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百物語をしていたら  作者: 北見剛介


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1話

百物語

部屋に100本のろうそくを立てて、すべてに火をともし、怪談を語る。話が終わったらろうそくを、一つずつ消していく。そして100本目のろうそくが消えた時、霊的なもの、怪異が現れる、というやつだ。閉め切った窓に風の音が当たって、不気味な音を立てている。いつもは少しぐらい部屋に入り込む街灯の明かりも、今日に限っては全く入ってこない。


「松田、お前早くやれよぉ。ここからが盛り上がるとこなんだから」

「わかったよ。じゃあ・・・・」


そうして弱弱しく、松田が話し始めた。なんかその話、さっきも聞いたような気がするぞ、というツッコミは呑み込む。しょうがない。怖い話しのストックが25個もある人間はそうそういないだろう。俺もさっき、頭の中で考えたやつ話したし。


最近プリン頭になってきた金髪、リボ払いで買ったという高級ブランドのネックレス、口からは常にたばこのにおいを垂れ流している橋本は、つまらなそうに松田の話を聞いていた。

おい!お前が百物語しようって言ったんだから、せめて興味を示すふりをしろ!!確かに全然怖くないけども。


「なるほどね・・・・」


本当に興味がある様子で話を聞いているのは、この百物語唯一の女性参加者、木本だ。黒髪で眼鏡をかけ、いつも同じ服を着ている。今日もいつもと同じ黒のTシャツとジーンズだ。工学部で主席らしいので、ひょっとしたらスティーブジョブズになれるかもしれないと、俺は思っている。


大体、なんで百物語なんだ。せっかくの夏なんだから、フローリング、テーブルの上、戸棚の上に、ところせましとろうそくを並べた俺のワンルームで百物語をやるよりも、海にでも行って水着のねーちゃんをナンパしたほうが百倍良い。


去年それを試みた結果、結局誰にも声をかけることが出来ず、帰りのレンタカーの中で涙をのんだ苦い記憶はあるが。それを吹っ切るためにも!今年こそはと、普段いかないような美容院に行って髪を整え、眼鏡をコンタクトに変え、多少の筋トレをして、いつ起こるかわからない女の子との出会いを待っていた。


そしていきなり橋本から呼び出された。これは絶対女がらみだ!!海か、それとも合コンか?あの性欲モンスターは俺を引きたて役として考えているに違いない。しかし、あんなたばこ臭いやつよりも俺のほうがいいはずだ。そうに違いない、そんな謎の自信をみなぎらせていたところ、蓋を開けたら百物語。拍子抜けもいいとこだ。今日参加したのは、一人ぐらしをしているという理由で、部屋を勝手に会場にされてしまったから。それ以外に理由はない。


これでもし、知らないかわいい女子が参加していたのなら、まだよかった。怖い話しをして、


「きゃー、怖い!」


なんて言って抱き着いてもらえる可能性が0.0001パーセントぐらいはあるかも知れなかったから。だがやはり現実は非情。松田は男だし、木本はもともと知り合いだ。

「おい。何ぼさっとしてんだ。お前の番だぞ」

やべっ、何も考えてなかった。

「じゃあ、昔の未解決事件の話を・・・」

これはもはや怖い話ではない気がするが、未解決事件にちょっとした心霊をつけ足せば

それっぽくはなるだろう。


「ある日、辺境の村で一つの殺人が怒った・・・」


そうして話し始めてみたものの、やばい、自分で話しても相当つまらないのがわかる。見れば橋本も、松田もなんとも言えないような表情をしていた。俺にはわかる、これはあくびをこらえているときの顔だ。


「へぇ、それで、それで?」


ありがとう、木本。初めてあった時、胸が大きくないとか、がり勉の高校生みたいとか、心の中でつぶやいてごめん。あなたが反応してくれるから、俺はぎりぎりこの場から逃げ出さずに済んでいる。

木本の助けもあって、どうにか話をまとめることが出来た。残るろうそくはあと二つ。百物語は99個目の話で終わらせるのがセオリーだ。一応、本物の怪異が出てくるのはまずい、ということらしい。


