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君がいる街  作者: 文記佐輝
謎集い
12/26

十二日目『未来は信じて』

日が昇り、私に生を実感させる。

ー私

「…なんでまだ生きてるんだろ…?」

そう呟き、私は再び立ち上がり、歩き始める。

一つの手紙を握りしめたまま、歩き続ける。


ーーー

僕は雫とともに、例のカフェへやってきていた。

理由はもちろん、ミラさんと話すためなのだが…

ー雫

「…今日もいないね。」

ー琉海

「そうだね、何かあったのな?」

二日前に会っていこう、僕らはミラさんと会えずにいた。

昨日は、体調でも崩してこれないのだろうと思っていたが、今日もいないとなると、流石に心配はする。

一応昼まで待つことにした僕らは、適当に注文をし、席で待った。

しかし、ミラさんは姿を見せることはなく、あっという間に時間が過ぎてしまった。

僕らは店を出ると、適当に歩き始めた。

行く先は決めていない。ただ歩きたかったから歩く。

歩き始めて、どのくらいが過ぎたのだろうか、気づけば日がかなり沈んでいた。

ー琉海

「…そろそろ帰らないとな。」

ー雫

「…そうだね、もうそんな時間なんだ。」

雫はスマホを確認して、少しだけ驚いていた。

僕もスマホを開く。

スマホはすでに、午後十七時を示していた。

空はまだ明るい気がしたが、それは気のせいだった。

ー琉海

「雫。…どうやら今日は、お祭りがあるみたいだよ。」

ー雫

「え?」

僕は雫に分かるように、指を指した。

ー雫

「本当だ。」

ー琉海

「…ついでだから、寄ってみる?」

その誘いに、雫は少し考えたあと、小さく頷いた。

ー雫

「……昔みたいに、琉海とお祭り楽しみたいな。」

そう言う雫の手を取ろうとする。

雫は一瞬、手を避けたが、少し悩んだあと手を取ってくれた。

ー雫

「…ごめんね…、私、変な夢見てから、琉海のこと信用できなかったんだ…」

申し訳なさそうに、困ったような笑顔を作る。

僕は、そういうことだったのかと納得して、雫の前に出て目線を合わせた。

ー琉海

「僕は、何があっても雫を裏切ったり、見捨てたりしないよ。」

ー雫

「……うん…。」

雫は恥ずかしそうに顔を背けると、僕の手を引いて歩き出した。

そして、僕らはこの日、ようやく昔のような関係に戻ることが出来るのだった。


ーーー

騒々しい音が、私の耳を貫く。

ー私

「…皆、楽しそうだな…、目障りだなぁ…」

いったいどこが騒がしいのか、私は気になり、その場所へ向かった。

少し歩いたところで、騒音の原因を見つけた。

どうやらお祭りをしているようだった。

ー私

「……!…いい匂い…」

お祭りに近づいたせいか、屋台で焼かれる何かの匂いが漂ってきていた。

私は美味しそうな匂いに誘われ、足が動き始めた。

その時だった。

私の視野は、空腹によって狭まっていたせいで、人とぶつかってしまった。

ー???

「…イテ。」

私は力無く倒れ、ぶつかったその人を見上げた。

ぶつかった人は、浴衣を着た女性だった。

ー???

「大丈夫か、嬢ちゃん。」

女性は私に手を差し伸べた。

私はその手は借りず、立ち上がる。

ー???

「可愛げのない嬢ちゃんだぜ。」

頬をかきながら、呆れたような口調でそう言った。

私は小さく、「すみませんでした」と言い、その場を去ろうとした。

ー???

「待った、嬢ちゃん。あたしはまだ許しちゃいねぇぞ。」

そう言われ、私は足を止めた。

振り返ると、女性は私の手を取り、歩き始めた。

逃げてもよかったが、その力が今は残っていなかった。

そのため、女性に引っ張られるがまま、連れられた。

ー???

「おうお兄ちゃん、コイツにめっぽう美味いたこ焼きを作っておくれ。」

ー私

「………え?」

女性は屋台の若い男性に、そう注文をすると、隣の椅子を借りると伝え、私を連れて椅子に座った。

私は、この女性が何をしているのかわからず、尋ねた。

ー私

「あの…、何で私に…?」

ー???

「あ?…あぁ、そうだな、今日はあたしが許すまで着いてこい。」

女性は優しい笑みを見せると、出来上がったたこ焼きを、屋台の男性から受け取った。

たこ焼きは、ホカホカと湯気を上げながら、美味しそうなかつお節がまるで行きているようにウネウネしていた。

私は美味しそうな匂いを嗅ぎ、思わずよだれが出てきてしまった。

女性はそれを見て笑い、一つのたこ焼きを、息で冷ましてくれた。

ー???

「ほらよ、暑いから気をつけろよ?」

ー私

「…ん。」

私は恐る恐るそのたこ焼きを口に入れ、慎重に咀嚼する。

噛んだ瞬間、旨味成分が口いっぱいに広がった。

同時に、どこか懐かしいような風味を感じ、涙が出てきた。

ー???

「…美味しいか?」

ー私

「……おい、しい…!美味しい…です!!」

私は涙を一生懸命に拭い、たこ焼きをしっかり噛み締める。

それからはずっと女性に連れられ、今までの暗い気持ちがこの時だけは忘れることが出来た。

ー???

「今日は楽しかったか?」

女性は私の手を握ったまま、そう尋ねた。

ー私

「うん…、楽しかった。全部、貴女のおかげ…。」

ー???

「…あぁ、そういや名乗ってなかったな。」

女性は、穴場と言われている神社の境内にあるベンチに座った。

私は女性のすぐ隣に座り、頭を女性の腕に寄りかかる。

ー???

