明日
一応処女作です。めっちゃ下手ですが短いのでよかったら読んでみてください。
「……嘘だろ」
自分の身に起きたことがいまだに信じられない様子で、少年は駐輪場の前で絶句した。三月下旬、春の季節の訪れなのに、まだ冬の寒さが足跡を残している時期に、高校三年生リンは、今、絶賛タイムリープ中だ。
ふざけているわけではない。これは実際、今リンに起きていることである。遡ること少し前——。卒業三日前を迎えた今日、リンは授業が終わった後、生徒会長としての最後の仕事を行なっていた。まあ最後の仕事といっても卒業式の準備や事務処理などはあらかた終わっており、やり残しがないか最終チェックをするみたいな感じだったのだが。作業がかなり早く終わり、他の生徒会メンバーと少し談笑した後、荷物を持ちリンの自転車が停めてある駐輪場へ向かった。そこから自分の自転車を取り出し、鍵をかけ乗り出し正門へ走る。リンは自転車を漕ぎながら、意図もなく振り向き、感慨深く背後の校舎を見上げた。
「……あと三日でここともおさらばか」
囁くように言った言葉は風と共に消えて行き、正門を潜り抜けた瞬間。
逆行する帰り道に足を踏み入れた。
「……これで何回目だ?」
そんなこんなで冒頭に戻る。何の前触れもなく起こったタイムリープ現象に、リンは立ち向かっていた。無論、最初はリンも困惑していた。だが、持ち前の頭脳と冷静さで自分の身に起こった事態を把握し、タイムリープから脱出する道を模索して様々な方法を試していた。正門からではなく裏門から出てみたり、自転車ではなく徒歩で出てみたり、後ろ歩きで出てみたり。思いつくことは些細なことでも片っ端から試した。すごいね。しかし何度やっても抜け出すことはできず、ループの法則性も見つけることもできなかった。
「くそ。流石に何十回も時間を逆行し続けると精神的にきついな。生徒会長として情けない……いや関係ないか」
ずれ落ちているメガネを掛け直し、改めて状況を整理する。今までのタイムリープで判明していることは三つ。一つ目はループが学校の校門(正門裏門問わず)を潜る瞬間に発動すること。二つ目は学校の敷地内から出ずに約4分とどまっていると、強制的に駐輪場の前に戻らされること。三つ目はこの無限地獄にリンの心が折れかけていること。以上。
「これなら生徒会で大量の事務処理に追われた方がまだマシだな。もういっそ学校に住み込むか……ああいやダメか4分くらいで駐輪場戻されるんだった」
はあとため息をつき、重い腰を休めるようにその場に座り込んだ。負の感情と愚痴が頭の中でぐるぐると回り、途方に暮れた。
「……ん?」
しばらく悩んでいると、リンは自分の目の前にある一本の木の枝が落ちていることに気づいた。それを片手で拾い、なんとなくまじまじと見つめた。普通の枝だった。太さはリンの小指よりもひと回り小さく、ちょっと力を加えれば折れてしまいそうな枝だった。
「……」
ずっと見つめているうちに、リンは何かを思い出しそうになっていた。何だっただろうか。そんなに昔のことではなかったような……。記憶を探っているうちにリンは立ち上がり、まるで模範解答を辿るかのように木の枝を持ったまま正門に向かった。
「まさかな」
独り言を呟き、自然な動作で正門をくぐる。すると、今までの時間逆行の苦労が嘘かのように何も起こらなかった。
「……え!?」
初めてのループの時以上にリンは動揺した。何でループが起こらない? 何かがタイムループを抜け出すトリガーになった? まさかこれ? 木の枝? 何で木の枝? 持って校門通っただけなのに? 様々な疑問が生じたが、今はこの学校内から出ることが先決だ。そう即座に判断し、学校を後にした。
「何だったんだ一体……?」
その後、文字通り時間の檻から脱出したリンは軽い足取りで歩みを進めていた。永遠とも思えたループから脱出できたある意味今まで感じたことのない幸福感を得ているのだった。だが、この幸福が束の間の休息だったということを、リンは数十秒後に気づくのだった。
「……またかよ!」
はいお約束でした。
二回目の曲がり角を曲がろうとして足を踏み入れた瞬間、またしても時間が逆行してしまった。希望から絶望に逆戻りしたかと思ったリンだったが、前回のループとは明確に違う点が一つあった。それは、ループで戻された場所が駐輪場の前ではなく曲がり角の手前だったのだ。前回の展開と同じじゃないことに安堵しつつも、根本的には何も変わってないことを悟り、再び思考を巡らすのだった。
「さっきのループと何が違う? 単に方向を間違えた? いやでもここの道はいつも通ってるし。となると今回も要因は自分? 何かを所持するか身につけながら通らなきゃいけない? そもそも何かって何だ? 石ころ?」
ぶつぶつと独り言を放ちながら疑問を出し続ける。道路を歩いている近隣住民が怪しげなものを見るような目線で見てきていることにリンが気づこうとした時。
