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二日目『東雲雫との思い出』

チュン、チュン…

外から可愛らしい小鳥のさえずりが聞こえ、僕は目を覚ました。

時計を手に取り、今の時間を確認する。

針はちょうど、六時を指していた。

ー琉海

(…いつもの癖で起きちゃたのか…)

僕は覚めてしまった目を擦りながら、トイレへ向かうことにした。

ギシィと、床の軋む音をなるべく立てず、廊下を歩く。

久しぶりに帰ってきたこの家は、昔と全く変わっておらず、とても安心する気持ちになった。

手洗い場へついた僕は、先に用を済ませると、洗面台で手を洗いながら、昨日のことを思い返していた。


ー雫?

東雲雫(しののめしずく)って、私なんだけど…』


彼女は、確かに東雲雫と瓜二つで、違うところを見つけろという方が無理なくらいに、同じ人に見える。

しかし、僕の記憶では、東雲雫は強盗に刺され死亡したと認識している。

そのため、彼女が東雲雫であるはずがないのだ。

僕はまだ、この事を他の人には話していない。

皆を混乱させまいと、昨日は過ごしていた。

だが、僕はすでに違和感を感じていた。

昨日の夕飯の時に東雲雫について、間接的に聞いてみた。


ーーー昨日

ー琉海

「…皆はさ、三年前の事件のことって覚えてる?」

ー母

「覚えてるわよ、あの時は大変だったわよねぇ〜」

長姉(ちょうし)

「ほんとほんと、おかげで私なんか会社に遅れちゃったからねぇ」

ー琉海

「…あの事件って、誰か亡くなったんだっけ?」

ー母

「そうねぇ、確か亡くなったのは、笹原さんのところの息子さんが亡くなったのよね?」

次兄(じけい)

「確か一番下の、名前は…」

次姉(じし)

「光くんだよね?…いい子だったのにね…」

ー琉海

「……そう、そうだったね、光くんがね…」

ー母

「まぁ、そんな暗い話はここまでにして、もっと楽しい話をしましょ!」


ーーー現在

結果として、あの事件は起きていたものの、亡くなった人物が変わっているという状況だった。

ー琉海

「僕の記憶が間違っていたのか…?」

そんな事を思ったが、すぐにそんなことはないと頭を振った。

頭をさっぱりさせたいと思い、僕は顔を冷たい水で洗い流した。

いくら考えても、今の状態では理解できないと判断した僕は、タオルで顔を拭きながら、台所まで行き、冷蔵庫を開けなにか無いかと探った。

ー妹

「…こんな朝早くから何してんの?」

冷蔵庫を探っていると、突然背後からそう聞かれ、僕は驚き素早く振り返った。

ー琉海

「お、おはよう…、早いんだね、ミレイ…」

未怜(みれい)

