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星夜祭の誘い


一時の休暇を経て日常に戻ったが、季節によってで変化する景色や仕事量。

アギアスの元に手伝いに行っても調理の量も減っており、閑散期。

ラビスにとっては慣れた日の巡りだが、セルリアには移り変わる毎日が目新しい。



「これは何をしている?」



鍬を使った手動で部分部分の土を掘り返しては、側のバケツに入った肥料をまいてまた土を回すというラビスの作業。


広い畑の中、狭い足場辿って行き着く。



「すき込みって言って。野菜も土に植えれば当たり前に育つ訳じゃなくて、土が元気で栄養があるから育つ。

植えないままの休息も大事な時間で。次回までに少しでも休めたり、日にあてたり、栄養を蓄えてもらう補助の作業で。

軽く耕して土を回しながら、肥料を混ぜ込む。」



「植えれば実る訳でもないのか。」



「土が痩せる、っていうんだけど。そうすると立派な実を付けるのはどんどん難しくなっていくんだ。収穫よりは、立て込む工程ではないけれど。」



植物があるだけでなく、土から踏まえる事で商売であれる。自然を味方に出来るだけの知恵と工夫は必要である。



「見てはいても、やると手間のかかるものだな。」



「セルリアさんは、すごいよね。食事も睡眠も必要ない体なのに、僕に合わせて生活をしたり。勉強しよう、になって。」



「ただ、私が来てからお前は疲弊を見せないだろう。鏡の中ではもっと、倒れ込んだりもしてた。」



セルリアは肥料を撒く係を変わってラビスを手伝うが、目先で扱う鍬が止まる。



「それについてはちょっと……有り難いけど、恥ずかしい……。」



ラビスは視線を泳がせつつ口元を塞ぐように手を当てて戸惑う。

まさか生活内部を人が見ているとは思っていない。



「なぜ?この体で退屈してる方が無駄だろう。」



淡々としているセルリアに、ラビスは間を開けながらも笑う。



「今も疲れてたりはするけど、無理してるとかじゃないんだ。むしろセルリアさんが変わりないから、僕もなんだか元気に思えたり。家の事は特に、セルリアさんも手伝ってくれるから助かっていて。人が居るって、負担だけじゃないよ。」



