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シュノー家


一方のセルリアは村を飛び出した後、再び街へと降り立ち、街の住人へとパノスの家を聞けばあっさりと家の場所を知ることができた。

その場へ行き着いてもう5日が経っている。


使用人含めて数十人が住んでいるまさに城といった巨大な建物。手入れされた庭園植物に彩られた広い庭や、建物内の装飾に至るまで。見当たるもの全てが見慣れず、金を積んだものだということがわかる豪華さも主張している。


そしてセルリアが来たことで用意された部屋も、ラビスの家では何倍か。広いと思ったジャルの家のリビングですら3つは入りそうな広い部屋が個人部屋。

照明器具もシャンデリア自体も大きいものながら、2つが天井からぶら下がり、補助ライトも点々とあってようやく明るい部屋になる。


他に部屋にあるものは大型の洒落たクローゼット、ドレッサー、テーブルにソファー、ベッド。

必要最低限の家具くらいなものだが、それらどれもが、一人で使うには大き過ぎるものばかりだった。



そんな部屋の中、灯りも着けず部屋そのものが夜を現すそこで、等身以上だろうガラス窓から淡く月明かりが射し込む中に人影が伸びる。

セルリアは扉さながらの出窓の台へと座り、壁に背中を預けて、閉じたガラスを通して月夜に視線を向けていた。

屋敷は軽く山を登った場所にあり、薄い林越しに街のネオンが下層に広がって、月明かりを飲み込まんばかりに寝静まることはない。


セルリアは、ネグリジェといったヒラヒラとした肌ざわりのいい服を与えられ着てはいるものの、セルリアの表情がここに来て変わることはなかった。

最高級の食事、部屋、衣服…どれだけ何をもらっても、セルリアはそれらになんの価値も見つけられずにいる。



「……退屈だ。」



時間の流れも終わりもない場所にいたセルリアにとっては、退屈など慣れきったものだった。

だが今は違う。充実というものを教えられてしまった。



「せめて鏡があれば……。」



ラビスを目で追うこともなく、隣にも居ない。今となってはジャルも、村の人々も頭を過り。

手放した毎日を望んでしまうと同時に、それほど自分に浸透していたのだと実感していた。

不意に得た日々は、何よりも色濃い思い出となっていた。



上の空と言うように外を眺めていたセルリアだが、ふと目線を逸らして、室内といっても距離のある出入口である扉へと向く。

それとほぼ同時に、コンコンと木質の扉が軽く叩かれる音が上がる。



「セルリア様、夕食へのお手伝いに参りました。」



高い女性の義務的な声が、扉の向こうからかけられる。



「えぇ。」



少々声を張りながらセルリアは返事を返して段差から立ち、暗闇の中でも問題ないのだが使用人によって電気がつけられる。

タンスを開いて引き出したドレスに着替える手まで貸りてめかされながら、部屋を後にした。


どこをとっても広く、絨毯の途切れることなく敷き詰められた長い廊下を使用人に囲まれながら辿る。

大きな二枚扉が開いており、広い部屋と長いテーブル。後に食事の乗って来る食器が先に用意されている。

そして部屋に既に男女揃っている使用人が一斉に一礼してセルリアを迎えた。


セルリアはもう5日目ということもあり、迷うことなく足を進める。

テーブル横には付いていても、席までも歩く。

真っ白なクロスに覆われ、キャンドルや可憐に飾られた花など飾られたテーブルに沿って進むと、その先の一脚の椅子の元で一人使用人が立っている。

それは以前街で出会った際に物腰柔らかく宝石の知識を与えた、タキシードを着こなす老人だった。



「どうぞ。セルリア様。」



老人が椅子を引き、セルリアがテーブルと椅子の間に入り座る動作をすると、それに合わせて椅子を詰める。

テーブルマナーも仕込まれ、セルリアはナプキンをとって膝へと敷いた頃、パノス、そして母親も食事場へと入り、更に奥の席についた。

運ばれてくる料理も、腹を満たすというよりかは、一品一品が見た目、味を楽しめる程度の量が盛り付けられ、数の続くコース料理。フォークとナイフとで丁寧に食べるもの。

食器の音が静かに響く程度の物静かなものだった。



「お美しいわ、セルリアさん。やはりパノスの見立ては正しいものだったのね。さすがは、このシュノー家を担う者だわ。」



母親は一度食事から手を離し、ナプキンで口元を整えてから発言する。

たどり着いて5日、セルリアは付けられた講師に習うことで、必要な姿勢を覚えた。

満悦と言った様子で母親は笑う。


マナーから勉学から専門講師を呼び寄せて、貴族として知っていて当然の知識を日々で仕込まれていた。

義務的ではあるものの、技術の吸収力には目を見張るものがあると好評である。



「当然だよママ。ここで産まれ育って肥やした目が、間違うはずがない。」



パノスも鼻高々といった様子で母親に告げる。

セルリアは何一つ変わる事もなく食事を続ける。



「もう少し、愛想も欲しいところだけれど。」



最後にポツリと母親が漏らしつつセルリアを伺うが、セルリアは表情や視線一つさえ変えず、気に留めるでもない様子で何も言わなかった。


続いた料理を食べ終え、母親から順に席を立つ。

退室する順序までも定められ、セルリアは最後に部屋を出て、そしてまた使用人の後を追うようにして部屋へと戻る。



食事以外は、母親やパノスとそう顔を合わせることはない。

セルリアは着替えを手伝われながらドレスを脱ぎ、ネグリジェへと着替える。その格好が一番楽だと感じていた。


朝には着替え、食事や講習を消化した後はすぐにドレスを脱いだ。

元々身軽な服装を好み、村なら1日中、多少なり締め付けられる服を着ていても何ら問題なかったのだが。ここでは不思議と類似の服でさえ、着ることが最小限だった。


そして一人の夜は部屋の電気など付けず窓際に座り、ただ静かに外を見ていた。




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