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四日目「なにも知らないから。」

チリンチリンッ…

昨日、二人の男女がやって来た。

新聞で顔を隠しながら、チラッと彼らを見た。

(なるほど…)

彼を見てすぐに分かった。

ー女性

「…きっとなにも知らないんだろうな…、可哀想に。」

あたしは彼に同情する。

かつてあたしも、彼と全く同じ状況だったから。

だからなのだろう、あたしが彼らと接触したのは。

ほんの少しだけ、彼が救われるような未来が見たかったから。

あたしじゃ出来なかった事を、彼に成し遂げで欲しかったから。

きっと彼はあたしのことを怪しい人物としか認識していないだろう。

だがそれでもいい、それでもいいから、どうか…

ー女性

「あたしのようにはならないでくれよ…」

そんな言葉が、無意識にこぼれてしまった。


ーーー

ピピピッ!!ピピピッ!!

けたたましく時計が朝を知らせる。

僕は時計のアラームを消し、疲れが残る身体を起こした。

スマホを取るため、立ち上がり机へ向かう僕は、スマホに触れようとした。

ー琉海

「…うん?」

その時、机の上に何やら手紙らしきものがあることに気づいた。

僕は一度目をこすり、それを見る。

見覚えのないそれには、丁寧な字で名前が書かれていた。

ー琉海

「…美桜みお?」

前原美桜まえはらみお、そう書かれていた。

なぜ手紙なんだと思いながら、僕はそれを丁寧に開け、手紙を読んだ。


『帰省されていると聞いて、急いで書きました。

増田琉海ますだるかい先輩、お元気でしたか?

こんな手紙なんかですみません。

私は少し別の街へ行っていて、お会い出来ないのは少し残念です。

もし私が帰る頃にもおられましたら、必ず会いに行きます!

久しぶりに先輩の顔が見たいです。

久しぶりに先輩とお話がしたいです。

また手紙を送るかもしれません。

先輩がよかったら、手紙のやり取りをしてみませんか?

勝手ながら、楽しみにしています。

前原美桜より。』


久しぶりに美桜の筆跡を見たなと思いながら、僕はペンを手に取った。

しかし何を書こうかと悩んでいるうちに、朝食が出来たと未怜みれいが呼びに来た。

仕方なくペンをしまい、朝食を食べに行くことにした。

ー琉海

(美桜への手紙、どうしようかな…)

僕はずっと頭の中で返しの内容を考えた。

そして、食事を終え、洗面台で歯を磨き顔を洗った。

タオルで顔の水を拭き取りながら廊下を歩いていると、仏壇の前で手を合わせている沙織さおりさんを見かけた。

ー琉海

「おはようございます、沙織さん。」

ー沙織

「おはよう琉海くん。そう言えば手紙が来てたから、机に置いておいたよ。」

ー琉海

「沙織さんが置いててくれたんですね!ありがとうございます。」

僕は沙織さんの隣に正座すると、仏壇に手を合わせ、朝の挨拶をした。

ー琉海

「毎朝されてるんですか?」

ー沙織

「えぇ、増田家のご先祖様方に、私を受け入れてくれたことを感謝しているの。」

ー琉海

「いいですね。僕なんか、寝る前ぐらいにしか手を合わせてなかったですから。増田家の人間としてちゃんとしないと…」

ー沙織

「できるだけする方がいいかもね。直接的には関係なくても、ご先祖様方が居てくれたおかげで、今の増田家があるから。

それに、ご先祖様方が居なかったら、私は裕介ゆうすけさんに会えなかったし、琉海くんにも会えてなかったからね。」

ー琉海

「…確かに、そう考えると、奇跡的な巡り合わせなのかもしれませんね。」

ー沙織

「まぁあ、私はどんな世界でも、裕介さんは見つけるし、琉海くんのことも全員見つけ出してたけどね!」

沙織はそう胸を張って言うと、「フフンッ!」とドヤった。

そんな沙織さんを見ながら、僕は思わず笑った。


ーーー自室

ー琉海

(…確かに沙織さんの言う通りなのかもしれない。)

