ラビスの決意
セルリアが発って1週間。
無茶な生活のツケはジャルの家で看病してもらい回復したものの、相変わらず鋪装もされてない道の移動をして来たことで、顔色が悪い上についたばかりで疲れきっていた。
「やっぱり、車苦手かも……」
胸に不快感を抱えたままだが、少しでも早くと重い体に鞭を打って歩き出す。
まず向かったのは、ジャルの父親の住む家からまだ近い、パノスと初めて会った宝石店。
原点にもなった場所から聞いて行こうと足を運んだ。
「いらっしゃいませ。」
店内に入ると、ほぼ腰元の高さまで土台で出来ているガラスケースがずらりと並ぶ。
透明度の高いガラスケースの中で、光に輝く宝石を携えた数々のアクセサリーが並んでいる店内。
そしてピシッとスーツを着こなした男がラビスの元に歩みより、丁寧に一礼した。
「あ、いえ、あの……っすみません、お客ではないんです。お尋ねしたいことがありまして。」
ラビスも客でない事に謝罪して頭を下げる。
顔を上げた店員は疑問を映すが、尚も丁寧に内容を尋ね返した。
「あの、以前ここのお客様として見かけたんですが。貴族のパノスという方をご存知ですか?」
「はい。シュノー家のお坊っちゃまでございますね。ご贔屓にしていただいておりますが……?」
「実は、僕の大切な友人がパノスさんのお家に滞在してまして、会いたいんですが。お家の場所をご存知でしたら、教えていただけませんか……!」
今はただセルリアに会いたいが一心で、深く頭を下げて頼み込む。
ラビスにはそれしかできなかった。
「どこか、地方からお越しなのですか?」
「あ、はい。」
店員はどこか戸惑うように言葉をかけ。ラビスも思わぬ質問に首を傾げる。
「道のりくらいならば……街の住人にも広く知られていることなので可能ですが。
ご友人に会いに行かれるだけですよね?」
店員からラビスを品定めするように視線を受ける。知り合いでこそ、警戒をされるのも自然だろう。
「はい。お店にも迷惑をかけることのないよう、約束します。お願いします!」
店員もヨシと判断されたのだろう。店の外に出て道のりを説明され、ラビスは聞いて覚える。
「本当に、ありがとうございました!
すみません……商品でも買えたらいいのですが手が届かなくて。本当にすみません、ありがとうございます!」
何度となく頭を下げて精一杯に礼に代えるラビスに、店員は困ったように、けれど優しく穏やかに笑う。
「あ、そうです。少々のお金はお持ちですか?」
店員はニコやかに言い、ラビスを連れて一度店内へと戻り。奥に引っ込んだと思えば、薄く広い箱を手にして戻ってくる。
そこには、30個程の指輪の刺さったケース。しかし店舗に並ぶにしては輝きが劣るというよりは、光ものではない小さな石のようなものがはめられた指輪の数々。
「素人の趣味で商売するのも申し訳ありませんが、こちらならチップ程度でかまいません。
大切なご友人に、いかがですか?」
「何から何まで、ありがとうございます……っ!是非いただきます!」
ラビスは小さなプレゼントを手にして、また少しセルリアの元へと急いだ。
ジュエリーショップの店員に説明された通りに道を行けば、距離はあっても目立つ建物。街の住人が幅広く知っているというのも納得な屋敷を目指して走った。
しかしさすがは貴族の屋敷と言ったところだろう。屋敷も目前でも、立派な格子のような門には小屋付きで見張りまで居る。
「僕は、ウィーストリア村から来たラビスと言います。セルリアさんに会わせてもらえませんか。」
ラビスは見張りに訴えると、すぐ側の電話で屋敷の中と連絡をとっているらしい。
ラビスはそれが終わるのを逸る気持ちを抑えながら待っていたが、パノスにでも繋いだのか見張りの様子が変わる。
「あいにくですが、追い払えとの命令です。お引き取り願えますか。」
追い払えという強い一言にはラビスは息を飲む。グッと覚悟を決めた。
「話したいだけです。無理矢理連れ戻そうとかでは、ないんです。」
「会わせる事からないとの事です。お引き取り頂けないのであれば、実力行使をしろと言われています。」
「っ帰るつもりはありません。」
そう答えたラビスに、男の拳が飛んで来た。
舗装された道に倒れて滑る。しかしまた立ち上がり、門の前へと歩いて戻る。
殴り倒れを繰り返し、ラビスはあっという間に全身に響く重い打撃の痛みに呻き、崩れ落ちた地に擦れて傷を作り、土にまみれて何度も這いつくばる。
しかし、ラビスはガタガタの体を時間をかけながらも何度でも立ち上げる。
「っぐ……!セルリアさん……っ!!」
ラビスは痛みをこらえ、声を張り上げた。




