表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/43

想いの形 2


「な、なんだ?お前達!何を寝ている!」



セルリアの背面にいて何が起きたのかわからないパノスは、倒れた男達に声を荒げるが反応もない。

村長も同じ方角から驚愕を浮かべながら、呆然とセルリアを見ている。



「お前が力をもって制するというのなら、私も手段を選ばない。」



「な……っ!」



目の色は黒く戻っても、ギラリと鋭く殺意すら強いセルリアの視線を受け、パノスは迫力に動揺する。



「ダメだよ、セルリアさん。」



まるで蛇に睨まれた蛙となっているパノス。

それを留めたのはラビスだった。



「貴女が悪魔になる必要ないよ。」



セルリアはラビスに握られた手に、怒りの表情から力を落とす。



「貴様ら、一度ならず二度までも僕を愚弄するのか!」



次はパノスが歯を噛み締めて怒りに顔を上気させた。



「愚弄?違います!たくさんの人を、好きな人の心までも傷付ける貴方のやり方は、間違っていると思うだけです!」



確かにパノスを否定する言葉ではある。しかし愚弄とは違う。ラビスも引かずに口にしていた。



「貧民風情が、何様のつもりだ!っ起きろ木偶共!その男に知らしめろ!」



パノスが伸びたままの男達に声を荒げるが、その声は届いていないのか起きそうにない。



「お金で従うことになっても、彼らだって道具じゃない!貴方を守る人ですよね。

人の価値は、お金や力だけで決まるものじゃない!」



パノスはわなわなと震え、怒りのゲージ振り切ったようにラビスを睨む。



「僕は生まれながらに特別だ!選ばれた人間だっ!!」



そう主張する一言を告げると、足音荒くセルリアやラビスに向かって来る為に警戒するが。



「どけっ!

っ役立たず共が!」



ラビスを突飛ばすが、少々よろめく程度の力で押し通ると、倒れたままの男を一蹴りして部屋をも出ていく。



「うっ、」



衝撃で気を取り戻したようだ。

一人の男が目を覚まし、頭を押さえつつも態勢を腕で起こす。

視界に映る足に、自然に見上げて行けば土の汚れのついた作業着。

長い黒髪から、白い肌に移り、静かに見下ろす黒い瞳のセルリア。



「……っ!……?」



条件反射からか体は硬直する。しかし、セルリアの瞳は黒く、異質な感じもない。

脳裏に横切る恐怖は夢のように思える程に異常で信じがたく、焼き付いたにも関わらず朧気だろう。

男は混乱と言った様子だが、部屋の中を見渡し、同じく倒れている男達を見つけて起こし。


従う主人の居ないことを確認すると同時に、回り始めたヘリコプターの大きなプロペラの音が立ち始め、外へと早足で駆け出ていった。



「なんなんだ、まったく……。」



村長は深く、疲れたように溜め息をついてソファーへと沈む。



「村長。」



「あんな人物が世の舵を取ってると知ると、頭が痛い。」



ラビスは気遣うように呼ぶが、村長は気持ちの整理もついていないようだ。唸るようにしていたが、思い立ったように重い腰を上げて部屋を出ていった。



「何故、あんな風に言った?」



「え?」



ラビスとセルリアだけになった部屋の中、セルリアは呟くように言葉にする。



「私は既に 悪魔だ。人間に、人ではない力を使う必要はないと言う意味か?」



先にセルリアに悪魔になる必要はないと言ったことについて。意味をラビスへと問いかける。

ラビスはゆっくりと微笑んで首を横に振った。



「セルリアさんは今、人を傷付けたことに怒れる人だよ。僕はその心までも悪魔とは思わない。犠牲になるように背負って欲しくない。


僕だって、今回のは許し難いと思う。でも、傷付け合う終わりはきっとなくて。セルリアさんが罪に問われたりしたら、僕やジャル、村の人達も悲しむ。だから、それほどの力は使わないでいて欲しいと思うんだ。」



ラビスは握っていたセルリアの手を両手にして再び握る。

真剣に、けれど微笑みながら真っ直ぐにセルリアを向いている。



「どこまでも、人の身を案じるんだな。お前は。」



セルリアは呆れながらも落とすように笑む。



「僕もただ、大切なものを大事にしたいだけだよ。せっかく繋いでもらった命で、守りたいんだ。僕も。」



セルリアももう何も言わず、柔らかく戻った雰囲気に微笑み合い、ようやく村へと出た。



既にパノスやSPの姿もなくなっていたが、荒らされた村はそうはいかない。片付けが始まっている。

ラビスとセルリアはまずはと、怪我をしたジャルの元へと向かった。



「おぅ。来ると思ったぞ。」



ジャルは部屋のベッドで横たわり、頭や腕に包帯を巻かれ、右足は特に固定されて吊られていた。



「大丈夫?ジャル……。」



負傷した姿にラビスは言葉に詰まり、ありきたりな台詞しか出て来なかった。



「大丈夫じゃねぇよ。しばらく寝たまま過ごすとか、暇過ぎんだろ。」



大きな溜め息をついたかと思えば、次に出てきたのはケロッとした答えで。

ラビスとセルリアすら間を空けたが、ジャルらしいと先に笑ったのは、ラビスだった。



「そこなの?」



「決まってんだろ。辛気くせぇ顔並べてんじゃねぇよ。」



怪我はあるが中身は変わらず元気な様子に、ラビスは安心して笑う。



「すまない。奴の目的は私だ。村の皆にも、なんと詫びればいいのか……。」



床を見つめるセルリアに、ラビスは心配そうに。ジャルは小さく息をつく。



「確かにセルリア目当てだけどな、あの乳離れできねぇ子ぶたのやり方が……つぅかそもそも頭がおかしいんだよ!だから、お前に謝られても嬉しくねぇぞ。」



ジャルも体の自由を奪われ、痛みを伴う怪我をして怒りが無い訳ではないようだ。パノスに対しては暴言の連続である。



「アイツに土下座させて、その頭踏みつけてやりてぇ程度だよ。」



それくらいで多目にみてやる、と偉そうな様子で付け加える。



「そうか。じゃあ連れてくるか?それくらいなら軽く睡眠状態にして……」



「いやいやいや!違うっ、冗談!例えだってばセルリアさん!」



本気でやる気になったのか、具体的に考え出したセルリアをラビスが慌てて止める。



「あっはっはっはっ!ぁ、いてっ、いてぇ……っ!」



「笑い事じゃないよ、ジャル!というか、安静にしてて!」



本気にしたセルリアに、ジャルは傷だらけの体に痛みが走りながらも笑ってしまい、ラビスも苦笑いしながらジャルを咎めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