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君がいる街  作者: 文記佐輝
少女とまだ深い謎
20/26

十八日目:後編『遊園地』

必死に走っていた。

血の味が口いっぱいに広がっても、私は走り続けた。

私がわがままを言ったから、雫を危険にさらしてしまった。

私のせいだから、せめて私が、この事を琉海やミラに伝えなければならかった。

雫を死なせないために、私は交差点を目指して走り続けた。

そして、彼らが見えた。

智恵理

「琉海!!!」


ーーー

建物が破壊され、徐々に逃げ道を塞がれていく。

あたしは残り少ない球を袋から出し、ソウルイーターに当てる準備をした。

しかし奴は、あたしの思ったとおりには動かず、あたしのことを確実に殺しに来ていた。

ミラ

「ちっ…、無駄に学習しやがる!」

手に持っていた球をソウルイーターの頭部にぶつける。

着弾と同時に音は鳴り始め、多少のダメージを与える。

しかし音にも慣れてきたのか、以前よりも早く体勢を立て直す。

そのままあたしを切り裂こうとしてきた。

あたしはそれを避けきることが出来ず、胸から血が飛び散った。

ミラ

「くっ…!…ここまで厄介な相手になっちまうなんてな…!」

過去の失態を思い出しながら、少しだけ悔いた。

そんなあたしに、ソウルイーターは容赦なく襲いかかってきた。

あたしはふらつき、上手く動けなくなってきた。

琉海に注意する前に、あたし自身が注意すべきだったかもしれない。

だがそう思うにはすでに遅かった。

あたしは大きな手で掴まれ、勢いよく壁に叩きつけられた。

ミラ

「かはっ…」

大量に血を吐き、視界が悪くなってきた。

フラフラとなんとか立ち上がったが、身体はすでに限界を迎えていた。

体中から骨の軋むような音が聞こえ、立つだけでやっとだった。

ミラ

(万事休す、か…)

そう思った…、その時だった。

あたしが二人に渡した球がソウルイーターめがけて、飛んできた。

ソウルイーター:薫

「ッ!?!?!?」

不意を突かれたソウルイーターは、その場でうずくまる。

呆気にとられたあたしを、一人の男が背負って走り出した。

状況をようやく理解したあたしは、その男が琉海であることに気づいた。

ミラ

「待っていろと言ったろ…!」

琉海

「待ってたましたよ!でも来なかったのはミラさんです!」

素直に感謝の言葉が出てこないが、あたしは琉海の背中にしっかりとつかまることは出来た。

琉海の背中をつかんで分かったことがあった。

ミラ

「……お前、もしかして雫を…」

琉海

「はい?!…雫ならもう回収しましたよ!後は僕とミラさんだけですから!」

ミラ

「あたしのために戻ってきたのかお前は?」

琉海

「そうですよ!!」

彼は本当にお人好しだ。

だから早く死んでしまう。

ミラ

「あたしのことなんてほっとけば良かった…、なんで助けになんて…?

ここで死んでしまったら元も子もないんだぞ…。」

あたしはぎゅっと拳に力を込めた。

結局助けられてしまう自分が情けなくて、そんな自分が嫌で…。

だからこそ、彼を助けて自分を認めさせたかった。

ミラ

「…私なんて…、生きる意味なんて無かったのに…。」

思わず口からこぼれてしまったそれは、紛れもなく本音だった。

しかし言ってから気づいた。

強い自分でいようと、そういった弱音は吐かないと決めていたのに、はいてしまった。

あたしはその言葉を訂正しようとした。

琉海

「…そんな事言わないでよ。」

あたしがなにか言おうとした時、彼にそう言われた。

琉海

「僕は、ミラに会ってなかったら、確実にここに残ることを躊躇しなかったよ!」

ミラ

「…え…」

琉海

「ミラに会えたから!僕は生きたいと思えたんだ!

ミラが僕に、いろいろと教えてくれたから、僕は現世に戻ることを決めたんだよ!

