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女の戦い 2


すっかり日が落ちるのも早くなり、薄暗くなっている道をラビスとセルリアは戻る。


アギアスの家を訪ねてみれば、手伝いの人達は皆捌けた後。

夕飯を食べ始めた所だったようだが、アギアスとシンシア、どちらも箸を置いてラビスとセルリアをソファーへと招き入れた。

セルリアが嫌がらせを受けている話は2人が知っており、監督の立場として話合ってもいたようだ。

しかし女性ならでは視点として、婦人達が入れば余計に拗れるだろうとセルリアを若い世代に近づけないように、といったサポートで止まっていた。



「女として生まれて、家庭に入る事はとても大きいの。家を守り世継ぎを残す、と言われながら育っているから。

女性としてのセルリアさんは、美人で働き者で、村にも慣れようと頑張ってくれていて。光が強ければ強い程、それは、自分を対象から追い出されるような。霞められるような。とても大きな脅威だと思うの。


それも、年頃のラビスの元で2人で暮らしてる。夫婦のようでしょう?」



「それは……。」



シンシアから告げられる事にラビスは視線を落とす。



「ラビス。お前も恋どころじゃなかっただろうが、同じ奴に惚れれば1人しかいない相手を取り合うしかない。もちろん相手には全く別で、男の好みや気持ちもあるだろう。


男とは方法が違うようだからな。下手にお前が庇えば、それもまた彼女達に理由を与えるんじゃないか、って。だからお前は堪えろ。」



アギアスはラビスに面と向かい語る。

少年の頃からラビスを知るアギアスの記憶には、家事と労働とで時間がなく、告白されても断っていた場面さえあった。



「っでも、僕と暮らしている事も原因なんですよね?」



「お前の気持ちはわかる。俺だって、セルリアは料理と畑仕事まで手伝うようになって。自分の働きで関係値も出来て、信用もさせてくれた。


そう言ってやりたいのは山々だが。責めて解決どころか、セルリアが余計酷い目に合うとなっちゃ、考えざるを得ないだろ……。」



アギアスの参る姿の大きさに、ラビスも言葉が続かなくなる。



「問題ない。全員集めてもらいたい。」



場が沈むように訪れた静寂に、セルリアの声が通り。アギアスとシンシア、ラビスも同時に。ただ一人凛として座り正面を向いていたセルリアへ注目する。



「既に3人問い詰めた。」



「えっ!?」



ラビスを始め、アギアスとシンシアも唖然とする。



「自分達の築いた人との時間を持っていかれたようだった。やりたくてやっていない。私も美人になりたかった。そんな事を言っていた。」



「問い詰めた……の?本人達に?」



「えぇ。」



「すごいわ、セルリア……!」



シンシアは驚きながらも関心さえするようだ。



「えっと……、彼女達も、大丈夫?」



ラビスの視線がたっぷりと泳ぎ、セルリアを伺いながら見ると。



「怯えて泣かれた。」



「なんてこった。」



アギアスは苦しい顔をしながらも若干笑いが混ざっている。



「ただ、私が言うのとたまたま通りかかった人に言われるのとでは、全然違う。崩れてしまいそうに泣いていた。」



それは誰が見ても明らかなものだったはずが、通りかかった男もまた、そんな姿には見えていなかっただろう。



「私に害を与えて何になるかはわからない。やりたくもない事をする意味もわからない。ただ、私以外の誰かに回り回る事を望んでいる訳ではないのだと思う。

その日以来、その3人が何か起こす事は見ていない。」



「集めて話をしたいの?」



シンシアが尋ねると、セルリアが頷く。



「えぇ。私にはこの村に生まれて暮らす方がよっぽど叶わない。」



シンシアもラビスもアギアスも、目を丸くしてセルリアに見入り。

アギアスは静かに微笑み頷き、ラビスもまた淋しげでも笑みを浮かべ、シンシアは涙が零れ落ちて顔を手で覆う。



「私はそんなに怖いか?」



「いや……っ」



セルリアはラビスに尋ねると、慌てて手を横に振る。



「ごめんなさい、違う。違うのよ。


本当に、っそうよね。自分の劣等感まで、負わせるものじゃないわ。」



大粒の涙を零しながらも微笑むシンシアに、アギアスも微笑んで手を伸ばして背中をさする。



「いい意味だよ。セルリアさんが、村に生まれた人達にとって一番嬉しい言葉をくれたから。」



ラビスも明るく微笑みシンシアの補足をする。



「なぜ思っていない。」



「ははっ!全くだな。

当前だと忘れちまうなんて、ヒデェ話だよな。大事な事なのにな。」



アギアスも晴れやかに笑う。



「セルリア。ごめんなさい。気持ちがわかるから、なんて黙ってるのは違った。私達が教えなくちゃいけなかった。

自分らしい頑張りこそ見てくれてる人は居る。そんな人とこそ、歩んでいけるって。」



「そうかもな。夫婦になって終わりでもねぇからな。」



「ええ。セルリアの元へ集める前に、一度、私に預けてもらえないかしら?まだ頑張ってもらえる?」



シンシアは許しを乞うようにセルリアへ尋ねる。



「私は問題ない。」



「ありがとう。その間、服も用意するわ。切られたり汚れたら私に直させて。待たせるんだもの。」



「えっ、でもそんな。大変じゃあ……!」



「やらしてやってくれ。ラビス。

じゃ、俺もその時間空けるのに一肌脱げねぇとな。」



「あらほんと?ありがとう。」



生活が共通している事はアギアスとシンシアもラビスとセルリアも変わらないが、2人の様子が夫婦を語った。


ひとまずシンシアに預ける事に決まり、ラビスとセルリアはそのまま夕飯までもらう事になり、ようやく家路につく。



「セルリアさん。僕と暮らすのは、嫌にならなかった?」



「ならない。退屈がないだろう。」



あっさりと返された回答に、ラビスは元気に笑う。



「そうですね。セルリアさんの体力すごいから、負けてられない。」



「やめておけ。死ぬぞ。」



「そんな……縁起でもない。」



突然の物騒な言葉にラビスも困惑する。



「ならばやめておけ。生き繋ぐ事を考えろ。」



「それはもちろん、そうします……。」



「ならいい。」



納得したセルリアに、ラビスは嬉しさに笑った。



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