「ジョギングをしようと思って。お兄ちゃんは?」

ー琉海

「僕は、…いつもの癖で…」

ー未怜

「いつもの癖って…、また寝るの?」

ー琉海

「いや、せっかく早く起きたし、何かしようかなって…」

「ふ~ん…」と言いながら、未怜は僕の腕をくぐりスポーツドリンクを取った。

ー未怜

「もしやること無かったら、一緒に行く?」

腕を軽く振り、ジョギングのジェスチャーをした未怜は、少し嬉しそうにしていた。

僕は特に断る理由もなかったし、頭を整理するいい方法だと考え、未怜と一緒にジョギングすることにした。

その提案を承諾すると、未怜は嬉しそうに笑い、玄関へ向かった。

ー未怜

「着替えてきなよ、私はその間に、ウォーミングアップしとくからさ♪」

そう言い玄関の鍵を開け、外へ出た。

僕は言われた通り、ジャージへ着替えると、家を出た。

ー未怜

「…それ、高校の時のジャージでしょ。まだ着れるんだ。」

ー琉海

「さほど身長も伸びてないからね。」

そう返答し、僕もウォーミングアップをする。

ー未怜

「大学に入ってからも、スポーツは続けてるの?」

その質問に、僕は答えれなかった。

未怜はその様子を見てか、小さく頷くと、話題を変えた。

ー未怜

「…そう言えば、もうミオちゃんとは会った?」

ー琉海

「ミオ?…あぁ…、まだ会ってないかな。」

ー未怜

「その反応、ミオちゃんのこと忘れてたでしょー?」

ニヤニヤとからかうように言うと、未怜はポーチからスマホを取り出すと、未怜とミオらしき人物のツーショット写真を見せてくれた。

その写真に写る彼女を見て、ようやく思い出した。

ミオ、フルネームは前原美桜(まえはらみお)

未怜と同じ学年の、僕をよく慕ってくれていた女の子だ。

ー琉海

「…ミオのことを忘れるなんて、僕も衰えたな…」

ー未怜

「おじさんみたいなこと会わないでよ〜。

まぁ、その事をミオが知ったら、心底絶望するだろうけどね〜」

小悪魔のような笑顔で、そんな脅しをしてくる。

いつからそんな小悪魔な性格になったんだ未怜…。

そんな未怜に、少し恐怖を感じながら、心のなかでミオに謝罪した。

ー未怜

「お兄ちゃんは手加減しなくていいから、私も楽だな〜。」

楽しそうに笑いながら、未怜は軽く走り出した。

僕は彼女の後ろに続き走った。

未怜はこちらをチラッと見ると、少しペースを上げた。

ー琉海

「いつもこんなに速いのか?」

ー未怜

「これでも抑えてる方だよ。

それに、負荷をかけ過ぎても、無意味だしね。」

さすがは未怜、僕の可愛く賢い妹だ。

決してシスコンというわけではないが、ジョギングの最適解をちゃんとマスターしているのだ。

もうそれはさすがと言わずして何がある?

僕は満足げに微笑み、ウンウンと頷いた。

ー未怜

「もしかして、私のこと馬鹿にしてるぅ?」

ー琉海

「その逆、お前は可愛いなとそう思ってただけ。」

ー未怜

「なにそれ?セクハラ?」

ー琉海

「エッ、なんで?!」

そんなんで今はセクハラになるのかと、改めて言動を気をつけようと思った。

しかし、未怜の顔を見てみれば、案外まんざらでもなさそうな様子だった。


ーーー1時間後…

僕達は公園で休んでいた。

ー未怜

「久々に誰かと走ったけど、たまには良いもんだね〜!」

スポーツドリンクを飲みながら、楽しげにそう言った。

僕はそれに同意しながら、自販機で買った飲料水を飲んでいた。

ー未怜

「お兄ちゃんはいつまでここにいるの?」

そう聞かれ、僕は少し考えた。

ー琉海

「あんまり考えてなかったけど…、まぁ、少なくとも8月の真ん中まではいるつもりだよ。」

未怜は「そっか」と言うと、ベンチから立ち上がった。

何をするのだろうと、彼女の事を見ていると、どうやら鉄棒まで歩いていった。

ー未怜

「…最近変なんだよねぇ。」

そう呟くと、鉄棒をしっかり掴み、逆上がりをしてそのまま頂点で止まった。

ー未怜

「…ねぇお兄ちゃん。…あの日死んだのってさ…」

そこまで言って、未怜はなぜか黙ってしまった。

僕は彼女のその言葉に、自分と同じように覚えているんじゃないかと思い、少し期待した。

ー琉海

「未怜?…どうした?」

ー未怜

「…うーん、やっぱり何でもないや!」

そう言うと鉄棒の上に立つと、そこから飛び降りた。

見事に着地を決めると、「ふぅ」と小さく息をつくと、歩いて公園の出口へ向かった。

僕は彼女にその続きを聞こうと思ったが、それを別の少女によって止められてしまった。

ー???

