星夜祭 2
「良かった。大丈夫?」
一難が去って、ラビスも胸を撫で下ろす。
「私に心配はいらない。」
「確かに……。全然敵わないだろうな。」
ラビスとジャルも苦笑いになる。
「恐らく戦闘は得意な方だ。争う周りの動きを見ていても、そう思った。」
「マジか。あれか?戦争とかも歴史にはあるし、そこでその……大量にとか?」
「でも戦争とかなかったら、それはもう……お役目だよね……。」
学んだ歴史の中の知識にはある。
ただその場合、犯罪者ではなく大義さえあるだろう。絶えない悲しみは同じく生むとしても。
「女騎士とか似合いそうな性格はしてるよな。」
「女性への褒め言葉かわからないけど、カッコイイよね。姿勢もずっと綺麗だし。」
ラビスとジャルはセルリアの考察を楽しんで笑った。
腹ごしらえも済み、鳴っている音楽に合わせて踊りに出る。
固定となっている振り付けはあるが、勝手に振り付けて踊るも自由である。
そう複雑なものではなくセルリアに教えながら楽しむ。
「え、珍しい!ラビス、久しぶりだね!」
「久しぶり。ミル。」
「元気そうで良かった!大変過ぎて倒れてないかと思って。」
「ありがとう。元気でやれてるよ。」
ラビスやジャルと同世代だろう女もドレスで着飾り、ゆっくり歩み寄って来た。
「ていうか、すごい美人さんが居る!噂のセルリアさん!?
はじめまして!私、ラビスやジャルと同級生のミルです。」
「同級生?」
「学校っていう、勉強を教えてくれる人の居る場所で、同い年で一緒の部屋で勉強したって事。
ちょっと記憶を失ってしまってる所があるみたいで。」
ラビスがセルリアとミルを仲介する。
「あ、そっか。不安じゃない?平気?」
「えぇ。ありがとう。」
心配そうに尋ねるミルに、セルリアも警戒もなく笑みにする。するとミルが強張って固まり、顔を赤くする。
「美人さんに微笑まれた。」
「お前いっつも楽しそうでいいな。」
「ちょっと、能天気みたいに言わないで!」
ジャルやラビスに笑われながら、ミルも笑った。
そんな中、セルリアの視線がミルの上から下へ辿り上まで戻る。
「もう少し後ろに体重を分けるといい。靴の付く面と、柱の部分で踏むように。よろけるだろう?」
セルリアがミルへ声をかける。
「あ、え!そう!ヒール苦手なの。」
「足の角度が変わるだけだ。上体を立てて。自分の足じゃなく、装備込みでバランスを考えるといい。あと思う腰より高めの位置を支点に歩いてると思うといい。」
セルリアが手を差し出して、ミルも手を借りながら立ち方を調整する。
「乗ったな。」
「あ、うん。ちょっと楽になった!ありがとう!」
先程より姿勢も良くなって、体の線も綺麗に映る。
「えぇ。後ろが点の分分散に弱い。難しい靴を履くのだな。」
「なんかセルリアさん、見方がカッコイイ。」
ミルの感想には、ラビスもジャルも笑う。
周りでも皆が笑顔でそれぞれ笑い合い、話や飲食や踊りを楽しみ、静かな夜空を負けじと賑わせる。
「ジャル、僕何か飲み物を買って来るよ。セルリアさん頼めるかな?」
「おぅ。」
ミルも帰った後、ラビスは一人会場の外枠のようにある屋台の方へと外れていく。
背中を見送るジャルは苦笑いの様子を、セルリアは見る。
「ジャル。お前には一度、謝らなきゃならないと思った。」
「え。なんだ?」
「最初。私は恋人というものを尋ねておきながら、考える事もしなかった。私に嫌がらせをした彼女達にとって、私が敵にさえなるくらい特別な感情や身近な事を知りもせずに。」
セルリアは静かに言葉を続ける。
「まだわからずに言うのも半端だが、あの時はごめんなさい。それでもこうして共にしてくれて、ありがとう。」
頭も下げるセルリアに、ジャルはぽかんとして。不意に視線を外す。
「……なんだよ急に。お前もラビスも。」
「ラビスなら飲み物を買いに行っただけだろう。」
首を傾げるセルリアに、ジャルは笑いながらわずかに鼻を啜る。
