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君がいる街  作者: 文記佐輝
決断
24/26

四十六日目:中編『決意』

カフェの前まで来た僕と雫は、互いに顔を見合わせた。

琉海

「…雫、ここまで一緒に来てくれてありがとな。」

僕は雫のことを抱きしめた。

彼女も同じように抱きしめ返してくれた。

「私こそだよ。私のこと、忘れないでいてくれて、ありがとう。」

琉海

「忘れるわけないよ。大好きなんだから。」

昔の僕だったら、恥ずかしがって言えなかったであろうことを、今では恥ずかしげもなく言えるようになった。

雫は少し笑うと、僕にキスをくれた。

「……現世あっちでまた出会えたらさ、今度はもっと素直になろうね。」

そう言い彼女は僕から離れた。

琉海

「絶対に救ってみせるから。現世あっちで待ってて。」

僕と雫の手は離れ、彼女は優しく見送ってくれた。

彼女の見送りを背に感じながら、僕はカフェに入った。

店員

「お待ちしておりました。増田琉海ますだるかい様。」

店内へ入ると、いつもの店員が出迎えてくれた。

店員

「では、琉海様はどちらをお選びになりますか?」

そう言い、彼は二つの扉の前に僕を案内した。

店員

「向かって左側が、ただ生き返るだけの扉。

向かって右側が、過去を清算するための扉。」

僕は深く深呼吸をし、改めて両方とも見据えた。

琉海

「……店員さんは、どちらにしますか?」

気持ちを整えるため、僕は店員に聞いてみた。

彼は少し考えた後、彼の答えを聞いた。

店員

「そうですね、私ならば、過去を変えますでしょうね。」

少し意外だった。

琉海

「…人間味があって、いいですね。」

店員

「私も、実は変えたい過去があったりするんですよ。」

彼は少し寂しげにそう答えた。

彼にもいろいろな事情があるのだろう。

僕はそう考え、それ以上の詮索はやめた。

琉海

「……僕はやっぱり、こっちだな。」

そして、僕は扉の前に立った。

店員

「本当に、そちらでよろしかったですか?」

琉海

「うん。…もう、覚悟は決まったから。」

拳を握りしめ、僕は再び息を整えた。

店員

「…祈っています。琉海様が、望む未来を手に入れることを…。」

琉海

「ありがとうございます。じゃ、行ってきますね。」

僕は店員にそう伝え、その扉を開いた。

扉の先は真っ白で、一見何もないように見えたが、少し歩いたところで見覚えのある建物が見えた。

琉海

「…なるほどね。過去の清算…、良い言い方だね。」

そして僕は、その銀行に足を踏み入れた。


銀行内には、すでに強盗がおり、雫が強盗と対峙しているタイミングのようだった。

僕は周りを見て、ようやく「僕」を見つけた。

琉海

「…まったく、なんて顔してるんだよ。」

驚きと恐怖で、今にでも泣き出しそうな「僕」を見ながら、僕は笑ってやった。

琉海

「…さて、この空間ではタイムリミットはないみたいだね。」

それを確認した僕は、早速作戦を考え始めた。

「僕」がいる位置を見て、雫と強盗の距離を見る。

一見、走れば間に合う距離のように見えるが、実のところ問題はそこではなかった。

琉海

「突っ込んだところで、強盗に僕が勝てるはずもないからな…。」

今の僕がいる行けるのなら、制圧は簡単だったが、ここにいる「僕」にはそれは不可能だろうと考えた。

なぜなら、昔はスポーツをしていたとはいえ、この時の僕は足を負傷していたからだ。

僕は時間が許す限り、考え続けた。

しかし考えれば考えるだけ、「僕」が死ぬ確率が上がる。

約束をした手前、ここで刺されて死亡とかシャレにならない。

琉海

「……ワンチャンに賭ける…?」

その思いつきも出てきたが、すぐに振り払った。

そんなに頼りにならないことぐらい、よく知っている。

歩き回っていると、ある人に目を留めた。

琉海

「…この顔、記事で見たな。確か名前は…」

笹原光ささはらひかる

僕の世界での被害者だった。

よく見ると、彼は手に何かを持っていた。

僕は彼の持っているものを見て、少し突破口を思いついた。

琉海

「…さすがは、僕の世界で被害にあっただけの事はあるね。」

そして、ようやく思いついたそれを試すため、僕は「僕」に近づき、手をかざした。

琉海

「…さぁ、雫を守ってやるんだろ?

