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君がいる街  作者: 文記佐輝
謎集い
8/16

八日目『現実ではない世界』

いつもよりも早く、僕は目を覚ました。

ー琉海

「…昨日は…、何をしてたっけ…」

まただ、記憶がない。

そしてまた、僕の身体は急激に重くなる。

二日前と同じような状態。

いや、あの日よりもかなり酷い状態。

吐き気が身体の底から溢れ出そうになる。

急いでトイレへ向かった。

トイレへ着くと、ちょうど出てきた兄さんを弾き、トイレで吐いた。

ー裕介

「おい!琉海大丈夫か!?」

弾かれた兄さんは立ち上がり、駆け寄ってきた。

僕の背中を擦りながら、兄さんは声をかけてくれていたが、あまり良く聞こえなかった。

そして、僕が吐き始めてから、約一時間ほどしてようやく止まった。

すでに、僕の腹の中にあったものはすべて吐き出され、不快感だけが残った。


ー裕介

「どうしたんだ琉海。酷く冷たいぞ。」

兄さんは僕の額に手をやり、そう言った。

ー琉海

「わからない…、だけど、とても気持ち悪いことだけは分かるよ。」

ー裕介

「そ、そうか。…とりあえず部屋へ戻ろう?」

兄さんは僕を背負い、僕の部屋へ連れて行ってくれた。

ー裕介

「お前はゆっくりと寝てろ。水とか取ってくるから。」

そう伝えると、兄さんは走って部屋から出て行った。

僕は天井を見ながら、昨日の出来事を思い起こそうとしていた。

僕が覚えているのは、舞菜さんに家へ誘われ、家でジュースを飲ませてもらったところまでだ。

その後に何があったのか、それがまったく思い出せない。

ずっと考え事をしていたからか、気づいたらとっくに日が昇っていた。

僕は物置用の台に目をやる。

ー琉海

「…兄さん…、まだ来てない…?」

脇においてあった時計を見ながら、僕はその違和感に気づいた。

少し嫌な想像をしてしまった僕は、ベッドから起き上がり、ダイニングへ向かった。

ー琉海

「兄さん…?どこにいるの?」

ダイニングへ着いたが、兄さんの姿はおろか、家族全員の姿が見えなかった。

少し動悸を感じ、落ち着くために台所の冷蔵庫から、スポーツドリンクを手に取り飲んだ。

しかし、動悸は収まるどころか、むしろ酷くなっていた。

ー琉海

「…今日…、なんか変だ…。」

僕はダイニングへ行き、テレビの前のソファで寝転ぶ。

何度か深呼吸をして、なんとか耐えることが出来た。

…耐える事ができた?

僕は、僕自身の気持ちに疑問を持った。

耐えるとは、いったい何に耐えることができたのか。

その時だった。


ー舞菜

「ごめんなさい…、ルカイくん…!」


舞菜さんの声が、明確に聞こえた。

僕は急いで周りを見渡したが、舞菜さんはどこにも居なかった。

だが、僕はこの時に思い出すことが出来た。

ー琉海

「僕は昨日、舞菜さんに刺し殺されたんだ。」

そう確信した僕は、彼女の名を呼んだ。

ー琉海

「カイロさん、見ているんでしょう?」

ーカイロ

「いやぁ〜…。やはり気づいたか、少年。」

そう言いながら、彼女は食卓の椅子に座った状態で現れた。

僕は彼女を見ながら聞いた。

ー琉海

「ここは、いったい何なんですか?」

その問いに、彼女は笑った。

ーカイロ

「それは言えないよ。その契約のはずだよ?少年。」

ー琉海

「契約?」

ーカイロ

「なんだ、思い出せていないのか。」

彼女は少し驚きそう言った。

ーカイロ

「まぁなんだ。

お前はな、"あるサイト"で『もう一度大切な人と夏を過ごしたい』と願ったんだよ。

だから、私がお前の願いを叶えるために、この世界へお前を呼んだんだがな…。」

彼女は頭をかき、そして両手を合わせた。

ーカイロ

「悪い!世界が壊れかけてきた!」

そんな事をいきなり言われた。

僕はまだ、すべてを理解しきれていないが、なんとなく思い出してきた。

確かに僕は、大学の三年生のときに、とても怪しい"あるサイト"で願い事を書き込んだ。

それは、彼女が言ったように、『もう一度大切な人と夏を過ごしたい』と言うものだった。

正直、そんなもの信じちゃいなかった。

だけど、その当時はどうしても彼女に会いたくて、仕方がなかったのだ。

だから、藁にも縋るようにそのサイトにお願いしたのだ。

しかし、その年の夏は結局一人で過ごすことになり、そのサイトの事を酷く憎んだことを覚えている。

ー琉海

「…世界が壊れかけてきた…って、何ですか?

