『最後の記録』
彩 「智恵理ー、今日の講義の内容教えてぇ〜。」
智恵理 「私はAI機能じゃないぞ。」
キャンパス内の売店で買い物をしていると、二限目を遅刻した彩に話しかけられた。
私は鞄から講義の内容を写したノートを取り出し、彼女に手渡した。
彩 「やっぱり持つべきは智恵理よねぇ〜!ありがとう〜。」
智恵理 「次は貸さないからね。遅刻とか論外だから。」
彩 「お手厳しい…。けどそんなキミがしゅきっ!」
智恵理 「ははっ、ウザ。」
「辛辣ぅ!」と言いながら、笑顔な彼女はどうやらドMらしい。
彩 「そういやさ、智恵理は夏季休暇どっか行くの?」
突然そう言われた私は、少し考えて、帰省することを伝えた。
帰省で思い出したのか、彩は慌ててどこかへ行った。
本当に嵐のような女性だ。
私は売店で用事を済ませると、三限目のある教室へ向かうのだった。
ーーーそれから一ヶ月後。
私は無事にテストを終え、今は帰省のための準備をしている。
約三年ぶりに帰るため、私は緊張で胸が張り裂けそうな感覚を体験していた。
ソワソワしている私に、メールが届いた。
それは、私の叔母だった。
『帰る時は教えて、車出すから。』
叔母は面倒見がよく、昔はよく一緒に遊んでいたことを覚えている。
大学に入ってからも何かと気にかけてくれて、しょっちゅう通話を掛け合っていた。
チエリ 『うん、東京を出たら連絡するね。』
私は返事を書き込み、送信した。
智恵理 「楽しみだなぁ〜。皆元気にしてるのかなぁ〜。」
窓から見えた空を見ながら、私は「早く会いたいなぁ〜」とつぶやくのだった。
翌朝、私は予約しておいた時間より早めに駅に着いた。
この時間帯でも、以外と人はいるもので、朝から元気な女の子を見ることもできた。
「お兄ちゃん!新幹線まだかなぁ!?」
「あと三十分くらいはかかるよ。」
「そんなにぃ?!」
「だいたい、お前のせいだけどねミレイ。」
「だってお兄ちゃん、いつも準備が遅いんだもん!」
そんな微笑ましい会話をする兄妹は、どうやら私と同じ時間に新幹線を取っているようだ。
妹は今か今かと元気に飛び跳ねている。
智恵理 「……いいね〜。私も甘えたくなっちゃうな…。」
私は懐に入れていた古びた写真を取り出し、少しだけ感傷に浸る。
智恵理 「…帰ったらいっぱい甘えちゃお。」
そして、写真を抱きしめて、目一杯甘えることに決めた。
そこへちょうど、予定の新幹線がやって来た。
私は荷物を手に、それに乗り込んだ。
ーーー三時間後。
新幹線はあっという間に東京から広島へと送り届けてくれた。
軽く眠っていた私は、目薬を差し、久しぶりに見る故郷をしっかりと見た。
昔とさほど変わらないその街は、私たちのことを歓迎していた。
駅に着いた私は、叔母にメールをした。
そのメールはすぐに既読がつき、『駐車場で待つ』と送られた。
私は少し駆け足で、叔母が待っているであろう駐車場へ向かった。
駐車場に着いた私は、辺りを見渡しながら叔母の車を探す。
「お~い!こっちだよ〜!」
ウロウロとする私に、聞き覚えのある声で呼びかけてきたのは、車から身を乗り出して手を振る叔母だった。
智恵理 「叔母さん!」
叔母 「いやぁ〜、この三年でまた立派になったぁ〜?」
最初何を言っているのか理解できなかったが、叔母のそのいやらしい視線ですぐに察した。
私はそんな叔母にツッコミを入れ、車に荷物を詰め込んだ。
叔母 「冗談はさておき、本当に大きくなったね。」
叔母は優しく微笑み、私の頭を撫でてくれた。
智恵理 「おかげさまでね。ね、早く皆に会いたいよ!」
叔母 「そうだね、皆も智恵理に会いたいだろうから、早速帰ろうか。」
エンジンをかけ、少しだけ荒い運転で産まれた地へと向かう。
ーーー
一時間ほどかけて久しぶりに見た故郷は、どこも記憶通りのもので、ようやく帰ってきたんだという実感を得ることができた。
智恵理 「…やっぱり私、ここが一番好きだ…。」
思わず出たその言葉を聞いた叔母は、嬉しそうに口角を上げた。
叔母 「少し便利にはなったけど、やっぱり風景までは変わらないでしょう。」
智恵理 「うん。…三年前とほとんど変わらない。」
ゆっくりと車を走らせながら、故郷を堪能する。
そしてもう少し走った後、私たちは伯父が住む家に着いた。
叔母 「本当にここでよかったの?
