくここに住ませてもらうよ。宿泊代だ」


その瞬間、海の目がキラリと光った。



「お兄ちゃん! このおじさん、いい人だよ! これで新しいゲーム機買えるもん!」



「金に負けるなよ、海」



俺の200年の苦労が、札束一つに負けた瞬間だった。



「ただいまー。あ? なんだよ、このじいさんは?」



ドアを開けるなり、次男の優がリビングにいるカイを指差して顔をしかめた。


海に続いて、優までもが。



「じいさん?」



カイの額に青筋が浮かぶ。



「いいかい、君たち。私はまだ32歳だ。世界で最も美しいハンターにも選ばれたことがあるんだがこの兄弟、揃いも揃って口が悪すぎないか?」




『メッセージ 北斗星がスタンディングオベーションをしています!』



『メッセージ 北斗星が謎の重低音(BGM)を流し始めました!』



北斗星のテンションが、ついにリミッターを越えたらしい。


視界のウィンドウが激しく点滅し、リズムに合わせた文字が踊り出す。



『メッセージ 北斗星のラップバトル開始(Yo!)


「見た目は派手だが、中身はおっさん!(Yeah!) 30過ぎたら、もはやじいさん!(Say Ho!)」』



「え、お兄ちゃん、なんか聞こえる?」



海がリズムに合わせて首を振り始めた。覚醒者じゃないはずなのに、北斗星のノリが魂に直接響いているのか。



「見た目は派手だがー、中身はおっさん~♪」



「30過ぎたら~、もはやじいさんー!♪」



優までキレキレのダンスで加勢し始めた。


世界4位、ハリウッド俳優、最強の魔術師……そんなカイ・ステアリングの肩書きが、一般家庭のリビングで粉々に砕け散っていく。



「あっ、頭が……頭が痛い……」



カイは震える手で、テーブルに置いてあった友の「頭痛薬」をひったくると、水も飲まずに流し込んだ。



「大丈夫か、俺。あんな恐ろしいゲートをいくつも潜り抜けてきたこの俺が、なんでこんなガキどものラップに殺されかけてるんだ……?」



白目を剥きかけるカイを横目に、俺は遠い目をして北斗星のウィンドウを閉じた。



「ただいま。ん、誰だその男は?」



買い物袋を下げて帰ってきたのは、わが家の家事全般を仕切る「友」だった。リビングで魂が抜けたようになっているカイを一瞥し、友は迷わず予備のエプロンを投げつけた。



「ちょうどいい。人手が足りなくて困ってたんだ。お前それ着て手伝え」



「えっ? いや、私は料理なんて……」



「居候するんだろ? だったら働け。ほら、玉ねぎとキュウリのスライスだ」



世界4位の魔術師が、友の放つ「主夫の威圧感」に押され、震える手でエプロンを締めた。今夜の献立は、チョレギサラダに餃子、そしてうどんだ。


俺はソファで海と優とゲームをしながら、その光景を眺めていた。



「大変だな、カイさん」



「お兄ちゃん、よそ見してると負けるよ! ほらっ!」



「ああっ、優! ずるいぞ!」



「勝者は俺! 今日のデザートは俺のものだー!」



優がコントローラーを掲げて勝ち名乗りを上げる。海は「もう一回!」と悔しそうに地団駄を踏んでいる。修行中の地獄に比べれば、こんな負けすらも愛おしい。


やがて、カイが涙目で(玉ねぎのせいだと言い張っていたが)完成させた料理が並び、男ばかりの夕食が始まった。



「美味しい! このチョレギ、じいさんが作ったの?」



「……じいさんと言うな。精一杯、均等にスライスしたんだ」



カイが疲れ切った顔で自分のデザートに手を伸ばそうとした、その時。


海が、カイが目を離した隙を狙ってスッとスプーンを伸ばした。



「海。こら、それはカイさんのだろ」


友の鋭い指摘が飛ぶ。友は料理も作るが、しつけにも厳しい。



「ちぇー、ケチおじさん……」


叱られて口を尖らせた海が、俺の腕の中に飛び込んできた。



「お兄ちゃん、慰めて~! お腹空いて死んじゃうー!」



「はいはい、俺のを半分やるから。よしよし」




『メッセージ 北斗星が私も食べたい……と恨めしそうにエプロン姿のカイを睨んでいます』



騒がしい弟たちの声、友の冷静な突っ込み、そして場違いな最強ハンターの溜息。


200年、たった一人で戦い抜いた先に、この場所があって本当に良かった。



「……まったく。本当に幸せだ、俺は」



翌朝



リビングには、絶望と怒りが入り混じったような重苦しい空気が漂っていた。


日本のエース、彰が『塔』の16階攻略に失敗し、ボロボロの状態で帰宅したからだ。




「最悪だ。あと一歩だったっていうのに……」




彰が苛立ちながらリビングへ足を踏み入れる。だが、そこで彼が目にしたのは、あろうことか自分のベッドを勝手に使い、優雅に二度寝を満喫している銀髪の男だった。



「は? なんでここにカイ・ステアリングがいるんだ?」



