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婚約破棄は喜んで

作者: 小埜我生

「ノエル・ラヌシーヌ公爵令嬢、貴様との婚約はこのときをもって破棄する」

大広間に響き渡るその声の主は、我が国ラグールの王太子 シャルル・メル・ド・ラグール殿下。私の婚約者・・・いや、だった方です。

本日は王家主催の舞踏会。

何故か今日はエスコートできないと言われたので兄とともに来たのだが兄は他の方に誘われたので私は殿下が来られるまで適当に壁の花として立っていました。

さすがにファーストダンスを殿下以外とするわけにいかないですしね。

舞踏会も中盤に殿下は入場して来られました。皆が彼の側により臣下の礼を致します。もちろん私も。

その中をぐいぐいと進み彼は私の前に来ると先程の宣言をされたのです。

周りの貴族たちもざわついた。

「どういう事でしょうか?」

私は臣下の礼をやめシャルル殿下に尋ねました。

「どういう事だと」

殿下は、私の言葉に分かりやすく顔を歪められました。

「彼女を虐めたであろうが」

そう言いながら殿下が抱き寄せたのは・・・どなたでしょうか?

二人は寄り添いながら立って未婚の男女の距離としてはあまりにも近いように思われます。

小柄なかわいらしい小動物のような顔な女性。

「・・・・」

「ふんっ、事実に言葉も出ぬのか」

無言を是ととられたのでしょうか。

「申し訳ございません・・・その・・・彼女は・・・」

「何だ、はっきり言え!」

「どなたなのでしょうか?」

「「は?」」

恥ずかしいです。王太子の婚約者として王妃教育や社交をこなしていたのに記憶にないのです。

殿下が側に侍るぐらいなのなら貴族女性なはずですが。

周りの貴族から「確かにどこの家の娘だ?」だの「私もお会いしたことありませんわ」だの聞こえてきて私も少しホッとしました。

「ラブリ・モンジュですわ!」

殿下の側で先程まで目を潤ませていた少女が顔を赤くして言った。

「モンジュ男爵家ですか」

家名を聞いて思い出しました。モンジュ男爵家先代の庶子が見つかったと半年ほど前に話題になったのです。

正確には庶子はすでに鬼籍に入っており孫にあたる女の子を現当主夫婦が養子として引き取ったと。

「彼女とは面識がないのですが・・・」

「そんなわけないだろう!彼女を虐めていたと報告があがっている」

「そっそうですわ!ノエル様にシャルル様と仲良くしていた私を妬ましく思って虐められました!」

二人は私の悪事をあれこれと叫んでおられます。だが騒ぐ彼らと対照的に周囲の空気は冷えていきます。皆は分かっているのです。これから何が起こるのか。

「婚約破棄了承いたしましたわ!」

彼らは私の顔を見ると騒ぐのをやめました。

あまりの笑顔に。

「兄様、帰るのでエスコートお願いいたしますわ」

群衆の中からひきつった表情の兄が出てきた。

やれやれといった感じだが可愛い妹が弾劾されているのだからはやく守りにきてもいいでしょうに。

「ま、待て!」

「何でしょうか殿下?」

「彼女に謝らずに帰る気か!」

「謝罪?先程のどの内容も心当たりありませんのに?」

「はぁ?」

どうやら殿下は本当に彼女の事を信じているのでしょう。

「・・・していないことに謝罪はできませんが感謝は述べさせていただきますね」

「「感謝?」」

あらまぁ、またお言葉を揃えるなんてお二方がお似合いなのは事実のようですわ。

「殿下との婚約成立より10年間ありがたい教育の数々を王家より授けて下さっていただきましたが、その対価に自由を捧げました」

幼き頃より親元を離れ婚約者用の屋敷で教育係と使用人に閉じ込められ家族とは許可された限られた時間のみ、それ以外の外部との付き合いは社交だけ。

ほとんど軟禁状態だった。

「そんなもの王家に嫁ぐなら当然であろう」

殿下は呆れたようにいう。

「はい・・・『当然』と思っておりました」

あら、ラブリ嬢の顔色が悪いですが知らなかったのですかね。まぁ、高位貴族以外には秘匿されていますが殿下は教えなかったのですか。

「・・・この半年は殿下に代わり隣国との公務に同行しておりました」

「あっ」

殿下・・・今思い出されたんですね。

他の方はもちろんご存じだったから私が彼女を虐めるなど物理的に無理だと分かっていたのです。

「殿下の代わりでしたがまさか私の留守に他の令嬢を見初められるとは思いませんでしたわ」

私の微笑みに殿下は気まずそうに視線をそらされました。

「ラブリ様?」

「ひゃっひゃい!」

あら殿下に縋りながら震える姿は本当にリスのようです。

「あなたのおかげで私は10年ぶりの自由を手に入れました本当にありがとうございます」カーテシーをして感謝を述べました。

彼女は呆けていた。

「では皆様失礼いたします」

兄の手をとり実家に帰りました。

帰宅とともに両親は驚きと涙を流して喜んでくれました。


そこから私には国王陛下より殿下の愚行への謝罪と婚約破棄を考え直してほしいと連絡がきました。ラブリ嬢は王妃教育に恐れをなして男爵家に逃げ帰ってそのまま養子縁組を破棄され修道院へ送られたらしい。

しかし貴族の務めとして幼い娘を差し出した我が家はその10年を冒涜されたとして断固拒否致しました。

他の高位貴族もあんな修羅場を見て娘を差し出す家などないでしょう。

殿下も泣きながら謝罪にきて騙されていただの許してくれだの言ってきたがそれは廃嫡が決まったからでしょう。

王弟殿下の息子が王太子に決まりました。

シャルル殿下は廃嫡後辺境に幽閉されました。

私はというと隣国の第二王子に求婚された。

彼は、幼い頃訪れた我が国で私に一目惚れしたもののすでに殿下と婚約していたため生涯独身を貫く気だったらしいのですがこの騒動後すぐに我が家に直接プロポーズしにきたのです。

王家に嫁ぐのに難色を示していた私にすでに母親の実家の公爵位を引き継ぐ予定であること。私の好きな蔵書で埋め尽くした書庫。我が国の有名なシェフを雇う事。

自由な生活をしてかまわないという誓約書を携えて来られました。

「僕に必要なのはノエル嬢だけなんだ」

そんな彼にいつしか私は絆され。



「ノエ~」

今では私に抱きつき甘える彼を私はやれやれと撫でるのが日課に。

脱字報告ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
秘匿事項を公の場で言ってしまうのは罪になるのではないでしょうか
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