表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/43

シュノー家 2


「セルリア。入るぞ。」



どれだけそうしていたか、しばらくしてから声と共に扉が開く。

ノックはなく扉が開き、入った人物はすぐ側の壁にあるスイッチを押し、部屋をシャンデリアや壁の電気で照らす。



「また電気も付けずに、そんな格好で外を見ていたのか。」



入って来たのはパノス。

セルリアはきっと気付いていただろうが、特に慌てる素振りもなく視線だけをパノスへと向ける。



「アイツらのことを考えているのか?失礼極まりない、身の程知らずの庶民共のことを……!」



パノスにとっては、街で睨んできたジャルも、村に降り立った際に意見してきたラビスも、存在を思い出すだけで気に入らないと顔をしかめている。



「貴族としてのマナーを覚える点は認める。しかし、ママに愛想がないと言わせたんだ!僕の妻になる者として恥と知れ!」



パノスはセルリアを睨みながら激しく言いつける。

セルリアは窓際から立ち、鋭い意思を秘めた瞳でパノスに向く。しかしその距離は、部屋の広さから15m程はあり遠いまま。

うろたえる事も頭を下げる気もない、背筋を伸ばしている。



「あいにくだが恥など知らない。私を生かしてくれた村の住人達を侮辱することは、誰であろうと許さない。」



セルリアは構わずパノスを睨み返す。感情を大きく揺らしたのは、パノスの方である。



「っなに……?夫となる僕に、なんて口を聞く!それに、慕うその村の住人達こそお前を追い出した張本人なはずだ!」



「耳に入っていたのなら知っているはずだ。何の繋がりもない私でさえ、苦渋の決断とする人々だと。」



パノスの意見もものともせず、セルリアも意見をぶつける。



「それに、最後まで守ってくれた奴もいる。」



パノスの元に行く意思を固めたその時。

身一つで、これからも守ろうとしたラビスの存在を忘れられる訳がない。



「勘違いするな。態度があろうがなかろうが、私は私の意志で村を出た。村の住人に感謝することはあっても、恨むことなどありえない。」



ひたすらに言い切るセルリアに、パノスは歯をギリギリと強く噛み締める。



「っしかし、僕の妻になるとここに来たのは事実だ!僕に口答えするな!恥もかかせるな!いいなっ!」



そう一喝したかと思えば、パノスは荒々しくセルリアの部屋を出ていき。荒く閉められた扉の向こうで、雑な足音が遠ざかっていった。



「約束さえあれば、これも夫婦か?」



セルリアが知ったアギアスとシンシアを始めとした夫婦の様子は、むしろ謎に包まれていく気分であった。



「力を使わないことも、試練だとでも言うのか……。」



セルリアは再び一人になった部屋で、感情を逃がすように深く息を吐く。

人にはない力を使えばどうとでもなる。しかし催眠などは一時的な効果であり、平和的な解決方法は力を持ってしてもない。

ただ、人間離れした城を破壊するような恐怖を植えれば、いとも簡単に解放はされるだろう。


村の人々はもちろん、特にラビスとジャルを目の敵にするパノスに、セルリアは自分を押し留める苦悩を色濃く感じていた。

やる気になれば容易い事を押し留めている大きなものといえば、『心までも悪魔になる必要はない』とラビスが言ったことだった。



「奴の姿すら見えないのが、こんなにも……。」



鏡を拾ってからというもの、ラビスの成長する過程をずっと見てきたのだ。

鏡もない、まして同じ世界にいようと姿もない今。

セルリアは長い黒髪を垂らしてうつ向きながら、その言葉の続きが出ることはなかった。



それからしばらくそのままだったセルリアだが、ふと顔を上げ、タンスを開け。

適当な服を手にするとそれに着替える。


パノスが部屋を出てからも既に何時間と経っており、時刻は真夜中。

寝静まり、何十人といるはずの城の中さえ静まり返っているその中、大きな窓を開いてヒラリとベランダへと出る。



そこは3階の部屋。しかし内部の天上も高い事から、高さは4、5階相当にもなるだろう。足元に広がる庭から、少し離れた明るい市街。

明る過ぎるくらいの電灯を視界に広げていた。

この部屋になった理由は、妻の続柄の為の眺めや部屋の作りを重視してのことなのか、はたまた下手な逃亡を阻止するためか。定かではない。


しかしセルリアにとっては問題にならない。



暗闇でもきく目を凝らして人気のないことを注意深く確認し、力を解放したその瞬間だった。



「な……っぁ……!!」



まるで体が悲鳴をあげるように動きを固め、制御もきかずにベランダに膝から崩れ落ちる。

力が入らず立てもしないまま、体の支えに手をついたものの荒い呼吸を繰り返し、冷や汗がしたたる程に流れ落ちてベランダに染みをつくる。



「っ、ば、かな……っ。昼間でもないのに、なぜ……っ!?」



日の光と相性が悪いのはわかっていたが、今は闇の深い深夜の時刻。


セルリアの感覚的にも力を使っている状態だ、その瞳は白く変色している。

しかしまるで体が動かないというのはどうゆうことなのか、セルリアにも訳がわからない。

しかしひとまず力を収めるしかなかった。


ようやく異変が落ち着きを見せた頃には、すっかり疲れきったセルリアは多少回復した体を動かし、ベランダの柵に寄りかかる。



「どうゆうことだ。私は、悪魔なんだろう……?」



セルリアには備わっていて当然な力のはず。まさか力が使えなくなるとは、夢にも思わずに理解できない。



「死もない体に不調などない。村に比べて明るいくらいで……、ありえるのか?」



セルリアは考えてはみるものの、浮かべた答えはどれも飲み込みがたい。



「あの環境にいないからか?衰えるものなのか?人間になる訳でもないだろうに……。

もう、目にすることも許されないと言うのか?ラビス、ジャル……。」



ほんの少し、姿でも見れればと飛び立つつもりだったセルリアだが、こんな状態ではとても力を使えそうにない。

それは容易く往き来できる距離の考えが消え、愕然としてベランダから動くことが出来なかった。



闇は薄れて日が登り、また1日が始まる。

朝食をとり、セルリアは今日とて貴族の基礎を教えられる。


しかし昨夜の一件が頭から離れず、答えの出ない疑問ばかりが頭を過り、上の空。

覚えのいいはずのセルリアがまるで飲み込めずに、講師は渋い顔をして休憩を言い渡して席を外れた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