星夜祭
そうして3週間後。畑からあがったラビスとセルリアはジャルの家へと向かった。
「お疲れ様。いらっしゃい!」
「お邪魔します。すみません、お言葉に甘えてしまって。」
「眠らせてても勿体ないわ。まずはセルリアから、お風呂使って頂戴。」
風呂も借りて労働の後の汗を流して、セルリアはドライヤーでしっかり髪も乾かされてヘアメイクから入る。
「ラビスも。お風呂使って。着替えもあるから!」
「え!そんな、僕までは!」
「せっかく行くんだから。楽しんで来なさい。」
ティスとクレッサの計らいには頭が上がらずに、ラビスも風呂を借りて出た頃には、セルリアのメイクを終えて、後ろに団子を作るように髪を結うようだ。
「セルリアさん、すごく綺麗です。」
「なんだか顔がペタペタする。」
化粧初体験のセルリアの素直な感想には皆で笑った。
「ただいまー。」
そのうちジャルも帰宅し、即風呂に向かった。
セルリアはリメイクされたドレスを別室で着て出て来る。冬の為に上着は着ていくものの、首元からデコルテまでレース生地であしらわれ、キュッとタイトに体の線を見せるロングスカートにスリットが入っている藍色のドレス。
元々気が強めでクールな様子と、美しく妖艶さのあるセルリアが着れば、見た目は20歳前半という所だが、セクシー系な大人の女となる。
「やっぱり、こうゆう大人の女性の感じが似合うと思ったのよ!どう?ラビス!」
「あ、はい……。すごい、綺麗だと思います。」
ラビスも顔を赤らめて、視線を泳がせている。
「でも、あの、僕、目のやり場に困ります……。」
レースに透ける胸元目前までのデコルテに、スリットからチラチラと覗く足など、防寒対策で布は多めでもたじろいでいる。
「ラビスもちゃんと男の子よね。大丈夫?2人で。」
「……っえ。と、なんとか、はい……。」
ラビスはもう顔を真っ赤にして隠して参っている姿に、ティスとクレッサも苦笑いした。
「ふう、さっぱりしたぁ。
って、うわっ!」
ジャルも風呂をあがり自分の服も整えたが、ヘアメイクにドレス、それからアクセサリーも借りて仕上がったセルリアの姿に声をあげた。
「な、んでそんな感じのなんだよ!?もっと可愛いのとかじゃないのか!」
「セルリア似合うじゃない!絶対!」
「そりゃ、そうだけど!
やべー……、行かないするか?」
ジャルも顔を赤くして視線が泳ぎ、中止さえ考え始める。
「そんな事より素敵くらい言いなさい。女性が着飾ったんだから!」
「う……。似合ってるけど!ぜってぇ狙われるって……。」
「あら。セルリアじゃそれはそうでしょう。美人だもの。」
クレッサは最早潔く、目を惹くのならと振り切ったようだ。
ちなみに主には未婚や若い夫婦などが気合いを入れる行事であり、ティスとクレッサはお洒落着といえドレスに満たない程度のおめかしである。
「さ、皆で行きましょうか。私やお母さんは早めに帰るかもしれないけど。」
そうしてティスとクレッサと共にラビスとセルリアとジャルが会場の広場へと向かう。
今夜は星夜祭に相応しい満天の星空が広がっている。
しかし広場に向かう道からセルリアが視線を惹いた。
広場につくと外枠に木が組まれて大きな火が燃えており、他にも点々とアルミ缶の中で燃える火で明かりや暖としている。
既に老若男女の人が集まり話し場になっていた。
傍らには食べ物や飲み物の屋台に屋外テーブルも増やされて、既に酒を飲んで盛り上がっている面々もいる。
そのうち役所の人間が前に立ち、村長の挨拶になる。
《皆さん、今日も1日お疲れ様でした。今年もこうして星夜祭を開けた事を嬉しく思います。
今夜は天気もよく満天の星空です。降り注ぎそうな星を眺めながら、今日までの日に感謝を送り、楽しみましょう。》
ささやかな会を開き、拍手が湧き。
村の中にスピーカーで音楽が流れ始める。
それが自由行動の合図となって、皆が好きに寄り集まり話す。
ティスとクレッサも、同じくらいの年代の人々と話しに離れた。
「俺はとりあえず腹減った。」
「僕も。いいかな?セルリアさん。」
