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【The Back Rooms】  作者:
13/55

【Lv.17η 静寂あるいは喧騒の森】

昨日はテントの中で1晩過ごした。

うっすら目をあけると、眠りにつく前にはなかった物資が複数傍に置いてある。ゆっくり確認する。

 

・懐中電灯

・電池

・木の実?(麻袋の中に入っている)

・アーモンドウォーター

 

懐中電灯の中に、電池を入れてスイッチを押す。

カチッという音と共に光が放たれた。

問題なく使用出来るようだ。


麻袋の中に入っている木の実を1つ口の中に入れる。

…苦味を感じる。口には合わない。

麻袋の中にある残りの木の実を、全部外に捨てた。

麻袋を袋入れにしようと、アーモンドウォーターを麻袋の中に放り込んだ。


 

袋と懐中電灯を持って、テントの外に出る。

真夜中だが満月がぼんやりと光を放っている。

懐中電灯を使って照らすと、緩やかな丘がいくつかあって、遠くの方には微かに滝が見えている。

森を背にして景色を見ているが…しかし、此処は空気が乾燥しているようで、気温も少し高い。

蒸し暑いというわけでもないが、良い気分にまではなれなかった。


森側の方に照らすと、古びた小屋が見つかる。

ポツンと寂しく建っている。

一旦小屋の方に向かい進んでいく。




小屋は古い木製(丸太だろうか?)のようで、全体がボロボロになっている。窓はあるが、左右に1枚ずつ付いているだけ。扉に手をかけると、音を発する事無く静かに開いた。

 

小屋の中には古びた小さな机と椅子。

机の上に何か本らしき物が置いてある。

他は特に気になる物は置いていない。

休憩しながら読む事にして、袋の中からアーモンドウォーターを取り出して、ゴクゴクと飲む。

本らしき物を手に取り中を見る。


どうやら古びた手記のようだ。

 

 

《私の手記が置いてあるという事は、もう私は此処には居ないという事。此処の出来事について、仲間から聞いた情報と、私が考えた事を簡潔に纏めておくものとする。此処は太陽が昇らない。ずっと夜。月は関連しているようで、満月に近い時は空気の乾燥、温度が高くなり、音も無く静かになる。新月だと魔物が活発するようだ。たまに何かの遠吠えも聞こえてくる。今読んでいる君、月の状態は確認したか?新月・又は新月に近い時は、扉のロックを怠るな。森と天気がレベル移動をするキーになっているようで、それぞれ行先が違うようだ。どこに繋がるかまでは…。》

 

 

探索者の手記がボロボロ状態ではあったが残されている。窓から外を様子を確認すると、ほぼ満月であり、小屋に来る前と変わらず晴れている。

 

《これは噂話だが、たまに此処は満開の桜が何処かで見られ、桜の木の下で穴を掘るとレベル移動をすると聞いた。あくまでも噂だから鵜呑みにしてはならないが。探索するなら頭の片隅に入れていてほしい。》

 

そこで途切れていた。

移動方法は分かったが、この桜の事は気になる。

手記を元あった場所に戻して、袋と懐中電灯を再び持って小屋の外に出た。



外は変わらず月が優しく包み込むかのように照らしている。今思うと、草のガサガサッみたいな音や、木の葉同士が擦れて鳴る音が聞こえてきても不思議では無いが、そういう音も一切聞こえない。


すごく静かなのだ。

足音や何か触ったりする時には音は聞こえるので、かき消されているわけではないようだが。

 

小屋を後にして、少し前に見つけた滝があった方へ向かう。

この辺りにあったはずだが…

懐中電灯は███の動きに合わせて、あっちこっちへ首を振る。やがて姿を現す。

現れた景色に驚いたと同時に目を奪われた。

 



光に照らされた滝は美しく、けれどもどこか儚さを身に纏っているような雰囲気が残っていた。

まだ誰も秘境の地に足を踏み入れていないかのような…探検をして秘密の…内緒の場所を発見したような気持ち。

見た事ない花が所々で小さく咲いており、その花からも華麗さが一目見て分かる。花の近くから出てきた、優しく小さな光がふわっと舞っては、ゆっくり空に消えていく。


綺麗な景色と言えば?と問われ、様々な答えが返ってくると思うが、もし、そう問われた時には真っ先にこの滝の事を思い出すだろう。

星空とはまた別の綺麗さが、目の前に広がっていたのだ。

 

滝をうっとりと眺めていると、ある景色に気づいた。

滝の遠くの場所に、別の何かが光っている。

それは薄ピンク色に輝いており、風に吹かれて時々揺れている。

あれが手記に書かれていた桜なのだろうか。

足元に気をつけながらその場に向かう。



懐中電灯はなくても、道が見えるくらいにその薄ピンクの光は遠くまで光を放っていた。

5分程歩いた時に、薄ピンクの光の正体は急に前に姿を現す。

 

 

煌びやかに靡く桜は、大木の姿で出迎えてくれた。

自身の身長の何倍、何十倍も大きい。

桜の下から顔を見上げると、空はキラキラと輝く桜や花びらで覆い尽くされていた。こんな風景はおとぎ話や架空の世界のものばかりと考えていたが、今こうして目の前に現れると、言葉で伝えるのも申し訳ないくらいだ。

絵で描き表して残しておきたかった。

だが才能がないので諦めて、ただただこの桜を目に焼き付けて忘れないように何度もその瞳に映していた。



いつまでもこの場所に留まりたかった。

死ぬのも分かっているのならば、綺麗な場所で誰にも迷惑をかけない場所が良かった。

しかし死んでもまたこの世界に戻されるのも予想がつく。地球にやり残した事もたくさんある。

此処で息絶えるのは後悔全て無くしてからにしよう。



ふと手記に書かれていた事を思い出す。

確か桜の木の下で穴を掘ると移動するとか…

あはは、そんなまさか。


袋と懐中電灯を近くに置く。

軽い気持ちでその通りに穴を掘ってみる。

15cm程掘った後に手に着いた土を落とそうと、手をズボンの太もも辺りにパンパンと叩いて土を落としてから前を見る。

 

 

さっきまで確かにそこにあった大きな大きな桜は、幻だったかのように消えている。

暗い暗い森の中にポツンと、穴を掘っていた所には静かに寂しくただそこに誰かのお墓が建てられており、それに向き合っていた。


あの時の荷物はどこかに消えていた。

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