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出力最大

Box(ピットイン)、Box。よく頑張った、正治くん』


「了解です。」


37周目から86周目、49周にわたってレースをリードしてきた正治の役目が終わった。

良好だったペースを維持し、42周目で二番手に浮上してきた1号車の猛攻を防ぎ切った。

第一スティント終了時のギャップ、2.3秒を6.2秒まで引き離し、ピットに帰ってくる。


『瀬名くん、聞こえてるか!』


チームメイトに向けて、最後のエールを送る。


『オレにできるのはここまでだ。だが、オレたちでここまで繋いだんだ。残り…50分くらいか?オレたちの『精一杯』を見せてやろうぜ…!!!』


それを聞くまで無線ブースの横に立っていた瀬名は、ヘッドセットを外すとピットロードへ走っていく。


小脇に抱えていたヘルメットを被り、向かってくる正治に対して親指を立てる。


「こっからは俺の時間です。さあ、やってやりましょう…!」


バトンが、再び繋がれる。






「祐介、本当にあの作戦で良いんだな?」


「はい。確実に勝って見せます。」


チームAMT、ピット。

自分の出番が来る直前、富岡はチーム監督と話し込んでいた。


「かなりの奇策だ、責任は取れんぞ。」


「だから、勝てますって。心配性ですね」


監督はやれやれと手を上げて、作業をしているピットクルーたちを指差す。


「おい、次のピット作業では()()()()()燃料を入れろ!いいか、満タンまでだぞ!」


クルーたちは少々動揺した様子だった。

それもそのはず。燃料マップを絞り燃費走行を心掛けていれば、残りの周回数では燃料は半分ほどしか必要ないはずだった。


「ご配慮感謝します。これで私は思う存分暴れられる。」


ヘルメットを装着、定位置につく。

マシンがピットに入ってきて、それに慣れた動作で乗り込む。

一足先にレンペルが前に行くが、慌てない。

ピット作業は、おおよそ相手方より15秒弱長くかかっただろうか。


作業を終え、ピットレーンを走る。


60キロの制限区間は、嫌に長く感じられる。

だがその嫌な時間もすぐに終わりを迎える。


サーキットへ合流。


これができるなら、15秒なんて安いものだ。

残り50分、絶対に追いついて見せる。


「リミッター・オフ。Fuel Map・1()!!!」


いざ、猛追。


『1号車がかなり遅れて出てきている。何かしらのトラブルがあったのかもしれない』


「こちらとしては都合がいいですね。思う存分逃げさせてもらいます。」


27号車が()()()()()()独走態勢に入っている。


「今の1号車とのギャップはいくらくらいですか?」


『21秒だね。このままなら…ん?』


優次がモニターに異変を見つけた。


『どうかしましたか?』


「いや、1号車がファステ(最速)ストラップを更新した。…故障か?これ」


たった今まで、最速のタイムは瀬名が第一スティントの12周目に記録した1分30秒502だった。

だが、そこに表示されていたのは。


「1分28秒933だ…!!!」


『はい!?んなバカな!あり得ない、俺のタイムより1.5秒も速いんですよ!?』


データ類の故障に違いない。

レンペル陣営としてはそう願いたかった。


しかし、その思いは脆くも砕かれることになる。


「いや、間違いじゃない…!物凄い勢いで追い上げてきてるぞ!!!」


モニターに表示されたギャップの数値が、通常ではあり得ない速度で小さくなっていく。


20.905。


『本当に最後までこのペースで来ると言うなら…』


20.622。


「言いたくはありませんが…捲られますよ、このギャップ。」


20.347。


瀬名は目線をマシンに搭載されている燃料計に移す。


20.020。


そこにはFuel Map・6の表示も。


19.756。


『20秒を切った…!!!』


「残りはまだ30周あるんです、このペースだとマズい…ですよね。」


『でも、どうすることもできないだろう…』


瀬名の視線は、燃料マップ『6』の表示で留まっていた。


「いや。一つだけあります。」


『…ダメだ。』


「でも!」


『ダメだ。レースにおいてリタイアというのは、最も避けなければならない事なんだよ。』


燃料マップを弄れば、追いつかれることは一時的に避けられるかもしれない。

しかし、それは燃料…マシンにとっては寿命の前借りに過ぎないのだ。


「俺は!2位なんか取りたくないんです!!!」


無線の音割れから、瀬名の声量がうかがえる。


「2位は敗者のトップ、でも敗者は敗者だ!同じ敗者なら、全力を出し切って負けたいんですよ!!!」


『…。』


瀬名の熱量に、優次は押される。


「少し、考える時間が欲しい。Keep Push(攻め続けてくれ)。」


『…Copy。』


それから毎周、縮まっていくギャップの恐怖ともどかしさに喘いだ。

残り25分を切ったころ、そのギャップは一桁秒台へ突入。

それでもまだ、優次は判断を渋っていた。


瀬名のマシンの燃料計は、4分の1を少し上回るくらいを指し示している。

このままの燃費走行を続けていれば、少し余るといった具合だ。


残り15分。


バックミラーには、もう大きく1号車の姿が見えている。

時間的に、残り周回数は10を切った。


1号車がホームストレートで27号車に並びかけようとする。


その映像が、優次の見るモニターにも大きく映し出されていた。


しかし、むざむざと貪り喰われていく自チームのマシンを見て黙っていられるほど、優次は冷めきっていなかった。


「瀬名くん。」


その声は落ち着いていて、威厳を感じさせてくれた。

かつて王者と呼ばれたその男は、決断を下す。


「Fuel Map・4以下の使用を解禁する。…昨年王者を、一泡吹かせてくれ…!!!」


『…その言葉を待ってましたよ。少し遅かったですが、まあいいです』


瀬名はステアリングのツマミを回す。

それに呼応するように、燃料マップの数字が小さくなっていく。


5、4、3、2。


そして。


「Fuel Map・1。…出力最大…!!!」


全精力を取り戻した650馬力が、後輪から放たれる。


並んでいた2台の序列が、徐々にもと居た位置に戻っていく。

ストレートに強いGT-R。

その本来の力。


チームレンペルは、徳俵に指一本残して1位を守り切る。


「やっと起きたか、sennaさん。さぁ…あと9周、存分にやり合おうじゃないか。」


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― 新着の感想 ―
富岡さんのすごい追い上げ!!(* ゜Д゜) 富岡さんカッコいいけど、追い上げられる瀬名くん達のほうも負けられるか!という熱い想いを感じて、手に汗握りつつ読みました! 1位を守り切りたい!!!!!
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