仮想世界にバグが起きたとか?」

ーカイロ

「ちが…、いや、あながち間違いではないかな…。」

彼女は説明をするために、どこからともなくホワイトボードを取り出した。


ーカイロ

「めんどくさいけど、説明するよ。よく聞いてね。

世界が壊れかけてきた。この言葉はそのまんまの意味。

君が言ってくれたように、いわゆるバグのようなものが発生してしまったのさ。

そのせいで、この世界の存在が否定されてしまったんだ。」

ー琉海

「否定された?」

ーカイロ

「存在を否定されると、この世界を願った人は、現実の世界に引き戻されてしまうんだ。」

ー琉海

「…現実世界…」

ーカイロ

「それで、もし願った人が現実世界を望んだとき、完全にこの世界は消え、その人だけは現実世界へ帰ることができる。」

ー琉海

「願った人だけ?」

ーカイロ

「そう、この世界は偽物であって、本物の世界だからね。

この街に生きる者は、ちゃんと存在するし、ちゃんと死を経験する存在。

だから、この世界が完全に否定された時、彼らもまた、この世界と共に消え去ってしまうんだ。」

ー琉海

「…それってつまり、僕の家族も、舞菜さんも全員消えてしまうってこと?」

ーカイロ

「そうだよ。君の場合はそういうことになる。」

ー琉海

「…じゃあ、ミラさんも…」

ーカイロ

「ミラ?誰だいそれ?」

ー琉海

「君がこの世界を作ったのなら、ミラさんのことも知っているでしょ?」

ーカイロ

「……そうか、そいつだ。バグの犯人は。」

ー琉海

「はい?」

ーカイロ

「この世界を否定しているのは、その人だよ。

君の世界に無断に入り込み、その上この世界を否定するなんて。」

ー琉海

「待ってよ、話がわけわからないよ!」

ーカイロ

「……最初に感じた揺らぎ、それは、部外者がこの世界へ入ってきたってことだったのか。」

彼女が爪を噛み、何かブツブツと言い始めた時、その声が聞こえた。

ー??

「そうだぜ、あたしがこの世界のバグだ。」

ーカイロ&琉海

「っ!!」

僕らだけだと思っていた空間に、突然現れたのは、ミラさんだった。

ーミラ

「あたしはただ巻き込まれただけだと思っていたが、あの日、琉海と神社で会って思い出したぜ。

あたしは、お前を連れ戻すためにここへ来たんだ。」

ミラさんは僕へ指を差し、そう言い切った。

ーカイロ

「…連れ戻して何になる?

外から来たということだろ?つまりそれは、彼がどんな状況か覚えているはずだよ。」

そう言ったカイロさんに、僕は違和感を感じ取った。

ー琉海

「待て、今なんて言った…?」

ーカイロ

「……」

カイロさんは黙り込んだ。

ーミラ

「知ってるぜ、琉海がどんな状況で、現実で何が起きているのかをな。」

ー琉海

「待てって!なんで僕の質問には答えないんだ!?」

ーミラ

「黙りな琉海。」

ー琉海

「うっ……」

ミラさんは、前までのようなヘラヘラとした態度ではなく、いたって真剣な表情だった。

ーミラ

「この世界にいる限り、確かに琉海は大丈夫かもしれない。

だがな、人間の生死は、勝手に変えちゃならないんだぜ。」

ーカイロ

「…分かってる。だけど、私は彼に幸せになってほしいんだ。」

ーミラ

「幸せか、それは、罪悪感からか?」

ーカイロ

「……」

ーミラ

「罪悪感でやっているなら、今すぐこんな事を辞めるんだな。

もし、琉海がこの世界へ居残ることを望んだら、現実世界でどれだけの影響を及ぼすと思っているんだ?」

ーカイロ

「…それでも…」

ーミラ

「まだチャンスがあるとでも?」

僕は二人の話がまったくわからず、ついていけずにいた。

二人は一体何を話しているんだ…

その時だった。

突然僕の腹部から血が出始めた。

ー琉海

「…はっ?」

本当に何が起きているんだ?

そんな事を思いながら、僕は一気に気を失うのだった。

迷走中…

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