「そりゃまぁ、あん時はめちゃめちゃだと思ったけど。しょうがねぇ事だったしな。
とりあえず今は、踊ってはくれんのか?」
ジャルはセルリアへ手を差し出す。
「えぇ。」
ジャルの手を取り、ペアで踊る周りを見ながら二人で踊った。
「ジャル、セルリアさん!たまには、と思って。お酒も買って来てみた。」
ラビスはしばらく帰って来ず、来たと思えばそれなりに袋が大きく、腕に食い込む重みもあるだろう。
「お前、奮発し過ぎだろ。」
「来るとダメなんだ……。」
荷物の多さにジャルがツッコミ、ラビスもつい弾けたようでもう反省も始めている。自覚はあるのだろう。
「アルコール成分が入ってる飲み物で。合わなきゃ無理しないようにね。」
踊り場からも下がって、冷えた小瓶のビールの蓋を開けて三人で打ち合わせて飲む。
「あーっ、うまっ。」
「たまに飲むと、ちょっとスカッとするよね。」
ジャルはご機嫌に笑い、ラビスもまた笑う。
セルリアは、一口の後に無言で瓶を見つめる。
「うまい……のか?」
「アルコール効かない場合、ただの苦めの炭酸水かもしれない……。」
「確かに。」
ラビスとジャルは苦笑いしていた。
「いくらだっけ?」
「いや、いいよ!前はジャルが奢ってくれたから。
その時も、夜なら来れるだろって引っ張ってくれたよね。食べ物や飲み物や僕の分も買ってくれて。一緒に食べろ!食べづらい!って。」
ラビスは星空を見上げて笑う。
「お前泣かせたヤツな……。」
ジャルは逆に視線を地で泳がせながら苦笑いする。
「ごめん。ほんとに嬉しくて、美味しくて。止まらなかった。」
「途方に暮れて星空見上げたわ。」
ラビスと共にジャルも笑う。
セルリアもふと笑みを落とす。
「セルリアさんも楽しんでる?」
「えぇ。それと、間違ってはないと思った。人がどうあれ、誰かが誰かとの記憶をかき消せるものじゃない。」
自信を見せるようにセルリアも笑みを浮かべている。
「なんかそんなんあったのか?」
「セルリアさんの美人を妬むように服を汚したり切ってた人達が居て、そう一喝したみたい。」
「ほんとに一喝したのかよ!」
ラビスの補足にジャルも声をあげて笑う。
「え。ジャル知ってたの?」
「セルリアがあんな頻度で起こすドジじゃないだろ。まして別の汚れを私服にまで付けて。」
ジャルの推理にラビスは頭を抱える。
「お前じゃ出さないと思ったけどな。」
「服だけじゃなくて調理場でもあったみたいで、シンシアさんはもちろん、アギアスさんも相談受けて知ってて。気付いてないの僕だけだった……。」
「いっそ見事じゃねぇか!」
ジャルはおかしそうに笑い、ラビスは顔を隠す。
「お前達のお互いの理解すらも、特別にはないんだな。」
「いやまぁ、友達の中でのどれだけかもあるけど。恋とはまた物が違うな。」
ジャルが手も使い、縦に伸ばしたと思えば横に置く、というように説明する。
「そうか。不快はさっき知った。」
セルリアの一言に、ラビスもジャルも迷う事なく同じ時を浮かべただろう。
「ネビアをビビらせてんのは、すげぇ光景だったな。アイツも相当悪さして牢屋とかも入ってるヤツなのに。」
「そうなんだ。視線とかまで違う怖さは、そっか……。」
ラビスも一般的な人物、には思えなかったのだろう。
「だろ。セルリアがちゃんと悪魔だ……。と思ったわ、さすがに。」
「ちゃんととはなんだ。」
小声に控えながら笑うジャルにセルリアから一言が入る。
「良い意味だよ。僕らは一緒に日常送ってるセルリアさんばかりだから。力は持っててもわかってくれる人、でいられる。」
「あっちに無差別に襲ってるような奴は居なかったのか?」
「よく居るな。」
「ソレだよ。イメージ。」
ラビスもジャルも安心を表す笑顔で笑い。
セルリアも釣られるように息を付きながら笑み、深い夜に輝く満天の星空を見上げ。星夜祭に相応しい一夜を送った。