僕は椅子に腰を掛けて、先ほどのやり取りを思い返していた。

『どんな世界でも、全員見つけ出してた』

沙織さんの言葉には、確かな自信があり、その言葉に迷いの一つもなかった。

…どんな世界でも。

もしかしたら、僕が今体験している不思議な状況も、元の世界とは全くの別物なのかもしれないなと、そう思わされた。

ー琉海

「…僕だって…、どんな世界になっても、君を見つけ出すよ。」

ー未怜

「何を見つけ出すって?」

突然背後から話しかけられた僕は、「ヒャァーー!?」と変な声を出してしまった。

ー未怜

「なんて声出してんのさ〜!私の方がびっくりしちゃうじゃん。」

ー琉海

「いるならノックの一つくらい…!」

ー未怜

「したって〜。でもお兄ちゃんがぼーっとしてたからさぁ〜。」

ー琉海

「うぐぐ…」

未怜は僕のベッドに腰を掛けると、いつの間にか美桜の手紙を手に持っていた。

ー未怜

「ミオちゃんは何歳になってもお兄ちゃんが好きなんだね。」

ー琉海

「美桜は僕のことを慕っているだけだよ。」

ー未怜

「…なんでこんな人を好きになるんだか…」

ー琉海

「なにか言った?」

僕はただ確認をしたつもりだったが、未怜は「なんでもー」と少し語気を強めて言った。

ー未怜

「手紙書くんでしょ?手伝おっか?」

ー琉海

「いや、大丈夫。それより、未怜は夏休みの課題はちゃんとやってる?」

ー未怜

「…まぁ、そこそこかな。」

僕から目を逸らしながら、未怜はボソッと言った。

夏休みの課題。

それは長期休みの、一番の敵。

僕も高校まで、夏休みに入る度に課題に追われてた。

今では懐かしく思う。

ー琉海

「早めに終わらせておいて、損はないよ。」

ー未怜

「分かってるよ〜。でもなぁ〜…。」

ー琉海

「夏休み、全力で楽しみたいでしょ?」

ー未怜

「むぅ〜、そりゃ楽しみたいよ〜。」

ー琉海

「じゃ、早く終わらせて、残りの休みを楽しもう。」

僕は未怜にそう言うと、「は〜い…」と返事を返し、背を丸めながら未怜は僕の部屋を後にした。

再び一人になった僕は、机上の白紙の紙を眺めながら、帰省してからの事を書こうと決めた。

…五時間後

手紙を書き終えた僕は、手紙を持ってポストへ向かっていた。

それにしても、まさか美桜が京都へ行っているとは知らなかった。

沙織さんから聞いた話によると、学校の部活動で、大会へ出場することになったらしく、美桜は見事に選出されたということだった。

ちなみに美桜は、将棋部に入っており、このあたりでは一位二位を争うほどの実力を持っている。

ー琉海

「美桜はすごいなぁ〜…。」

それにしても、部活の顧問の別荘に泊まるなんて、顧問はお金持ちなんだなと思った。

そんなどうでも良いことを考えていると、ポストが見えてきた。

ー琉海

「…なんでいるんですか…」

ー女性

「よっ!」

なんとポストの前には、以前街で出会った女性が立っていた。

女性は扇子で自身を扇ぎながら、僕の方へ近づいてきた。

目の前まで来ると、顔をズイッと近づけてきた。

ー琉海

「な、なんですか?!」

ー女性

「う〜ん…、やっぱり思い出せないな〜。」

女性はサングラスを外し、かぶっている麦わら帽子の上に乗せ、マジマジと見てきた。

別に下心はないが、女性の顔は非常に整っており、美人なのだ。

そんな美人な顔が、僕の眼前まで迫ってきた。

僕は思わず、後ろに下がり女性から距離をとった。

ー琉海

「だから、なんの用なんですか!?」

ー女性

「なんだよ〜、別にいいじゃねぇか。減るもんじゃねぇんだし。」 

女性はムスッとしながら、僕を睨んだ。

ー琉海

「…僕が悪いの…?」

困惑しながら、とにかく手紙を出そうとポストへ近づいた。

しかし、それを邪魔するように、女性が手紙を盗んできた。

ー琉海

「あ!返してください!」

ー女性

「気になった、後で返してやるよ。」

ー琉海

「ちょ!そろそろ郵便局が回収に来るんですけど!」

ー女性

「じゃあ明日出せばいいだろ。」

ー琉海

「明日って…、あ!ちょっと待ってください!」

女性は手紙を持ったまま、その場を歩いて離れた。

僕は返してもらうため、女性を追った。

ー琉海

「あの…!返してくださいよ!」

ー女性

「……ん。」

意外にも素直に返してくれた女性は、いつの間にかサングラスをつけていた。

僕は返してもらった手紙を持ち、振り返りポストへ向かおうとした。

ブロロロ…

ー琉海

「……」

ー女性

「あらら、行っちまったな。」

ー琉海

「誰のせいだよ!!」

振り返った時には、ポストから中身を回収し、郵便局の車が去っていくのを見送る以外できなかった。

肩をガックシと落とし、仕方なく空のポストに手紙を入れた。

ー女性

「まぁ、そんな落ち込むな。明日の早朝には一回目の回収がある。

それに間に合えば、京都ぐらいなら夜には着くだろ。」

ー琉海

「今のに間に合ってたらもっと早くに届いてたはずなんだよ。」

ー女性

「だろーよ。…だがそれじゃダメなんだよ。」

小さな声で、呟いた女性は目こそ見えなかったが、声色から少し複雑そうな気持ちを感じとった。

僕はそれに気づいたが、聞こうとは思わなかった。

聞いてはいけないと思った。

ー女性

「じゃな、邪魔して悪かった。」

女性はゆっくりと僕の家とは反対側へと歩いて行く。

その背中は、僕よりも大人なはずなのに、なぜかとても小さく見えた。

どこか、放っておけないような、そんな雰囲気がした。

ー琉海

「…あの、名前って聞いてもいいですか?」

僕は無意識に、そう聞いていた。

女性は背を向けたまま、しばらく立ち止まった。

ー女性

「そうだな、あたしのことは…」

少し考える素振りをして、僕の方へと近づいてきた。

そして耳元まで顔を近づけると、囁くように言った。

ー女性

「ミラとでも呼んでくれ。」

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