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君がいる街  作者: 文記佐輝
謎集い
5/14

五日目『偶然なのか?』

ジィーーーっ…

木々から夏の虫が鳴いている。

僕はリュックを背負い、ある場所へと向かっていた。


ーーー

少し時間は戻り、三時間ほど前。

ー母

「そういや、もう神社には行った?」

ー琉海

「神社?」

朝食を食べていると、母が突然聞いてきた。

ー母

「まだ行ってないなら、ちょうどいいから行ってきなさいよ。」

ー琉海

「ちょうどいいって、なにが?」

ー母

「これを神社の巫女さんに渡してほしいのよ。」

そう言うと、母は冷蔵庫から大きなスイカを取り出した。

今朝裏の畑で採れたと言い、いつも世話になっている巫女にあげたいということだった。

正直、今日は直近で一番の高温であり、ゆうに三十八度を超える気温だったため、外へは出たくなかった。

しかし、「どうせやることないんだからいいじゃない」と言われてしまい、行く羽目になった。

ー未怜

「ごめん〜、私これから部活友達と遊びに行かなきゃだから…」

ー琉海

「そうか、まぁ友達は大切だよな。」

一人で行くのが嫌だった僕は、未怜に一緒に来ないかと誘ったが、すでに予定があったようだった。

ー沙織

「今日はお義母さんと買い物に行くから、一緒には行けないなぁ。ごめんね、琉海くん。」

ー琉海

「買い物は大変ですね。熱中症には気をつけてくださいね。」

ー沙織

「それは琉海くんの方もね。…本当に一緒に行けなくてごめんね。」

沙織は本当に申し訳なさそうに謝ってくれた。

しかし仕方がないだろう。

買い物をしないと、食材が切れてしまうのだから。

それからも家族に聞いたが、残念ながら誰一人として予定が空いていなかった。

ー裕介

「そんなに一緒に行ってほしいなら、俺が…!」

ー琉海

「仕方ない、今日は一人で行くか。」

ー裕介

「ガーンッ!!!」

ガーンッと口に出して言う人は初めて見たな。

ー琉海

「兄さんはダメだよ。」

ー裕介

「なぁんでだよぉ〜!」

ー琉海

「…仕事、まだ残ってるでしょ?」

ー裕介

「……たまには息抜きが必要だと思うんだ兄ちゃんは…」

目を逸らしながらそんな事を言う。

ー琉海

「息抜きならずっとしてるでしょ。…夜中までゲームをしたりとか。」

ー裕介

「なぜそれをッ!?」

ー琉海

「母さんに言ったら、どうなるだろう?」

ー裕介

「そうだったなぁ!俺はこれから仕事をやらないと!!

残念だが琉海、一人で行きたまえ!」

キャラが壊れた兄さんは、走って自室へと戻って行った。

僕はため息をつき、スイカを氷に入れた袋と一緒に、リュックの中へと詰め込んだ。

この時、時刻は九時二十分を少し回ったところだった。


ーーー

そして現在、僕はクソほど長い階段を登っていた。

ー琉海

(なんでこんなところに神社を…)