「……つまり、ラビスの所に女が居るという問題だけか。」



セルリアに知恵をつけた娘たちを思いながらである事は、ラビスも察する。


あれ以来、シンシアを始め婦人達も感動し、セルリアに思われた事を含めて前向きに語りかけ。

娘たちからも謝罪を受けており、危害はなくなった。ラビスとの仲を度々確認される程度である。



「まぁ、そうだね……。僕にも恋愛出来る余裕ないんだけど。」



「負担だけではないのだろう?」



「もちろんそうなんだけど。でも家を思うと苦労も考えるだろうし。僕の名前が出た事にも驚いた。」



ラビスは困ったように苦笑いする。



「なぜ?」



「両親の家にお金入れる傍ら、将来の元手も蓄えていたり。僕にそうゆう余裕なかったの、わかってるだろうからさ。」



ラビスは微笑むが、セルリアは見上げたまま数秒を黙る。



「なら今増やせ。私の分もお前が食べて体力付け、金も持て。丁度良い。土産にされても私は使わない。」



セルリアはあっさりと報酬を放棄する。



「あ、そうか。でもそれじゃ、セルリアさんは苦労するだけじゃ……。」



「私には、退屈よりずっといい。」



セルリアもまだ微々たるものだが笑みを作る。



「セルリアさんはカッコイイな。」



ラビスもセルリアに釣られるようににこやかに笑った。

しかしセルリアは、表情からすとんと笑みが落ちる。



「悪魔に落ちた奴を褒める事があるか?」



「え。そもそもなんで悪魔に?が信じられないくらい。僕にとってセルリアさんは命の恩人で、凛としていて。カッコイイ人ですよ。」



「……あの地の前は、わからない。」



「え、そうなんですか。」



「えぇ。恐らくあの場所で誕生する、という事はない。きっと落ちた。悪人として。そこにどれ程いたかもわからない。改心などしただろうか?」



セルリア自身の事だが記憶にないようだ。珍しく考えに浸るように映るくらいである。



「そうだとしたら、やっぱりカッコイイですよ。間違いを認める事も、勇気がいるから。」



「忘れているくらいでアテになるかは怪しいが。お前の成長が一瞬と思うくらいには居るせいか。」



「僕の父も知ってるなら19年はありますよ。それが一瞬……。」



広がる畑の真ん中で、近くに人も居ない事で堂々話しながら、ラビスは驚愕していた。


今日も無事に仕事を終えて帰路の途中。



「ラビス、セルリア!」



後ろから追い付くように走る足音と、呼びかける声。

ラビスもセルリアも立ち止まり、多少道も戻ると駆け寄って来たジャルと会う。

恐らくジャルの家の前を通り過ぎる時に見え、追って来たのだろう。



「どうしたの、ジャル。」



「じきに星夜祭あるだろ。

夜だし、お前らも行けんなら、婆さんと母さんがセルリアにドレス作ろうか。って。」



「え!大変でしょ、ドレス作るなんて!」



どうやらジャルは遣いに出されたようだ。ラビスは驚く。


村の行事は度々あったものの、昼間の間。ラビスはむしろ進んで留守を任される方を選んでおり。セルリアもまた畑仕事に文句がなく、しばらくは街に行く事も目標に入っていた。

資金の為にもで、野菜類の世話に働いて過ぎていた。


しかし今回の星夜祭は夜の行事であり、仕事終わりに行ける。



「いや、昔に買った母さんの着れなく……、着てないドレスあるから。サイズとかちょっと直して、セルリアが着てくれねぇかって。」



「良いのかな、そんな……。」



「家に女居ないからな。着せ替え楽しみたいノリになってんだよ。」



ジャルの言い様にはラビスも笑う。



「セルリアさん。星夜祭っていう、夜に大きな焚き火を囲いながら、音楽かけて少し踊ったりっていう村のお祭りがあるんだけど。

女性はお洒落してドレス着たりするんだ。」



「別名、出逢いの場だからな。」



「ああ。夜に大きな火のつけるあれか。」



セルリアも鏡の中には見ていたようだ。



「それだ。画だけ知ってるのも変な感じだな。」



ジャルも改めて鏡の中に見る光景に笑う。



「ティスさんとクレッサさんが良いのなら、問題ない。この服でも既に綺麗だが。」



「どんどん作り凝って来てるよな。」



最初は枚数も確保する為か無地のシンプルな物だったが、刺繍や別の布を組み合わせてワンポイントのフリルなども付いている。

今は厚手の上着も渡されて、全貌は見えない。



「てか足出てて寒くないのか?」



「温度はわかるが熱さも寒さもない。」



「マジかよ。薄着過ぎても驚かれるだろうから気を付けろよ?」



「そうか……。」



セルリアに人間の感覚や常識がないのはラビスとジャルがフォローするしかない。



「まぁ、そうゆう事で。仕事終わったら家寄れよ。頼まれなくても待ってそうだからな。」



ジャルは苦笑いする。



「ほんとにありがとう。お世話になりっぱなしで。」



「世話焼きだからな。お前はなんだかんだ、頼るの下手だろ。お前んとこの父さん亡くなってから、ずっとラビス大丈夫か、って聞かれてんだよ。俺は。」



「なんかごめん。」



ラビスも苦笑いする。



「いや。むしろすげぇよ。俺なら絶対一人で回ってねぇし。ただ、あんま詰めんなよ。俺はお前も早死にしそうと思ってるからな。」



「が、頑張ります。」



「頑張るな、っつってんだよ。」



培った時間があってこそか、ラビスとジャルは同じタイミングで笑う。

そこにセルリアも笑みを混ぜた。



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