「どうせ今日だけかもしれないがな、一応名乗っとくかな。」

ー私

「じゃあ、私から言いたい!」

ー???

「お?いいのか?」

女性は意外だと言わんばかりに…、いや、ある程度予測できていたように笑っていた。

少しムッと思ったが、私はとりあえず名乗ることにした。

ー私

「…私の名前は、増田智恵理ますだちえりって言います。」

ー???

「ほう!…なるほど、君が…。」

ー智恵理

「え?」

「なんでもねぇぜ。」と、笑いながら誤魔化された。

ー智恵理

「それで、貴女の名前は?」

ー???

「…そうだったな。

あたしの名前はな、………」

その時、花火が打ち上がり、女性の声がかき消された。

しかし、直ぐ側に居た私には、その名前がよく聞こえた。

ー???

「………聞こえたか?」

ー智恵理

「…それって…、本当なんですか…?」

ー???

「本当だぜ。」

私は彼女の名前を聞いたことがあった。

それどころか、彼女はきっと、わたしの…

ー???

「これは、あたしと智恵理の秘密だぜ。」

彼女は笑顔を作り、わたしの頭をなでる。

それは、長年わたしが望み続けたもので、わたしはずっとこの時間が続くことを望んだ。


ーーー

花火はそろそろ終わる。

雫は僕から離れ、口元を隠す。

ー雫

「花火、綺麗だったね。」

僕に顔を見せないように、雫は残り数発の花火を見ながらそう言った。

ー琉海

「……そう、だね。」

唇を指でなぞり、何が起きたのかを必死に思案する。

それを見た雫は、僕に近づき、抱きついてきた。

ー雫

「……あんまり、深くは考えないでね…。」

ー琉海

「む、無理言うなよ…。」

穴場と言われる神社とは言え、数人人がいるのが分かる。

そんなところで、彼女は僕に…

不意を突かれた僕も悪いが、少し気に食わなかった僕は、雫を抱きしめやり返した。

そして、最後の花火が終わったタイミングで、僕も彼女を離す。

ー琉海

「…これでおあいこ、だな?」

ー雫

「……うん…。」

雫は顔を隠し、小さく返事をしてくれた。

そんな彼女が可愛くて、思わずからかいたくなった。

ー琉海

「自分から始めたのに、恥ずかしいの?」

僕はニヤニヤとしながら、彼女をからかう。

ー雫

「うるさい…。ルカイだって、顔…、真っ赤だよ?」

ー琉海

「うっ…。」

まさか冷静にカウンターを食らうとは思っていなかった僕は、もろにそのカウンターが入った。

僕らはお互い、微妙な笑顔を見て、笑った。

ー雫

「んもー!笑わないでよぉ〜!」

ー琉海

「雫だって!ははは!」

皆が帰っていく中、僕らは笑い合う。

これまで悩んでいたのがバカバカしく思えるくらい、僕らは笑い合った。

それから一時間ほどかけ駅に着いた。

電車はあと少しで出発するところで、僕らはギリギリ間に合った。

ー雫

「はぁ〜疲れたぁ〜!」

ー琉海

「こんなに走ることになるなんてな。」

僕らは汗をハンカチなどで拭き、冷房の効いた車内でゆったりした。

ー琉海

「……」

ー雫

「……」

昨日までは、いつも対面で座っていた彼女は今、僕の隣にいる。

無言で、気まずさがあった空間ではなく、今はなぜか、無言でも心地よさがあった。

ー雫

「…ルカイ〜。」

ー琉海

「…なに?」

ー雫

「私、…やっぱりルカイのこと好き。」

ー琉海

「え?」

ー雫

「ずっと好きだったんだ。…小学生の時から、ずっとね。」

ー琉海

「……」

僕も好きだ。

だけど、僕にそれを伝える資格がないことは、僕が一番理解している。

あの日、彼女のことを救えなかった僕に、彼女が好きだなんて。

そんな事を伝えることは…

ー雫

「もう、…気にしなくていいよ。…私は、怒ってないからね…。」

ー琉海

「……雫…」

彼女は、雫はまるで僕の心を読んだかのように、僕が言ってほしかった言葉をかけてくれた。

ずっと許しもらいたくて、僕は三年間、恋愛からはずっと離れてきた。

だが、彼女は僕のことを許してくれた。

僕は気づけば、子供のように泣き出していた。

ー琉海

「僕、僕は!…君のことを救えなくて!…救える距離に居たのに!…あの時君を救えたのは、僕だったのに!

ごめん、…ごめんなさい!

僕は、逃げてしまったんだ!君のことを置いて、逃げてしまった!

本当に…、ごめんなさい…!!」

雫は泣きじゃくる僕の頭を、優しく撫でてくれた。

ー雫

「大丈夫、大丈夫だよ。…私は、ルカイが生きていてくれただけで、本当に嬉しいんだから。」

優しさで、僕のとこを包みこんでくれる彼女は、まさに聖母のような存在だった。

そんな彼女を、僕はあの時見捨ててしまった。

その罪悪感は、僕のことをずっと追いかけてきて。

それと決別がしたかったのだろう。

僕は地元へ帰ることを決め、雫に別れが言いたかったんだ。

記憶が戻りつつあり、僕は決意する。

ー琉海

(…必ず、救う…、今度は、僕が雫を…!!)

涙を拭き取り、彼女の目をしっかり見据える。

雫は優しい笑顔で、僕のことを見てくれる。

ー琉海

「……雫、僕は、僕も君のことが好きだ。大好きだ。」

ー雫

「…そう、なんだ。…私だって、大好きだよ。」

なぜか張り合おうとする雫に、僕は自然と笑顔になり、また互いに笑い合う。

僕と雫は目が合い。

そして僕らは、再びキスをするのだった。

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