僕にとってミラは、恩人なんだよ!そんな恩人が生きてる意味がないとか言うなよ!」

彼は怒りを力に変えながら、確実に交差点の裂け目に向け走り続ける。

琉海

「ミラも、僕と同じように生きたいと思えよ!!」

ミラ

「…ッ…!」

すでに限界は来ているはずなのに、彼は諦めず走る。

あたしは少し、彼のことを見誤っていたようだ。

彼は、あたしが居なくてもきっと、ちゃんと戻ることを決めていたと思う。

今なら、あたしは自信を持って彼から離れることができる。

ミラ

「…ありがとう。」

そして、あたしを背負ったまま、琉海は見事に逃げ切るのだった。


ーーー

ソウルイーターから逃げ切った僕は、その後の記憶がほとんど無い。

気付けばホテルのベッドに眠っていた。

身体の痛みはすでになくなっており、まるで先ほどまでの出来事が夢だったかのように思える。

そのくらい、僕に何の異常もなかったのだ。

時計を見ると、まだ朝の五時だった。

僕は体を起こし、隣のベッドで眠る兄さんを起こさないようにトイレへ行き、用を済ませると、ベッドへは戻りスマホをいじる。

琉海

「……ん?」

スマホをいじっていると、雫からメールが届いた。

シズク

『起きてる?』

突然のメールで少し驚いたが、とりあえず返信をする。

ルカイ

『早く起きちゃった。雫も同じ?』

シズク

『うん…、変な夢?見ちゃって…。』

ルカイ

『…僕も同じ。奇遇だね。』

シズク

『…同じ夢だったのかもしれないね…。』

彼女の言っている夢とは、おそらく昨日のことだろう。

雫を助けた時、彼女が僕に言った事がある。

『弱くてごめんなさい。』

そう彼女は言ったのだ。

まるで誰かに向け言っているように、彼女はそれを数回繰り返した。

ルカイ

『…疲れはない?』

シズク

『精神的な疲れは、ちょっと…。でも、身体的な疲れはないから大丈夫だよ。』

ルカイ

『無理はしないでね。もし疲れたら、僕が甘やかしてあげるから。』

シズク

『それ本当?嘘はイヤだからね。』

そんなやり取りを数分続け、彼女は安心したのか、『ありがとう』と言うメッセージと、変な顔文字を送ってきた。

僕も変な顔文字を送り、そっとメールを閉じた。

琉海

「……君は強いよ。弱いわけがない…。」

彼女の強さは、僕がよく知っている。

だから、今この世界でだけでも、僕は彼女の事を甘やかしてあげたい。

そう思うのだった。

ーーー同時刻。

私は枕に顔を埋め。悶絶していた。

沙織

「…ん〜、雫ちゃん起きたの〜?」

「…もう少しだけ寝るので、沙織さんももう少しだけ寝てて大丈夫ですよ…。」

沙織

「…そっか〜…。くぅ…くぅ…」

私は布団を頭までかぶり、彼からのメッセージを改めてみた。

『ー、僕が甘やかしてあげるから。』

どうして彼は、そんな恥ずかしい事を平然と送ってくれるのだろうか…。

私はその画面をスクショし、保存した。

「…耳、あっつ〜…。」

私はスマホを抱きしめ、今度はリラックスした睡眠をとった。


ーーー

「遊園地だぁ〜!!!!」

昨日あんな事があったのに、雫はとても元気だった。

僕とサクラさんはそれを見ながら、軽く微笑んだ。

サクラ

「あの調子なら、心配は無用そうだね。」

琉海

「そうですね。…今日はゆっくりと羽根を伸ばしましょう。」

そう言いながら、僕らもはしゃぐ雫と智恵理たちの後を追うように歩く。

遊園地は改装後初の開園にも関わらず、大勢が遊びに来ている。

僕らは各々はぐれないように手を繋いだりして歩いた。

「見て見て!ナッキーだよ!初めて実物見たぁ〜!」

裕介

「こうしてみると…、ちょっと怖…。」

兄さんが思わず本音を漏らしかけたりしたが、それなりに楽しい午前を送ることが出来た。

そして午後からは、雫と僕だけは皆から離れ行動することにした。

「次あれ乗ろ!」

琉海

「絶叫系はもう勘弁してほしいんだけど…。」

すでに満身創痍な僕をよそに、彼女は楽しそうに僕の手を引いてそれに乗る。

乗っている最中は、ほとんど声も出せなかったが、隣ではしゃぐ雫を見れたことだけは、本当に良かったと思う。

それからも色々と巡り、日が完全に落ちた。

「楽しかったねぇ〜。なんだか疲れちゃった…。」

彼女は店で買ったスムージーを飲みながら、上に羽織っていた上着を脱ぎ畳んだ。

僕も同じスムージー飲みながら、遠くでやっているパレードを見ていた。

「…琉海は楽しかった?」

琉海

「……楽しかったよ。」

僕は今日一日の事を思い返しながら、感情の無い返答を帰してしまった。

それが不服だったのか、雫は僕の顔を両手で掴み、自身の顔の方へ向けさせた。

琉海

「……にゃに?」

ホッペをぐにぃっとされながら、僕は尋ねた。

「琉海…、今日ずっと心ここにあらずだよ?」

琉海

「…別に、そんなことないよ。」

僕は雫の手を握り、本当のことを伝えた。

琉海

「…ただ、昨日雫が消えてさ、…また何も出来ずに君を失うと思ったら…、自分が許せなくてさ…。」

「…」

雫は黙って、僕の手を握り返してくれた。

僕は続けて話した。

琉海

「…僕はさ、君のことを一番救える位置にいて、何も出来なかった。

そのせいで君を失ってさ…、本当に後悔した事を思い出して。

…だから今回の事を経てさ、僕はようやく決めることが出来たんだよ。」

「それ、聞いても良い?」

少しだけ、握る力が強くなった気がした。

僕は彼女をしっかり見つめ、これからしたい事を話す。

琉海

「…僕は、君と思い出を作りたいよ。

今度は後悔しないように、君との思い出を以前よりも多く作りたいんだ。

こうして遊園地へ来るのに賛同したのも、君との思い出を作るためだったんだ。

だから…、君がよかったらこれからも…」

そこまで言って、僕の口は彼女によって閉ざされた。

口を閉ざしていた彼女は離れ、僕のことを見つめた。

「……もっとたくさん思い出を作ろう。

私たちだけの思い出を、これからいっぱい。数え切れないほど作ろ。

それで、現世で再会したとき、こんな事があったんだって、同じところを一緒に巡ろう。

きっと琉海となら、私は楽しいと思うんだ。」

彼女は僕が言いたかったことを、見事にすべて当ててみせ、その上やりたい事をどんどん挙げている。

僕はそんな彼女に感謝を述べた。

琉海

「…ありがとう、雫。」

雫は優しく微笑んだ。

「残り少ないかもしれないけど、…本当に私でいいの?」

彼女はもう一方の手で頬をかきながら、そう問いかけてきた。

僕は頷き、両手で彼女の手を握った。

琉海

「僕は、雫がいいんだよ。

僕ら二人だけの思い出を作ろう。いっぱい行きたいところに行って、最後の日が来るまで、ずっと旅をしよう。」

ずっと後悔だけを抱えて生きてきた。

だから僕は、その後悔を塗り潰すために、雫と向き合う。


この日から、ようやく僕らの物語は始まったんだ。

僕と雫だけの思い出を作るための旅が。

そして始まるんだ。

運命を変えるための下準備が…。

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