だったら、ここで動かないでどうする増田琉海!!」


ーーー

時が動き始めるのを感じた次の瞬間、誰かの悲鳴を聞き意識を取り戻した。

強盗

「来るんじゃねぇよ!!!クソガキ!!」

僕はすぐに状況を理解し、雫の位置と強盗の位置を確認すると、身につけていた鞄を手に持ち、雫に当たらない位置に飛び出した。

琉海

「雫!」

「ッ!!」

雫は瞬時に理解し、バックステップを踏む。

僕は持っていた鞄を強盗めがけて投げると、強盗はそれに気づき、少し体勢を崩した。

それを見た僕は、すかさず例の作戦を実行した。

琉海

「笹原!!行けッ!!」

そして残り数秒で、僕は出来るだけ強盗に接近した。

雫の左ストレートが強盗に当たる寸前。

僕の視界は暗転した。


ーーー

次、目を開いた時には、すでにカフェに戻されていた。

琉海

「……確証は持てなかったけど…、まぁ、雫は無事だろうな…。」

やれることをやり遂げた僕は、すぐに体を起こした。

スマホをポケットから取り出すと、タイマーをセットした。

琉海

「さぁ、こっからが問題だぞ、琉海。」

僕は自分にそう言い聞かせ、軽くストレッチをする。

こういう時になって思う。

ちゃんと未怜とランニングをしておいて、本当に良かったと。

ストレッチを済ませた僕は、カフェから出る。

琉海

「…ソウルイーターにだけは気をつけろよ、僕…。」

普通に歩いていければ、三十分ほどで広島駅には到着できる。

しかしそうもいかないようだった。

ミラさんが言っていたように、ソウルイーターがそこらじゅうを徘徊している。

小さいものから大きいものまで、種類はとても多い。

僕は深呼吸をすると、見つからないように駆け足で進んだ。

少し進んだところで、僕とは別の人間が見えた。

その男性もどうやら、駅を目指しているようだった。

僕は話しかけようか悩んだが、止めた。

理由は至って単純だ。

一人で行動したほうが、動きやすいからだ。

僕はソウルイーターがよそ見をしたタイミングを見計らい、大通りを通り抜けた。

物陰に隠れた時、背後から先ほどの男性の悲鳴が聞こえてきた。

僕は思わず振り返ってしまった。

琉海

「ッ!!」

悲鳴により、数台のソウルイーターに、その男性は貪り食われていた。

僕は息を呑み、再び前進した。

あの男性には悪いが、おかげで付近にいたソウルイーターはすべて悲鳴と匂いにつられ移動していたから、進みやすかった。


何分くらい走っただろうか。

どうやらあの辺りが異様に多かったようで、駅付近までまったくソウルイーターがいなかった。

しかし、駅に近づくにつれてソウルイーターも多くなってきた。

僕は一旦身を隠し、ソウルイーターの動きを観察した。

「アイツら、あそこからまったく動かねぇんだ。」

隠れていた僕に、サラリーマン風の男に話しかけられた。

僕は適当に相槌を返し、集中した。

「…誰かが囮になれば、駅に入れると思うんだよ。」

男はそう言っていた。

ここまで来る者は多く、先ほどより人数が増えていた。

男は僕の肩を叩き、耳元で何か言ってきた。

「…後ろにいる連中を囮にして、俺たちだけでも生き返ろう。」

琉海

「…何言ってるのか分かってるんですか?」

イカれた作戦に僕は思わず聞き返した。

その返しを聞いた男は小さく舌打ちをすると、離れていった。

再び集中しようとした時、今度は中学生の男子がやって来た。

廣場海斗ひろばかいとです。

一つ、思いついたんですが、いいですか?」

なぜ僕に言うんだと思いつつ、僕はその作戦を聞いた。

簡単に言うと、陽動作戦だった。

海斗