世界ランク4位。かつてのライバルであり、今は鼻持ちならない「お高い男」。


攻略失敗のストレスに、プライベートな空間を侵された怒りが加わり、彰の理性がプチリと切れた。


彼は手近にあった淹れたての紅茶(しかも熱々)を手に取ると、迷うことなく、眠っているカイの股間めがけてぶちまけた。




「……っ!? 熱っ!! な、なんだ、攻撃か!?」




飛び起きたカイは、濡れた股間を押さえて狼狽する。そこへ、たまたま目を覚ました末っ子の海がリビングにやってきた。



「あ……お兄ちゃんお帰り。あれ? そのおじさん、お漏らししたの?」



彰が冷徹な声で追い打ちをかける。



「ああ。世界4位ともなると、寝ながらお漏らしするのも一流らしいぞ、海」



『メッセージ:北斗星が腹を抱えてのた打ち回っています!


「ギャハハ! まじかよ! 世界の色男がお漏らし(笑)! 歴史的瞬間だな! 録画機能はないのか!?」』



「違う! これは彰が……!」



必死に弁解するカイだったが、運悪く(あるいは運良く)そこに長男の友が現れた。




「朝っぱらから、何を騒いでるんだ」



友の背後に立ち上る、静かな、だが逃れられない「怒り」のオーラ。


数分後、リビングには正座をさせられた彰と海、そして頭に巨大なたんこぶを作った二人の姿があった。




「彰。いくら苛ついてるからって、客人に熱い紅茶をかけるのはどういう教育だ。海も、面白がって囃し立てるな」



「……だって、悪いのはこいつだぞ」



彰が不満げにカイを指さす。完全に八つ当たりだが、ブラコンの彼は弟たちの空間に他人がいるのが許せないらしい。



「そうだよ! こいつがここにいるのが悪いんだもん!」



海も彰にぴったりと寄り添い、一緒にカイを睨みつける。この二人は、海または彰を愛するあまり、他の男に対しては異常に排他的になるブラコンなのだ。



「君たち、さっきから私の扱いがひどすぎないか?」



股間を拭きながら、世界4位のハンターは本気で泣きそうな顔で、友から渡された雑巾を受け取った。



俺はそれを見ながら、昨日届いたばかりの新しい「神の腕」をそっと隠した。



(……攻略失敗した彰に、俺が200年修行して爆上がりしたなんて、今はとても言えないな……)



「海ぃぃ! 寂しかったぞ、お前の兄貴が帰ってきたぞ!」



正座の罰が解けた瞬間、次男の彰が猛烈な勢いで末っ子の海に飛びついた。


たった三日の不在。それなのに、まるで一生分の再会を惜しむかのように、彰は海の頬や額に連続でキスを浴びせ始める。



「んもう、彰兄ちゃんやめてよ~! くすぐったいってば!」



海は嫌がっているふりをしつつも、嬉しそうに声を上げて笑っている。


その様子を横で見ていた世界4位のカイは、雑巾を持ったまま呆然と立ち尽くしていた。



「ねえ、俊宇。君たちは……本当に血の繋がった兄弟なのかい?」



俺は呆れ顔で首を振った。



「いや、俺は同居人だよ。まあ、自分じゃ家族だと思ってるけどな」



「同居人……? それでこの距離感なのか」



カイが戦慄するのも無理はない。だが、俺にとってこの家は、血の繋がりなんて関係ないほど、魂に深く刻まれた帰るべき場所なんだ。


その時、三男の優が無表情のままスマホを構え、シャッターを連発した。


カシャッ、カシャカシャッ!



「優……お前、止めるどころか撮影してるのか?」



「記録だ。彰兄が塔で理性を失わなかった証拠でもあるし、何より後で交渉のネタになる。俊宇、お前も一枚いるか?」



「いらないよ、お前も大概だな」



その時、キッチンから鋭い声が飛んできた。



「お前ら! 朝飯だって言ってるだろ、いつまで遊んでるんだ!」



長男の友だ。


お玉を構えたその威圧感に、彰も優も一瞬で背筋を伸ばした。



「友兄、ごめん……」



「カイさんも、突っ立ってないで皿を並べて。はい、動いた動いた!」




『メッセージ 北斗星が「いいね! 友のリーダーシップ、嫌いじゃないぞ!(笑)」とノリノリで友の肩(見えない)を叩いています、それにパパに甘えていいんだぞ』



だから前はパパじゃないって



「あぁ、もう! 暑暑苦しいんだよ、お前ら!」



俺は北斗星のメッセージを無視して、海を独占しようとする彰を引き剥がしにかかった。


200年の修行で得た「神の腕」の力。それを、まさか「血の繋がらない兄を引き剥がす」ために使うことになるとは。



「離せ俊宇! 血は繋がってなくても、俺と海の愛を邪魔するな!」



「いいから座れ! 友兄に怒られるだろ!」



カイはそんな俺たちの喧嘩を見ながら、またテーブルの頭痛薬を手に取っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