「あの、昨日の人ですよね?」

そう聞かれた僕は、そちらに目線を向ける。

そこに立っていたのは、昨日東雲雫と名乗った少女だった。

ー雫

「いきなり逃げちゃってごめんなさい!

…名前を知っていたから、つい怖くなっちゃって、一応逃げてみたんです。」

ー琉海

「……あぁ、いや、気にしてないので大丈夫ですよ。」

軽く笑って見せて、僕はすぐにその場を立ち去ろうとした。

しかし…それを彼女は許してくれなかった。

ー雫

「……もしかして、増田琉海ますだるかい、くんですか?」

ー琉海

「…ッ!?」

僕の名を彼女の口から聞き、動揺した。

ー未怜

「……雫さん、お兄ちゃんはジョギングをしたばかりで疲れているんです。

とりあえず今は、家へ帰してもらってもいいですか?」

未怜は僕の腕にしがみつくと、引っ張った。

それを見た雫は、少し申し訳なさそうに何かを言おうとした。

しかし、未怜はそれを許さずに、「では」と彼女の伝え僕を引っ張って帰路についた。

僕は遠ざかる雫を見ながら、本当に彼女は僕の知っている雫なのではないかと思うのだった。


ーーー

家へ帰ると、未怜はシャワーを明日素早く浴び、制服に着替えた。

ー琉海

「学校?」

ー未怜

「うん、と言っても部活をするだけだけどね。

行ってきまーす!」

そう言うと、部活のため学校へ行く未怜を見送った。

玄関に残された僕は、何をしようかと考える。

そこへ、買い物バッグを持った母がやって来た。

ー母

「琉海、暇なら頼み事を頼まれてくれない?