僕は心の中で愚痴をこぼしながら、ゆっくりと上がっていく。

階段を登り始めてから、約一時間三十分後にようやく頂上へ着いた。

汗を、家を出るときに沙織さんから貰ったタオルで拭き取る。

息を整え、その神社を見回した。

こんなに山奥にあったにも関わらず、神社はしっかりと管理されており、綺麗な外見をしていた。

僕はとりあえず、神様に挨拶をするため賽銭箱へ五円玉を投げ入れた。

簡単に挨拶を行うと、はなれへ向かった。

扉の前まで来ると、3回ノックをした。

しかし、それに応えるものは居なかった。

ー琉海

「…すみませーん、差し入れ?に来たんですけど!」

『…………』

なんとなく扉が開かないか確かめる。

扉は開いた。

ー琉海

「入りますよー!」

『………』

ー琉海

「……失礼しまーす!」

僕は扉を開け、中へ入った。

靴を脱ぎ、人が居ないか探す。

歩いていると台所らしきところへ着き、僕は驚いた。

ー琉海

「ちょ!?大丈夫ですか!?」

なんと、台所の床に倒れている巫女服ずかたの女性が横になっていた。

僕は巫女に近づくと、息をしているかを確認した。

幸いなことに、別に死んでいたわけではなかった。

ー琉海

「大丈夫ですか?起きられますか?」

ー巫女

「う〜ん…、ムリぃ…。」

ー琉海

「どうしてこんなところに…」

ギュ~グルルルルッ…

僕の言葉を遮るように、巫女のお腹の音が鳴った。

ー巫女

「…おなかすいた…」

ー琉海

「……」

どうやら空腹で倒れていたようだった。


ーーー

ー巫女

「生き返るぅ〜、キンキンに冷えてておいしぃ〜。」

ー琉海

「台所、使わせてもらいましたからね。」

ー巫女

「うん、スイカありがとね〜!おかげで餓死せずに済んだよぉ。」

巫女は恥ずかしげもなく、切ったスイカを次々に食べていく。

全て平らげ巫女は、その場で横になった。

ー巫女

「ありがとぉねぇ〜。おかげで今月も死なずに済む〜。」

ー琉海

「…なんでそんなにギリギリなんです?」

ー巫女

「地元の神社なんてそんなもんよ。知らんけど。」

適当にそう言うと、大きな欠伸をした。

僕は小さくため息をつき、空になった食器を手に取った。

ー琉海

「台所借りますね。」

「うい〜」という返事を聞き、食器を洗うために台所へ向かった。

台所へ着いた時、玄関の方から扉が開く音がした。

ー???

「おいっすぅ〜、暇だから来たぜー。」

僕はその声に聞き覚えがある。

それどころか、連日聞いている声だった。

ー琉海

「……なんで三日連続で会わないといけないんですか?!」

ーミラ

「…おぉ、なんだ来てたのか坊主。」


ーーー

今日も暑い。

あたしはいつもの服を着て、サングラスをかけて麦わら帽子を深々とかぶる。

ーミラ

「今日も会うんだろうな。」

そんな事をつぶやき、今日も適当に散歩をする。

ここであたしについて話しておこうと思う。

と言っても、あたし自身に記憶がほとんど残っていない。

分かっているのは自身の名前と、例の特別なカフェぐらいだ。

あたしはいつからこの村に来たのか、どこの出身なのか。

そういった事を一切覚えていない。

無論、交友関係はおろか、家族についても覚えていない。

ーミラ

「まったく、あたしは何のためにここへ来たんだっけな。

…大切なことを忘れちまってんだが…」

いくら考えても、まったく答えは出てこない。

考え事をしながら歩いていると、二日前に会った嬢ちゃんを見つけた。

ーミラ

「んお?おお〜!この前の嬢ちゃんじゃねぇか!」

ー嬢ちゃん

「あ!あの時のお姉さん!」

そう言うと、嬢ちゃんはこちらへ走ってきた。

ー嬢ちゃん

「これからお出かけですか?」

ーミラ

「ただの散歩だぜ。今日は、彼氏と一緒じゃなねぇんだな、嬢ちゃん。」

ー嬢ちゃん

「彼氏というわけではないですけどね。」

彼女は少し恥ずかしそうに頬をかく。

ー嬢ちゃん

「私、これから図書館へ行くんです。

お姉さんも一緒にどうですか?」

ーミラ

「図書館かぁ、涼しいんだろうな。だけど遠慮しておくよ。」

ー嬢ちゃん

「やっぱりなにか用事が?」

ーミラ

「…まぁ、用事と言えば用事になるのか?

実は知り合いが、この村の神社で巫女をやってんだ。

そこに顔を出そうかと、今思い出してな。」

ただ図書館にいい思い出がないから、行きたくないだけなんだよなぁ。

あたしは彼女の誘いを断り、その場を去ろうとした。

ー嬢ちゃん

「あ!そう言えば、私の名前なんですけど…!」

ーミラ

「ん?」

ー嬢ちゃん

「嬢ちゃんじゃなくて、雫って呼んでください!」

ーミラ

「……おぉ、そうか。」

ー雫

「それじゃ、またどこかで!」

笑顔で手を振りながら、雫は走っていく。

あたしは彼女に手を振り返し、ゆっくりと歩き始めた。

(それにしても驚いた…、まさか嬢ちゃんの名前が…)

あたしは久しぶりに聞いたその名前に、少し、いやかなりドキッとしていた。


…雫


どこにでもいそうなその名前は、あたしにとっては大切な存在だった。

ーミラ

「何の巡り合わせなんだか。…今さらどうも思わねぇがな。」

そんな事を言っているが、アタシはまだ、あの時のことを忘れることが出来ていない。

ドキドキが一向に止まらない。

(参ったな、こりゃ本当にあいつの元へ行くべきだな。)

そう思い、あたしは神社へと来た。

ーミラ

「おいっすぅ〜、暇だから来たぜー。」

ー琉海

「……なんで三日連続で会わないといけないんですか?!」

そしたら彼がいた。

ーミラ

「…おぉ、なんだ来てたのか坊主。」

偶然の巡り合わせ。

…いや、本当に偶然なのか?

もしかしたら、これらのことは全て、操作されているのではないのか?

あたしが知らないうちに、あたしが彼に、もしくは彼があたしに向かうようになっているのではないだろうか。

実のところ、昨日のも単なる偶然だった。

昨日たまたま、あたしも手紙を出すためにポストへ投函していた。

そこへ、手紙を持った彼と出くわした。

偶然だったのか?

カフェで出会ったあの日から、三日も連続で会っている。

本当に、偶然で片付けて良いのか?

考えれば考えるほど、すべてがおかしいように思えてきた。

あたしは、何のためにこの場所へ…?


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