別にここじゃなくても、今すぐ実家に帰ってもいいのよ。」
智恵理 「実家はあとの楽しみにとっておくの。」
私はウインクをして、その家に上がった。
家は少し古い感じで、木の臭いが心地良い。
リビングまで行くと、記憶通りのメンバーがテレビを見て笑っていた。
最初に私に気づいたのは、伯父さんの奥さん、私の伯母だった。
伯母 「智恵理ちゃん!帰ってたの?」
驚いたようにそう言うと、トテトテと駆け寄ってきて、大きな胸部で私の顔を包みこんでくれた。
(ありがとうございます。)と心の中で呟く。
伯父 「ここには二人は居ないけど、…もしかして俺のことが好きなのかな?」
顔は確かにイケメンの分類に入るのだと思うが、私は別に伯父のことを好いているわけではない。むしろ少し苦手まであった。
私は意図せず伯父をスルーして、お祖母ちゃん駆け寄った。
智恵理 「ただいま!お祖母ちゃん!」
祖母 「おかえり智恵理。また見ない間に大きくなったわねぇ!」
祖母は叔母と同じ位置を見ながら言った。
どうやらこの家計はこの人のせいで変態が多いらしい。
私は祖母から離れ、一番安全な伯母の隣を陣取った。
伯母 「あまりいじめちゃ駄目ですよお義母さん。確かに大きくなりましたけど、まだ私の方が大きいです!」
この人はいったい何を言っているのだろうと思いつつ、昼過ぎまで一緒に過ごした。
気付けば、時刻は午後二時を示していた。
智恵理 「それじゃ、そろそろ実家へ帰るね。
皆とまた会えて、本当に良かった!明日も遊びに来るね!」
私は皆にそう言い、荷物を持って実家までの道を歩いた。
夏の日差しは強く、もう少し遅く出てもよかったなと少しだけ後悔を抱いた。
ミーンミンミンミンと、セミが森から声を立て、夏を直に根治させてくれた。
麦わら帽子を風に飛ばされないようにたまに抑え、再び歩く。
それを繰り返していると、懐かしい階段が右側に見えた。
智恵理 「…今日もいるのかな。」
私は好奇心に駆られ、その長い階段を登り始めた。
だいたい一時間半かけて登りきった頂上には、古い建物、神社が姿を現した。
智恵理 「おっ!」
そして、今日は運が良いようで、境内を掃除する御子を見つけることができた。
私は荷物を鳥居のの隣に置き、巫女に駆け寄り抱きついた。
巫女は驚いたような声を出し、私のことを見た。
巫女 「智恵理!帰ってくるとは聞いていたけれど、わざわざここまで来るとは思ってもいなかったよ〜。」
智恵理 「巫女を見たかったから来ちゃった!」
「来ちゃったって」と困惑する巫女は、私を軽々と抱き上げ、巫女が暮らす小さな宿舎に入った。
巫女 「ここまで暑かったでしょ?
智恵理のお父さんからスイカを貰ったから、ここで食べていきなさい。」
智恵理 「良いの!?ヤッター!」
そして、巫女が持ってきてくれたスイカを手に取り、二人で美味しく食べた。
久しぶりに会った巫女は、最初出会った時よりも髪が伸びており、少し大人びて見えた。
少しゆっくりした私は、巫女にまた会う約束をして、その神社をあとにした。
ーーー
予定していたよりも遅く実家に着いた私は、気づかれないように玄関をゆっくり開けた。
しかし、それは何の意味もなかった。
母 「おかえりなさい。」
智恵理 「……ただいま、お母さん。」
なぜ母は玄関で待ち伏せており、心臓が止まるかと思った。
私はとりあえず謝り、家の中へと入った。
母は私の荷物を受け取ると、リビングの方へと向かって行った。
靴を脱いだ私は、スリッパを履き、母に続いてリビングに入った。
智恵理 「…お父さんもいたんだ。…ただいま。」
父は私のことを見ると、優しく微笑み、「おかえり」と返してくれた。
母は荷物をソファの近くに置き、キッチンに入っていった。
リビングには私と父の二人だけになった。
別に気まずさはなかったが、相変わらず何を考えているのか分からない二人だとは思った。
智恵理 「…私、もう単位も取ったからバイトを始めようと思うんだ。」
私はあえて、普段通りに父に話しかけた。
父は笑い、「いい考えだね。」と言ってくれた。
父は昔からよく褒めてくれる人だった。
そんな父のことが、私は好きで、誇らしく思っていたりする。
まぁ、その事を本人に伝えたことはないのだが。
そんな絶妙な距離感の私たちの前に、母が麦茶を持ってきてくれた。
母 「三年目に帰ってくるって、偶然かしらね?」
母はそう言い、父のことを見た。
父は笑い、「子は親に似るっていうからね。」と返し、私に優しく微笑みかけてくれた。