「じゃあ、最後は俺な・・・」


最期に橋本が話し出した。


「昔、俺の家の近くには古い祠があったんだ。田舎だったら、そんなに珍しいことじゃない。でもな、あの祠は少しおかしかった。畑のど真ん中にあったんだよ。おかげで農作業はしずらいし、その近くには野菜も植えられないし。本当困ってた。でも、なぜか親もじいちゃんもばあちゃんも、その祠を移動させたりはしなかった。かといって熱心に手入れをしている、とかでもない。ある日の夜、何人かが家から出て行く音が聞こえた。で、俺はその後を追ってみた。そしたらな、祠のとこで親とばあちゃんとじいちゃんが熱心に祈ってたんだよ。何を祈ってたのかはわからなかったけど、とにかくそんなことをする意味が分からなくて、すげぇ怖かった。もしかしたら豊作を祈ってたのかもしれないし、人の死とか、そういうのを祈ってたのかもしれない。でもな、結局何も起こらなかったんだよ・・・」

「それならいいじゃん」

「よくねぇよ。ひょっとしたら俺が知らないところで、呪いで人が死んでるのかもしれないとか、うちの畑が広くて毎年豊作なのは、何かを犠牲にして得たものなのか、とかいろいろ考えちまって」


正直、そこまで怖い話だとは思えなかった。確かに、実際に自分もそんな場面を目撃したらビビるだろうけど。


「じゃあ、これで終わりだな」


橋本がろうそくを消すと、残るろうそくは一本だけ。ゆらゆら、ゆらゆらと火が揺れている。それに合わせて、俺たちの影も伸びたり、縮んだり。先ほどまで、怖い気持ちなどみじんもなかったはずなのに、得体のしれない怖さが湧き上がってきた。なぜかその状態が5分ほど続いた。


「もう終わりにしようよ。99話目で終わりにしようって話だったでしょ」


松田が明らかにおびえた声で言うと、俺はすぐに明かりをつけ、最後のろうそくを吹き消した。


「じゃ、俺は帰るわ」


橋本がいつものけだるげな雰囲気を醸し出しながら出て行くと、松田もそそくさと部屋を出て行った。お前ら、せめてろうそくの片づけぐらいは手伝え。

今度会ったら文句を言おうと決めた。


「手伝うよ」


「ありがとう」


木本、お前は本当にいいやつだ。今度昼飯でも奢ってあげよう。


「最後の時間、怖かったね」

「確かにな。なんか動けなかったんだよ」

「松田君が声上げてなかったら、ずっとあのままだったかも」

「それこそ幽霊が出てきかもな」

「やめてよ。そんな怖いこと」


声が一オクターブほど高くなり、こちらをじろりとにらんできた。本当に怖かったんだな、すまん。


片付け自体は、二人でやったこともあってか割とすぐに片付いた。ありがとう、また学校でな、と木本を見送ろうとしたが、木本は持ってきたリュックサックから寝袋を取り出している。


「なんだそれ?」

「言ってなかったっけ。私今日ここ泊まるよ。歩いて帰れるあの二人とは違って、私は電車だから。まだ始発動いてないし」

「待て待て待て待て」


聞いてないぞ木本。なんでお前はさも当然のように、そんな重大なことをぶち込んでくるんだ。


「まぁいいじゃない。6時間ぐらい寝たら帰るから」

そういう問題じゃない。男にとって女子が家に泊まるということの重大さを理解していないのか、こいつは。

「なら始発で帰って家で寝ろ」

「・・・・・・・・・」


寝るのが早すぎないか。先ほどまでしゃべっていたとは思えないほど、気持ちよさそうに寝息を立てている。まぁ、しょうがない部分もある。何しろ夜中ぶっ通しで百物語をしていたわけだし、木本自身、そこまで徹夜に慣れているタイプではないだろう。


「俺も寝るか」

俺も案外疲れていたらしい。一度布団に入ると、すぐに寝てしまった。



何か違和感がある。いつもの床とは少し違う、固い感触。それにいつもより寒い。まるで、外にいるみたいな・・・・

外だ!!


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