「何ボソボソ呟いてんの?」
可愛らしい明るい女子高生の声が聞こえた。
「どわっ!?」
突然話しかけられて驚きを隠せなかったリンは、咄嗟に振り向き背後に佇んだ姿に目を向けた。そこには同級生で友達のトキがいた。
「なんだトキか」
「いや驚すぎじゃない? それより道の真ん中で何ボソボソ言ってんの? まあいつものことだけど」
「失礼だな。いつもではないだろ」
「いやいやいつもだって。リンって考え事する時言葉漏れちゃうとこあるじゃん」
「よく見てるな」
「友達歴=高校の年数の私を舐めんなよー」
軽快な口調で笑顔を浮かべたトキを一瞥した時、リンは実家に帰ったような安心感を覚えた。まあその実家に今まさに帰っている途中なのだが。
「で、結局何してんの?」
早速本題を切り出してきたトキであった。
「あーえっと……」
流石にいきなり「タイムリープの脱出方法を探している」なんて口に出せず、リンは適当な言い訳を考えだした。その際またいつもの癖でぶつぶつと言葉に出さないように気をつけた。
そんなリンをじーっと見つめていたトキは、何かを思い出したかのようにハッとした。
「あ、もしかして昔やった遊び思い出してたの?」
予想してなかった返答がリンの耳に飛び込んできて首を傾げた。
「遊び?」
「あれ? 覚えてない? 高校二年の時くらいにやったじゃん。白線から足踏み出さないやつ」
「……あ〜」
リンは昔の記憶を掘り起こそうとしてようやく思い出した。確かにリンとトキは高校二年の頃の帰り道、この道ではないが一緒に道路に描かれてある白線の部分だけを渡るゲームをしていたのだ。かなり子供っぽかったことを覚えている。懐かしさに浸っていると、トキがリンに提案をしてきた。
「ねね。せっかくだからもう一度やってみない?」
「……え? なんでまた? やだよ高三にもなって」
「いいじゃんいいじゃん。なんか思い出したらやりたくなってきたんだもん。それじゃあやろうすぐやろう!」
「色々と急展開だな」
リンの話を最後まで聞かずに、トキは白線を渡りながら曲がり角を曲がり先に行ってしまった。やれやれと苦笑するリンも後を追うように進み、曲がり角を曲がった。その瞬間、全ての時間が巻き戻——————らなかった。
「……あ? え?」
咄嗟のことにリンの頭が追いつかなかった。まさかこんなあっさりとループから脱出できるとは思わなかったのだ。というかタイムリープをしていたことすら一瞬忘れていた。
「ほら何してんの? 行くよ」
「あ、ああ」
リンは現状に戸惑いつつも、今は先に進もうと足を動かした。
「なんか久しぶりじゃないこういうの? 高校に入ってから一緒に帰るのあんまなかったし」
「色々とごたついてたからな」
「部活忙しかったり学校行事に追われたりテスト勉強の徹夜しまくったり?」
「俺はちゃんと二十二時には寝たし成績もそこそこだったぞ。あとは直近だとやっぱ大学受験だな」
「それなー。マジ死ぬかと思ったもん。塾通いは疲れるしやりたいことは制限されるしお母さんとかはスマホ触っているんだったら勉強しろとか言ってうるさいしいいとこなしだったよ」
「でも行きたい大学には合格できたんだろ? 良かったじゃないか。」
「まあね。それはめっちゃうれしかった。人生大変なことばっかりじゃないね」
「それは何より」
「リンも受かったんでしょ? 行きたい大学」
「ああ、何とかな」
「それじゃあ私たちは勝ち組だー」
「あんまそういうこと大声で言うな。ほんと昔から思ったことすぐ口に出すよなトキは」
そう言ってケラケラ笑い合った二人は、その後も会話をし続けた。修学旅行で飛行機の便に乗り遅れそうになったことや登校中に自転車が壊れたこと、授業中に居眠りをしていたがそのときは先生が席を外していてホッとしたこと。そんな他愛もない話を交わし続けたが、不思議と二人はこの時間をとても心地よく感じた。
しばらくし、白線を律儀に歩きながら話していた道中。トキは若干寂しさを含んだ声色で呟いた。
「……また戻れたらな」
トキの力のない声を聞き、微妙な空気になったと悟ったリンは話題を逸らそうとした。
「そ、そういえば今日変なことが起きてさ。タイムリープっていうんだっけ。そのせいで全然学校から出れなくてさ。でもなんか昔の出来事を模倣? したら起こらなくなってさ。これってどういうことなんだろな」
「え?」
「あ」
完全に油断していた。話している最中に口を滑らすなんてアホにも程がある。早く誤魔化そうとしようとした時、先にトキの口が開いた。
「リンもそうなの?」
「……は?」
「え?」
衝撃の事実であった。
「……つまり、トキもタイムリープに巻き込まれていて、何度か体験して俺と出会ったってこと?」
