それぞれの思い 3
家に戻りまずは汚れを落としに風呂へと入る。セルリアも風呂を覚え、順番に済ませて夕飯の支度が始まる。
「セルリアさん、森に行くのは朝にしましょうか。明るい方が野犬も動かないかと。」
「……問、題……ない……。」
狭い調理台に並んで立ちながらラビスが声をかければ、初めてというくらいセルリアの言葉がぎこちない。
その手元を見れば、必死に包丁を立てて沿わせるもののプツプツと皮を切れさせながら皮むきをしている。
「セルリアさん、肩が力んでるよ。落ち着いて。広範囲剥こうとせず、切れるとこを這わせて。」
力んでいる姿が見てわかり、ラビスの心境は一転。ヒヤヒヤし、声をかけずにはいられない。
「や、っている……が、身ばかり、削げ……、」
セルリアが返事にまで奮闘が現れていると、また力が籠ったのだろう。
握られたじゃがいもが大破して、バラバラと調理台と床に散らばった。
「え……っえ!?砕けっ……!」
まさか素手で砕くなど思いもせず。
昼間のシンシア同様、欠片となって散らばったものと、セルリアとをラビスも見る。
「……野菜が脆いんだ。」
「いや、生のじゃがいもは……っ!」
ラビスはかけていた声が止まり、笑いになる。
「何がおかしい」
「いやっ、ごめんなさい!
本当に力があるんだね。もしかして、調理場でも?」
「……にんじんが折れた」
ラビスは最早、隠す事もなく明るく笑う。
「僕はじゃがいもを滑らせたり、手を怪我してた。頑張りましょう!
今回は皮剥きは僕が。シンシアさんも絶賛の刻みを見せてもらえますか?」
「切るのは問題ない。」
ラビスの見本を真似つつ、セルリアは乱切りやいちょう切りなどの新たな切り方を会得し。
昼間にはやらずにいた味つけにも加わって二人で料理を作り上げた。
「ラビス。私の分は必要ない。」
「え。どうして?体調悪いですか?」
「いや。食事の量が増えるのは負担になるのだろう。」
心配したラビスがポカンとする。
「そんな。セルリアさんだって一緒に働きに出て、ちゃんとセルリアさんがもらうべき分があるし。
僕はまた、人と食事出来るのが嬉しい。セルリアさんが嫌じゃなかったら、一緒に美味しく食べてもらいたい。」
「そうか。わかった。」
「ありがとう。」
ラビスも嬉しそうに笑い、二人分に増えた器に料理を揃え。いただきます、と手を合わせる。
「んっ。セルリアさん、味付け上手だね。美味しい!」
ラビスも絶賛する。
パッと入れてからの味見で既に完成形でいじることもなく、美味なようだ。
「調味料も食べた。味の変化はわかる。」
「食べた!?塩とか、辛いのもあったでしょう!?」
「問題ない。」
ラビスはいつも以上に笑顔も絶えずに食事をとるが、ふと笑みが落ち着く。
「セルリアさん。悪魔とかって話になって、ジャルの事は苦手になったりしたかな?」
「いいえ。」
「良かった。ジャルは、乱暴みたいに言われる事もあるけど。何度も背中押してもらったり、手を引っ張ってくれたり。僕には頼もしい友達だから。
もし会うのも嫌だったら、考えなきゃと思ったんだけど。」
ラビスも心配も含めて伺うように見るものの、セルリアに変化はない。
「悪魔の話や、恋人というものや、奴に教わった。」
「……勉強熱心なんだね。」
セルリアにとっては学びに括られていた事に、ラビスは驚きであった。
「おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
そして布団に横になり就寝する。新たな布団も増えて、セルリアが新品、ラビスが元の布団に戻っている。
セルリアは一向に寝るという行為はせずにいて、ラビスが眠ってしばらくした後に布団を起き上がり、寝息を立てるラビスを見る。
「何故あの鏡は、私にラビスを見せていたのだろう。何故私を、二度もここへ?あの頃のように、救えとでも言うのか?悪魔であろう私に……。」
セルリアがそう呟いたところで、誰の答えも返っては来ない。唯一返せるだろうラビスが今や夢の中だ。
静まる部屋の中をセルリアが振り返れば、夜目がきいて家族写真が映る。
「……鏡が戻るまでは勤めよう。嫌なら化けて出てくるがいい。」
そう写真に向かって呟き終えると、セルリアは布団に戻り、静かに瞼を蓋した。
数時間後の翌朝。
早めに起きたラビスと共に森を歩いて抜ける。
「うわぁ、朝は絶景だったんだ……!知らなかった。」
少々霧は残っているが、渓谷の谷間にも射す日の光に反射する様は白い絨毯のよう。ラビスは感動を見せる。
そして静かに手を合わせる。
「今日も1日、精一杯頑張って来ます。」
腹を据えた声で自らを高める為の一言を告げる。
「これは、合格もらえるかな?セルリアさん。」
昨日指摘された改善を試みたラビスは、セルリアへと尋ねる。
「えぇ。」
問題なく合格をもらい、しばし神秘的に映る絶景を二人で眺めてから新たな1日が始まった。