アタシはこれからスーパーに行ってくるから、こっちのことを頼みたいのよね。」

ー琉海

「ん、いいよ。頼み事って何?」

僕は母から頼まれ、家の畑で採れた野菜を袋に入れ近所の人に配るため、外出をした。

近所の人たちは、僕のことをしっかり覚えていてくれて、僕は少しうれしく思った。

そして、最後の家に配りに行く時、その家の表札を見て固まった。

ー琉海

「…東雲。」

そう、最後に配りに来た家は、東雲雫の実家であった。

僕はあの葬式で会った、雫の両親の顔が今でも頭から離れない。

しかし今ならば、昔の二人のままなのではないかと、少し期待をしてここへ来た。

僕はインターフォンを押すと、返事が来るのを待った。

そして数十秒後、玄関のほうから「はーい」という声が聞こえてきた。

そして玄関の扉が開かれると、そこから出てきたのは雫だった。

ー雫

「あっ、…こ、コンニチハ…」

ー琉海

「…こんにちわ。」

彼女の後ろから母親が現れる。

東雲舞菜しののめまいな

「あら!琉海くんじゃない!帰ってたのね〜!」

舞菜さんはサンダルを履くと、こちらへ駆け寄ってきた。

僕は彼女に挨拶をして、野菜の入った袋を渡した。

彼女は僕に家へ上がるように誘うと、僕の背中を押した。

拒否権のない僕は、遠慮気味に家へ上がらせてもらう。

その間、雫はずっと僕のことを見つめ続けていた。

ー舞菜

「ごめんなさいねぇ、少し散らかっているのだけれど…!」

舞菜さんはテキパキと掃除をこなすと、あっという間にきれいになった。

ー琉海

「相変わらずわけの分からない速さですね。」

僕は感動を伝えた。

ー舞菜

「嬉しいことを言ってくれるわねぇ。遠慮せずにソファに座っちゃって!」

指定されたソファに座ると、すぐにオレンジジュースが出てきた。

ー雫

「あ、それ私の…」

ー舞菜

「いいじゃない、貴女一人でこの量飲むのは無理でしょう?」

そう言われた雫は、「うっ」と言うとソファにしょんぼりと座った。

僕は辺りを見渡した。

そしてある違和感に気づいた。

ー琉海

「…写真、最近は撮ってないんですね…?」

ー舞菜

「そうなのよねぇ、私たちもあまり良くは覚えていないのだけど、つい先週まで撮りたくなかったように思うのよね。」

「不思議だわ〜」と言いながら、舞菜さんは台所へ向かった。

…先週まで撮りたくなかった。

きっとそれは、大好きな雫が存在していなかったからだろう。

これは沙織さんから電話で聞いたことだが、雫が亡くなってから、母親の舞菜さんが今まで撮った写真をすべて捨てたと聞いていた。

だからこそ、僕はその違和感に気づくことが出来た。

ー琉海

「…その、写真はずっとここに?」

ー舞菜

「えぇ、そこから一度も動かしていないからねぇ。」

捨てたはずの写真はすべてここにあり、その上動かしていないときた。

どうやら雫が生き返っただけでなく、雫に関するものも全て復活しているようだ。

それに気づいた時、僕は二階に行ってもいいかを聞き、了承を得て二階へ上がった。

ー琉海

(もし雫に関するものが復活しているのなら…!)

僕は迷わず雫の部屋、の隣の部屋を開け放った。

ー琉海

「…やっぱり、ここも復活しているよな…」


ーーー

ー琉海

「ここ懐かしいな〜!」

ー雫

「ずっとこのままにしていたんだよ!」

フフンと胸を張る。

ー琉海

「でもこの部屋って、何かで使わないの?」

ー雫

「使わないよ。もともと空き部屋だったらしいし。」

ー琉海

「じゃあここは僕らの秘密基地だね。」

ー雫

「秘密基地ってかっこいい!!」

走ってテントの前まで来て、再び胸を張る。

ー雫

「今よりここは、われらのアジトだ!!

あーはっはっはっーー!!」


ーー

ー舞菜

「………」

ー琉海

「……舞菜さん、僕も手伝いますよ…」

ー舞菜

「……ありがとう、琉海くん…」

ー琉海

「いえ……、こういうことしか、できないんで…」

ー舞菜

「………ねぇ」

ー琉海

「…はい…」

ー舞菜

「どうして…、あの子だったの…?」

ー琉海

「……雫は、みんなを救ったんです。」

ー舞菜

「みんなを……?

ならどうして…、雫は救われなかったの…?」

ー琉海

「…それは…」

ー舞菜

「……雫は何か、悪いことをしたの…?

…あんなに優しい子が、いったい何をしたっていうの…!?

琉海くん…!お願い!教えて…!あの子は悪い子だったの?!

ねぇ!!…ねぇ…!

どうして…、どうしてなの…?」

僕の肩を掴み、震える声でそう訴えかける。

僕はそんな舞菜さんに、何も言ってあげることが出来なかった。

信じがたい真実に、まだこの人は向き合えていないのだ。

ー舞菜

「……雫は、あの子はずっと、琉海くんのことばかりを話して、楽しそうだったの…。

あの子にとって、貴方は大切な人だったの…。

どうして、助けてくれなかったの…?」


ーーー

「…………」

何も答えれなかった。

あの日、確かに僕は近くに居た。

何なら彼女を唯一救えるような場所に居たのに、僕は恐怖で何も出来なかった。

本当なら僕に、彼女たちに会う資格など無いのだ。

ー琉海

「…ごめん、ごめん、なさい。」

気付けばその場で膝をついて涙を流していた。

どれだけ謝っても、本当ならもう届かない。

だが、今ならば彼女に、彼女たちに謝罪をすることができる。

しかし、そんな事を言われても、今の彼女たちには何もわからないだろう。

僕は涙を拭い、立ち上がる。

ー琉海

「……君が本当に雫なら、あの時よりももっといっぱい思い出を作ろう。」

この夏は、雫との最後の思い出としよう。

そう誓い、僕は彼女たちの元へと戻るのだった。

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