「俺、陸上部だったんで、アイツらを数体引き受けます。

なので、俺の妹をお願いしたいんです。」

海斗が指差したところには、ツインテールの小学生ぐらいの女の子だった。

琉海

「…その場合、君が危険じゃないか。」

僕は海斗の妹を見ながら言った。

海斗は軽く笑い、「大丈夫っす!」と答えてきた。

そして、海斗は僕の制止を聞かず、勝手に陽動作戦を始めやがった。

海斗

「お前ら!こっちだぞ!捕まえれるもんなら捕まえてみろ!!」

そう挑発されたソウルイーターの大部分が、海斗を追って姿を消した。

それを好機と見た連中は、何も考えずに走り出した。

僕は海斗の妹だけを呼び止め、走る連中とは少し距離を開けて駅に近づこうとした。

その時、僕が通ろうとした路地からソウルイーターが数体出てきた。

そして、あっという間に挟み撃ちにされた集団は、ソウルイーターのエサへと姿を変えた。

琉海

「……悪いな、僕も生きないといけないんだ…。」

僕はそう言うと、海斗の妹を抱き上げ、ソウルイーターの群がる中心を大きく避け、駅構内に進入した。

それを見た生き残っていた人間が一緒に来た。

大人数が動き始めたことで、ソウルイーターは気づいてしまい、数体が追いかけてきた。

琉海

「くそっ…!海斗はどこにいんだよ!?」

僕は走りながら、海斗を探した。

もう改札は目の前だと言うのに、彼の姿が一切見えなかった。

改札を次々に生存者が抜けていく中、僕は海斗の妹を抱え、改札前の店に身を潜めた。

改札を抜けれたのはたったの数人だけで、数十人といた生存者の半分以上がソウルイーターに殺されてしまった。

ソウルイーターが食事を楽しむ中、僕は海斗の妹に名前を聞いた。

「私、廣場美怜ひろばみれいです……。」

美怜と聞いて、僕は驚いた。

琉海

「…美怜か、いい名前だね。」

僕はたまたま未怜と同じ名前の美怜に、少しだけ驚いていた。

それと同時に、彼女を守りたいという気持ちが湧いた。


少し経って、僕の残り時間はあと三十分を過ぎていた。

僕は改札前を見て、ソウルイーターが一体なのを確認した。

琉海

「美怜ちゃん、僕がアイツを引き付けるから、そのうちに改札を抜けていつでも出れるようにしておいて。」

美怜

「でも、お兄ちゃんが…」

僕は彼女の頭をなでると、「必ず見つけるよ」と約束した。

そして、僕は彼女のためにソウルイーターを挑発した。

ソウルイーターは激昂し、僕へ襲いかかった。

僕は全力で攻撃をかわしながら、美怜が改札を越えるのを見届けた。

琉海

(後は海斗を連れてくるだけか…!)

僕はソウルイーターを壁に激突させて、怯ませた。

その隙に、海斗を探すために走った。

走っていると、血だらけの海斗を見つけた。

海斗

「…っ…」

海斗は辛うじて息をしていた。

琉海

「言ったろ…。そんな無茶して、死ぬぞ。」

僕は死にかけの海斗を背負うと、走って改札へ向かった。

先ほどのソウルイーターが復活しており、僕らを追いかけてきた。

海斗を背負っているせいで、走りが遅くなっている僕に、ソウルイーターは簡単に追いついた。

琉海

「くそっ!」(あと少しなのに!!)

僕はもう駄目だと諦めかけた時、ドダァンっ!!と背後から聞こえた。

それを確認するため、僕は改札の前で足を止めた。

「………」

それは僕がよく知るソウルイーターだった。

とりあえず海斗を美怜に引き渡し、「気をつけて帰るんだよ」と伝え、光の先へ歩ませた。

そして、僕はそのソウルイーターと向き合うのだった。

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