ジャルとラビスに連れられ、屋台で買い物をして食事をする。
「会った事のない人々も結構居そうだな。」
「村って言っても結構広いんだ。農地側の一部が、この辺に住んでる人ら。
近場の人達のが会うからな。必然で。」
「畑の手伝いする人の中にも、通っていたり。実家から一時的に離れて住んで手伝いに来てくれて居たりって人もいるんだ。」
村と言っても見渡す範囲で済む広さではない地理を、ジャルとラビスで語る。
「あっ、いた!ジャル!久しぶりじゃねぇか!」
「おぅ。」
男四人で歩いていた面々がジャルへと手を挙げて寄ってくる。
ジャルもまた手を挙げて、挨拶に返す。
「え!何その人!?彼女か!?」
四人は即セルリアの姿に驚いて見入った。
「いやー……あ。ラビスの親戚。」
「え?」
ジャルの紹介に、ラビスが素直にキョトンとする。
「いやお前、嘘じゃねぇか。」
速攻でバレた事に、ジャルはラビスの肩を軽く叩き。ラビスは苦笑いしつつ、小さく頭を下げる。
「ラビスと同じ不思議体験してて、一時的に保護してるっていうか。言って信じるか?」
「マジ?あれマジなの?」
「ほらな!なると思ったわ!」
だから真意を避けたのだとジャルも笑う。
「てか、ラビス一人でも大変なんだろ。大丈夫か?」
「むしろ一緒に仕事まで出てくれて、助けられちゃってる。」
ラビスにも顔見知りで、苦笑いしながら答える。
「まぁそうなるよな。むしろ家来てもらって良いけど。」
「それがちょい記憶喪失もあって、日常からでな。」
「え、そうなのか。」
「おもしろそうな話してんじゃねぇか。」
ジャルの友達四人と話している後ろから声が割り込み、また新たに五人の男がやって来る。
ラビスとセルリアを除き、一気に顔を強張らせた。
ジャルを含めヤンチャ寄りという友達に見える四人よりも、更にあからさまに態度の大きく、ニヤニヤと不気味な笑みを見せる男達である。
「良いじゃねぇか、記憶喪失。俺らが全部教えてやるよ。」
男はセルリアを辿るように視線を動かして笑い、人を退かして歩み寄り。手を伸ばして手首を掴む。
「ちょっと、やめ……!」
ラビスやジャルも止めに入ろうとしたものの、男は力を入れて引いている様子が見えるにも関わらず、セルリアに変わりなく、細腕も全く動かない。
まるで一人で大きな柱と綱引きでもしているような男の姿に、ラビスとジャルの勢いも止まる。
ちなみにセルリアの瞳は変わっていない、素の力の内であるが拳は握っている。
「必要ない。」
「はぁ……っ!?」
「なぜだろう。お前らの視線はとても不快だと思うのは。」
セルリアがほんの数mm瞼の角度を変えて睨む事になると、男は顔を歪め、バッと手を引いた。
それには本人が一番驚いたように顔がハッとする。
「お前……。元犯罪者とかだろ。俺なんかよりイカレてる奴らと同じ感じがする。」
「鼻が効くのなら活かすといい。」
うって変わって男が動揺を見せながら、堂々と睨み合うセルリアは、むしろ同じ側だと過ぎらせる迫力がある。
数秒の間がありながら、チッと舌を打つ音を出して、男達は去っていった。
「す、げぇ……っ。マジか……。」
「あのネビアが引いた……。」
ジャルの友達もまた唖然としながら男達の背を見送る。
ラビスとジャルは視線が泳いでいた。
「ちょっと、セルリア大丈夫?手、何ともないの? 」
そこへ駆け寄って来たのはクレッサ。
多少息が弾みながら、掴まれていたセルリアの腕を借りて見るが特に何の異変もない。
「問題ない。」
「あぁ、良かった。やっぱりより美人にしちゃうの良くなかったかしら……。」
「いや。私ではないかのように、綺麗だ。」
セルリアもすんなり元に戻っており、表情を緩めて笑みを落としながら、ドレスを纏った自分の体を見下ろす。
「そう。良かった。皆も気を付けなさいね?」
「あざっす。」
クレッサと顔見知りらしい面々も心配され、素直に笑って聞き。
クレッサ、そしてジャルは友人達に誘われていたが、ラビスとセルリアの元へと残って友達を見送った。




