【Lv.178 η: 京都の夢】
扉を開けて来た先へ待っていたのは玄関だ。
古民家を感じるような雰囲気だ。
木の床が敷かれていて、近くに受付場と管理事務所らしき場所が見える。
梅の花が花瓶に挿されており、その花は綺麗に咲いている。
靴置き場がないので、靴のまま上がる所のようだ。
少し違和感を感じつつもお邪魔する。
廊下は人1人通れるくらいの狭さで、長さは見渡す限りかなりありそうだ。この廊下を通じて色んな部屋に行けるようだ。
廊下を歩き少ししたところの客室の扉が開いており、誰かの荷物らしき物も見えない。
今日はここに泊まろう。
その部屋に入り、靴箱に靴を入れて扉と鍵を閉めた。
その広さはとても大きい。
数人が泊まって寝るには十分すぎる部屋だ。
床は畳で敷き詰められており、襖が1つある。
その襖を開けると、1人で過ごすにはぴったりな客室が出てきた。
なるほど、ここは休憩場みたいな場所なのか?
どちらにせよ、泊まって寝て過ごすには、最適な場所とも言える。今日はゆっくり身体を癒す為にも此処に泊まろう。
テレビはなさそうだが、なくても良い。
窓から見える景色を目にやると、中庭が見える。
草木が生い茂る日本庭園のようで広さはすごく広い。
梅や桜等が咲いており所々に深い茂みも生えている。
小さな川が流れており何処かへと続いているようだ。
庭園の中に更に何か見える。目を凝らしてよく見る。
あれは…温泉?
温泉!?
庭園の中に温泉が存在している!?
生きてきた中でそんな温泉は見た事ない!
温泉には何かの花弁が浮いている。
幸い、誰も入っていない。
その近くに更衣室でもあれば良かったのだがなさそうだ。
…いや、これだけ多くの木や草がある。
人が1人隠れられる場所もあるかもしれない。
部屋から庭園へと出て、周りを見る。
温泉の近くの所に運良く、誰にも見られなさそうな生い茂った草の群れがある。
あそこでなら着替えられるかもしれない。
ササッと隠れて簡素な服を脱いで、服をそこに隠して温泉へと身体を沈める。
…
…心が、身体が、ポカポカと温まる…。
少し熱めのようだが今はそれさえも心地良く感じる。
温泉自体に入ったのは一体何年ぶりだろうか。
今までの中で1、2番を争う程嬉しい事はなかっただろう。
今、この身に起きているのは本当に夢ではない…?
頬を何度もつねったり、頭を小突いてみた。
痛みを感じるし夢から覚めるような前触れもない。
本当に温泉に入っているんだと分かり、口元まで温泉に浸かる。
ブクブクと泡を出しながら、これまでの事を考えた。
この世界で一度は死んでいるのは事実。
だからこの身体が本当に自分のものか分からなくなる時がある。しかし疲労感を感じたり、食べ物を味わえたり、痛みが襲ったり、感情が微かに動く事もある。
もし地球に帰る事が出来たら何をしようか。
この事を日記に書き留めようか。
それともノンフィクション小説として書いて世界に発信を試みようか。
はたまたこの事を忘れて、普段の生活に戻ろうか。
それとも…
色々考えたが結果はまとまらなかった。
結局分かったのは、一度は死んでいる事だ。
そして何かしらの方法で生き返っているのも確かだ。
自分とは一体何なのだろうか―
…どれくらいの時間考えていたか定かではないが、お腹がすいた。
そういえば此処はご飯は出るのだろうか。
沢山食べても時間が経てばお腹は自然に空腹になる。
人間というのは、不思議な生き物だ。
服を脱いだ場所で着替えて、中庭に置かれていた素朴な木材のベンチに座る。
涼しい風に当たりながら、目を閉じて様々な事を考える。
何を考えているかは貴方次第であり、答えを見つけられたかも貴方次第である。
何にも邪魔をされずにゆっくり答えや考えと見つめ合い、深く自分を知る時間にしても良い。
今の自分を見てくれるのは、自分だけだ。
貴方の答えは 見つかったのだろうか?
