四十六日目:後編『もう一人じゃないよ』
残り時間は二十七分とちょっと。
僕はソウルイーターと向き合っていた。
琉海
「…スーパーで会ったばかりだね。」
「……」
それはじっとこちらを見続ける。
ただ見るだけで、なぜか襲ってこない。
琉海
「……サクラさんから聞いたよ。
…お前、元は薫って言う、僕と同じ人間だったんだってね。」
「……」
そいつは姿を変え、ホテルで見た姿に変えた。
琉海
「その姿が、薫さんってことかな?」
薫
「……ワタシは、ただ帰りたいだけ。」
琉海
「…なんだ、しゃべれるんだ。」
突然話し始めた彼女に驚きつつ、冷静さを欠くことはなかった。
もちろん、彼女に対しての警戒はずっとしている。
薫
「ワタシはここにたどり着けなかった…。
けど、貴方は到着してしまった。それは素晴らしいこと。
だけど、ワタシはそんな貴方たちが羨ましくて、とても憎い。」
彼女は首を血が出るぐらいの力でかきはじめる。
薫
「でもね、理解はしているんだ。ワタシはソウルイーターで、君らとはもう違う存在だってことぐらい。
…それでもね、嫉妬しちゃうんだ。」
彼女はゆっくりと近づき始めた。
一歩、また一歩と僕の方へと近づく彼女は、徐々に姿を別の女性へと変えた。
琉海
「…お前、なんで舞菜さんに…?!」
それは東雲舞菜だった。
薫&舞菜
「「ワタシは、貴方を気に入ったと同時に、消失感を感じた。
あの日、私の前に貴方が現れて、なんと言えばいいかもわからない欲に襲われたの…。
だけど、ワタシがソウルイーターとしてあなたに会った時、ワタシは貴方を欲してしまった。
…お願い、わたしに、貴方の一部をちょうだい。
くれたら、わたしは寂しくないから。」」
彼女は手を僕の方に差し出した。
僕は彼女が一体何を言っているのか分からなかった。
きっと誰にも理解はできないと思う。
だが、彼女は至って真剣だった。
琉海
「…一部ってのは、一体何だ…?」
僕は彼女を睨みながら、聞いた。
すると、彼女は嫌な笑みを浮かべた。
薫&舞菜
「「…知ってる?
魂が欠けるとね…、その人は復活しても、植物の状態になるんだよ。」」
「だから」と続け、彼女は姿をソウルイーターに変えた。
「アナタの全てがホシイィィィッ!!!!」
本性を現した彼女に、僕は隠し持っていたソウルイーター用のノイジーボールを大きく開いた口に投げ入れた。
琉海
「…もういいんだ。
…疲れたろ。もう休んで良いんだよ。薫さん…。」
僕は彼女を体全体で押し飛ばし、ノイジーボールが体内で炸裂し、その音に大量のソウルイーターが集まってきた。
薫
「イヤァァァァァアッ!!!痛いッ!痛いよぉッ!」
彼女の悲痛な叫びは、僕の耳によく聞こえた。
薫
「痛いよっ…!助けてよっ…。助けて…、ミオ……ごめんなさい……」
そして、大量のソウルイーターによって、彼女はようやく解放されることになった。
僕は残っていた最後のノイジーボールを、店に投げ入れた。
ソウルイーターは全てそちらに引き寄せられた。
僕は薫の亡骸に近づき、サクラさんが言っていた、大切な"お守り"を手に取り、背を向けて歩き始めた。
薫
「…ありがとう…。」
改札を超えた時、僕の耳元でその声は鮮明に聞こえた。
琉海
「…一人ぼっちは、辛いですから…。」
そう返し、僕は光の先へと進むのだった。