「そうそう! 私も木の枝をこうプラプラ振り回しながら校門潜ったら起こんなくなってさ。ああでもそのあともう一回あったんだよね。帰り道にある交番の前でなぜかまた戻っちゃってさ。で、その時高2の時ぐらいに落ちてた財布を交番に届けたのを思い出して、もう一回交番入ってすぐ出るっていう謎ムーブをかましたらまた起こんなくなってさ。これってやばいよね」
洪水の如く流れ込んできた情報を必死に受け止めながら、リンはふと思い出したことがあった。それは高校1年生になって間もない頃、小学生みたいにおふざけ半分で木の枝を振り回してトキと一緒に爆笑しながら帰った記憶だった。これが最初のループと繋がっていたわけだ。我ながら昔はバカだったなと苦笑したリンだった。
「ということは、俺たち二人とも高校の出来事、いや思い出? を再現したら抜け出せたというわけか。でもなんでループなんか」
「……私が昔に戻れたらなんて思ったせいかな」
「え?」
トキは俯きがちに答えた。
「もうすぐ高校も四日で終わりじゃん? それで昔のこと思い返して懐かしんでて、ちょっと寂しくなっちゃって、それで……」
「そんな単純な……」
そう結論づけるには不確定要素が多すぎる。しかし今はそれしか判断材料がない以上、そう思うのも仕方がないのかもしれない。
確かに寂しいのはわかる。これまでの高校生活は楽しいことばかりではなかったけれど、友達は増えたし生徒会長とかやったことなかったことにも挑戦し、なによりトキにも会えた。本当に充実した高校生活だった。この、人生に一度しかない時間が過ぎ去っていくのはとても寂しい。でも、だからこそ。
リンはトキの肩に手を乗せ、目と目を合わせて告げた。
「高校生活が終わるのが寂しいんだったら、それ以上に楽しい時間をまた過ごせばいいさ」
「……え?」
「高校卒業したって大学があるし、そこでサークルとか入ったり夢見つけたり、大人になっても連絡取り合って酒でも飲み合えばいいんだよ。そうすれば楽しいで溢れかえって、未来も明るくなるだろ?」
「……それって、リンも一緒?」
「当たり前だろ。大学は別々だけどな」
精一杯の励ましの言葉を授けると、トキは俯いていた顔をあげ、ぱあっと満面の笑みを浮かべた。
「ハハ。うん。そうだね。リンも一緒なら安心だ。よし、では引き続き帰宅の旅を再開しましょー!」
「お、いつもの調子に戻ったじゃないか。ああでも、またループ起きたら面倒だな」
「そしたら二人で協力して攻略してけばいいよ。ほら、行こ?」
トキがリンの方に手を伸ばし、リンはそれを優しく、それでいて力強く掴み、また起こるであろうタイムループに立ち向かうように再び歩みを進め始めた。
しかし、その後時間が巻き戻ることは一度もなかった。
「……なんか拍子抜けだな」
「ね。まさかあのまま何も起こらずに家に着いちゃうなんて」
下校中に数回起きたタイムループは、時間そのものが巻き戻ることを忘れたかのようにピタリと病んでしまったのだ。それからリンとトキは自分たちの家の帰路につき、現在は良い子が寝る時間になっていた。いまだに不思議な感覚に浸っていた二人は、ベッドに横になり電話を交わしていた。その最中、疑問を解消しきれなかったトキはリンに尋ねた。
「結局何だったんだろうね? あのループってやつ」
「さあな。正直わけわからん」
疑問に疑問で答えたリンは、吹っ切れたように言った。
「まあでも終わったこと悩んでもしょうがないだろ。過去は振り返らないようにしようぜ」
「あはは。なにそれ? ちょっと前まであれだけ考え込んでたくせに」
途中から時間が戻ったことも忘れ、しばらく笑い合った。
「じゃあそろそろ寝るね。おやすみ」
「おう。おやすみ。……あ」
「どうしたの?」
トキが電話を切ろうとした瞬間、間の抜けた返事が携帯越しに聞こえてきた。
「やっべ。自転車学校に置いてきた」
「えー!? 今気付いたの?」
完全に迂闊だった。そういえば木の枝を見つけて校門に向かったとき自転車に乗ってなかった。ちょっとした後悔に苛まれているリンに、トキは気持ちを込めるように伝えた。
「明日があるんだから。その時取りに行けばいいんだよ。まだ学校、卒業してないんだし」
「……そうだな。明日もあるもんな」
「うん。残りの高校生活も楽しまなくちゃね」
「たった三日だけどな」
「コラそこ。じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
今度こそ互いに電話を切り、それぞれの眠りに着いた。
時刻は二十二時。
時間は、いつも通り前に進んでいた。
終
まずは読んでくださった読者の皆さんに心より感謝申し上げます。
多分粗ばっか目立った作品だと思いますが、それでも私が書いた一作目の小説です。
この小説が誰かに考察されたり好きになってくれたらそれ以上に嬉しいことはありません。
最後に一言。数多くある作品の中からこの小説を選んで読んでくださり本当にありがとうございました。