見つかっている事を祈っている。
少し頭が冷えたところで部屋に戻った。
そういえば食堂はあるのだろうか。
廊下に出てみて探すとしよう。
少し右の方の部屋から、賑やかな声が聞こえる。
他のお客がいるのだろうか。
廊下を歩いて400m程だろうか。
襖が開いて声がする。
声がする方を覗いてみるとそこは大広間のようで、食事席が設けられている。
ざっと100人以上の席があるようだ。
ここも床は畳で敷き詰められているようだ。
半分程はお客で埋められているが、まだ空きはあるようだ。
空いている席に座ると、すぐに食事が運ばれてきた。
よくある和食のようで、ご飯や味噌汁、お刺身等が並べられていた。
いただきますと呟きご飯を一口食べる。
ふわふわしてお米の甘味が口の中に広がる。
ご飯とは本来こういう味なんだと再認識する。
味噌汁も赤味噌を使用しており、具材に豆腐とワカメが入っているシンプルな味噌汁だ。
マグロやサーモン、イカなど色んな海の幸が刺身となっている。1つずつ食べていく。
懐かしい味がする。
魚自体を食べなかったのはそんなに日が経っていないはずだが、それでも美味しく感じるのは、やはりこの世界にいるからだろうか。
心ゆくまで料理を食べて楽しんだ。
お腹いっぱいになり、休憩してから満足そうにお腹をさすりながら大広間を出る。
自身が今日泊まる部屋に戻ると、広い部屋の方に敷布団が敷かれていた。なんてサービスが良いんだ。
窓から外を見ると、月が出ていた。もう夜だ。
これに甘えて今日は寝る事にした。
沢山眠れるのはこの先あるか分からない。
寝巻きに着替えて布団に入り横になる。
月が綺麗に輝いていた。
その輝きさえも優しく照らしてくれる温かな存在に思えた。安心感から来る眠気か、5分も経たないうちに眠りにつく。
その寝顔からは、どこかちょっとだけ笑っているようにも見えるかもしれない。
ゆっくり眠った…
心休まり目覚める時まで眠った…
やがて目を覚ます。
窓から降り注ぐ朝の日差しで目が覚める。
昼夜のサイクルはあるようで、その日差しは暖かい。
背伸びをして布団から出た。
一通りの朝のルーティンを行い、昨日ご飯を食べた大広間まで足を運ぶ。
今日も何か出るかなと少し期待もあった。
その足取りはどこか軽い。
大広間について中に入ると、何人かお客がいる状態だった。
昨日と同じ席に座ると、朝食が運ばれてきた。
炊き込みご飯に味噌汁、焼き魚に漬物、飲み物に温かいお茶が目の前に並べられる。
どれも出来たてのようで、ホカホカと湯気がたっている。
いただきますと呟き、まずはゆっくりお茶を飲んだ。
心がポカポカする。
生まれ育ちも日本で良かったと思う瞬間だった。
ただのお茶を飲んで感動するなんて、傍から見たら謎に思う人もいるかもしれない。
これで微かに幸せを感じられるのは、自身の長所だ。
そこからはゆっくりご飯を食べていった。
どれも味付けは好みであり、こんな味を再現出来たらどれだけ朝の始まりが素敵になるのかと考えた程。
食事はやはりこうでないと。
朝からこんな贅沢な朝ご飯を食べられている事自体が信じられないと思う。
朝食を食べているこの瞬間、幸せそうな顔をしていたかもしれない。
お腹いっぱいになって、休憩してから大広間を出た。
朝から沢山食べられた事に感謝をしながら、部屋は他に何があるか見てみる事にした。
廊下に出て、泊まった場所と反対方向に進む。
大抵は客室であり、どこもお客がいる状態だ。
大広間にお客が少なかったのも、客室で過ごす人が多かったからかとも納得した。
新しい部屋がある。
ガチャガチャと料理器具を鳴らす音がする。
ここはどうやら炊事場のようで、ここで料理を作っている人がいるようだ。料理人が何人かいるようで、それぞれ担当が決められているのだろうか?
通りすがりに中をチラッと見て、はっきりとは見えなかったが、氷と書いてある部屋があるようだ。
魚や冷蔵保存する物を入れたりする、冷蔵庫の代わりのような場所なのだろうか?
美味しかった事に変わりはない。
心の中で感謝をした。
少し進んだ先に【遊技場】と書かれた部屋がある。
扉は閉まっており【OPEN】の小さな看板が掛けられている。
宿泊施設と言えば、小さなゲームセンターがあったりするよな…なんて思いながら、何となくその扉に手をかけて中を開けて入っていった。
【OPEN】▶︎https://ncode.syosetu.com/n9780lt/54/