一見冷めたような会話に見えるだろうが、なぜだかこれだけでも私たちは落ち着けた。
その日はすでに時間も時間だったため、特に会話もできずに就寝することになった。
自室は綺麗に保たれており、どうやらいつ帰ってきてもいいようにしておいてくれたらしい。
私は心の中で感謝を伝え、私はふかふかなベッドに飛び込んだ。
智恵理 「…また会えてよかった。」
私は天井を見ながら、心から再会を喜んだ。
たかが三年だろと思うかもしれないが、私はなぜかそう思ってしまったのだから仕方がないだろう。
私はベッドから起き上がり、ハンガーに掛けた上着からあの集合写真を取り出し、それをベッド横のサイドテーブルに置いた。
智恵理 「私は覚えてるからね。」
そして、私は眠りにつくのだった。
次の日、私と両親の間には和気あいあいとした会話が繰り広げられていた。
まるで、あの日のように、気兼ねなく話せるようになっていた。
母 「ねぇ、せっかくだらこの三人で、旅行でもしない?」
智恵理 「良いね、それ!お父さん、三人で旅行しよ!」
父 「そうだね。いい考えだと思うよ。」
母 「どこに行こうかしらね。」
父 「岡山なんてどう?」
智恵理 「岡山?」
父 「うん。実は僕とお母さんで行ったことはあるんだけど、中途半端なところで打ち切っちゃったから。」
母 「そうね、智恵理がいいなら、もう一回行きたいよね。」
私は二人の馴れ初め聞くのが好きだ。
だから私は、「続きしよ!」と言い、二人の手を引いた。
二人は驚いていたが、私の「善は急げだよ!」に反応した。
母 「ほんと、そのとおりだね。」
父 「うん、なら準備を済ませたら、三人の思い出を作りに行こうか。」
こうして、私たちは家族三人だけの思い出を作る旅に出るのだった。
こんな甘え方でも、良いよね?
ーーー
?? 「疲れたぁ〜。ホント、疲れる場所にあるよねここ…」
息を整えながら、女性は鳥居をくぐる。
??? 「文句があるなら来なくてもいいんだけど?」
?? 「サクラに会いたいから、絶対に通うのをやめないけどね。」
サクラ 「私のこと好きすぎ。…んで、どうだった?」
サクラは彼について聞いた。
?? 「まぁ、もう大丈夫そうだったよ。
これも全部、琉海先輩のおかげだよ。ほんとに…。」
サクラ 「いつまで先輩ってつけてんのさ〜。」
?? 「…一生、かな。」
笑いながら女性は答えた。
サクラ 「でもあっちでは呼び捨てだったんでしょ?
その感じで今からアタックしてみたら?」
まるで小悪魔のような笑みを浮かべるサクラは、倉庫から道具を取り出す。
?? 「馬鹿言わないで、私は琉海先輩に幸せになってほしいだけで、私と付き合ってほしいわけじゃないって。」
サクラ 「厄介な性格ね〜。ま、そういうところが君を強くするんだろうね。」
?? 「……彼が居なかったら、多分私は、『あっちのあたし』と同じになってたかもだけどね。」
女性は古びたお守りを握りしめて、そう言った。
?? 「…さて、そろそろ行こうか。
まだ全てが片付いたわけじゃないんだ。最後の仕上げをしにいくよ。」
サクラ 「はいは~い。」
?? 「今回は未怜ちゃんも手伝うから、その分の用意もお願い。」
サクラ 「はいよ〜。」
適当に返事をしつつも、サクラは自身がすべき行動を淡々と仕上げていく。
?? 「目標は琉海先輩に余計な力を与えた例の女だよ。
彼女、『カイロ』は私たちにとって邪魔な存在になり得る、排除を視野に作戦を遂行していくよ。」
サクラは不思議な力を使い、空間に裂け目を作り出した。
サクラ 「…出来れば殺り合わない方向でね。」
?? 「分かってるよ。もしもの時だから安心して。」
そして、彼女たちはその裂け目の中へと姿を消すのだった。
いろいろと回収しきれていない謎が多く残ってますが、この話はここで終わりなります!
最後の方は駆け足になってしまいましたが、自分が書きたかったことはある程度書くことができたので、大満足です!
出来れば九月の頭には終わらせる予定だったのですが、旅行の話を書くことに難航したせいで、それは叶いませんでした。
拙い文章ではありましたが、ここまで読んでくれたこと、心から感謝申し上げます!
本当に、ありがとうございました!
もし『君がいる街』を多くの人に気に入ってもらえたのなら、続編とはいきませんが、世界観共通の話を新たに書こうと思います!
(もしかしたら勝手に作るかも。)
ここまで読んでいただき、重ねてありがとございました!




