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初参戦・初優勝

『今の気持ちをお聞かせ願えますか!』


「そうっスねぇ…楽しかったっす!!!」


シャンパンファイト後、インタビューに応じる瀬名。


初参戦、初勝利を飾り、途轍もない衝撃を観客に植え付けた。

彼が只者ではないと感じ始めた者も少なくないだろう。


『ピットイン後、富岡祐介選手とお会いしていたようですが…そこではどのような話を?』


「『お前天才だね』って言われました!あ、富岡さん!俺別に間違ってないですよね?」


「大体合ってる。大体合ってるよ」


偶然後ろを通りかかった富岡の袖をグイッと引っ張り、カメラの画角に入れる。

苦笑しながら応対する富岡。

なんとも言えない表情は、はインタビュアーにも伝播した。






「じゃあ、今日はこれで解散になります。皆さん、ナイスレースでした!」


優次がミーティングを〆る。


クルーたちは自分の荷物を持って、次々に帰路へ着いていった。


「じゃ、オレらも帰るか。」


「ですね。…あ、あの人らまだ居るかな」


思い出したようにグランドスタンドの方を一瞥する。


「あー、キミのお弟子さん一行?」


「そうっス。応援してくれてたみたいだしお礼を言いたい…って。」


ピットからパドックへ出てみると。


「「なんじゃこりゃ!?!?」」


とんでもない人だかり。

数にして数百…もしかすると千に届くかもしれない。


「全員、キミたちのレースに魅了されたファンたちだよ。」


いつの間にか後ろに立っていた優次がそう言う。


「ファンか…悪い気はしませんね」


「サインでもしてあげれば喜ぶよ。カッコいいサイン、練習してたんでしょ?」


優次は瀬名の背中を人混みの方へ押し、親指を立てた。

黄色い声援、野太い声援。


その両方を受けて、二人はサインやら握手やらに奔走した。


ある人は。

「次の富士も頑張ってください!」


「やってやりますよ。ありがとうございます。」


またある人は。


「これ…私の連絡先です…!」


「あー…そういうのはやってないですねぇ…」


中には子供もいる。


「おにーさん、いかついけどはやいね」


「おぉ…オレのこと、まだお兄さんって呼んでくれるのか…」


一人一人の顔は見ていられないが、精一杯丁寧に対応をしていく。


「瀬名さん!サインください!!!」


…。

見知った顔だ。


「オイコラ。裕毅コラ。一般の方に混じるのやめなさい。」


「えー、だって…」


「だってじゃありません。父さんと聡さんはどうした?」


裕毅は辺りを見渡すと。


「あれ?さっきまでいたんですけどね…」


不思議そうに首をかしげる。


「おーーーい!ここ!ここ!!!」


「人混みに呑まれるなんていつ振りか…いや、初めてかもな…。ちょ、聡くん押さないで…」


ぎゅうぎゅう詰めの人混みに、馴染の顔が二人。


「早く救出しないと二人が圧縮されてzipファイルになっちゃいます!」


「それはどういうこと???…すいません!通してください!!!」


群衆をかき分け、身内の救出を図る。






「ふぅ…どうなることかと思った」


「ゼェ…ゼェ…レース後の方が疲れるわ…」


ほとぼりが冷めたころ、ベンチに腰掛け水を飲む伏見親子。


「すいません、ボクの軽率な行動で…」


「いいんだけどさ。俺のことになるとマジで制御不能になるのね、裕毅」


動機が動機だけに、素直に叱れない。


「で、瀬名。」


「なんだい父さん。」


「どうだった?スーパーGTは。」


ペットボトルの蓋を閉め、脇に置く。

背もたれに寄りかかり、夕焼けに染まった空を見上げる。


「…すげえよ。」


「…そうか。」


その四文字に、全てが詰まっていた。


スピード、スリル、難しさ、楽しさ。


「裕毅くんから聞いた。F1を目指すそうだな。」


「ああ。だからスーパーフォーミュラの件も快諾した。」


瀬名の夢は、留まるところを知らずに大きくなっていく。

でも、それを実現できるだけの実力を彼は秘めている。


それを一番知っているのは、父である稔…。


「ってわけでもねえんだろうなぁ…」


「?」


「いや、独り言だ。」


正直、稔は瀬名のことを甘く見ていた。

親としてはあってはならない事だが、ここまでとは思っていなかった。


連戦連勝、負けたレースを思い出す方が難しい。


探せばあるにはあるだろう。


でも、『勝ってる印象しかない』のだ。

印象というのがスポーツの世界ではとても大事で。


例えば、160キロの球を投げられる高校球児がいたとする。

でも、チーム力の問題で勝ち残って甲子園に行くことはなかった。

おまけに練習しているところは見せないし、インタビューの態度も悪い。


そんな状態じゃ、スカウトの声もかからないだろう。


でも瀬名は、そのとっつきやすい性格と確かな実力で勝ち上がってきた。

レースしているうちに仲間も沢山でき、サーキットを離れても人間関係は潤沢。


才能、と言ってしまって構わないだろう。


素晴らしい才能だ。


「瀬名、新しい水いるか?」


「ボク買ってきますよ」


「瀬名くん、この子に最後に一枚だけサイン書いてあげて。」


こうして話しているだけでも、仲間たちが続々と集まってくる。

おまけに今回のレースでファンも大量に獲得した。


「いい子に育ったな、瀬名。」


「なんだ急に気持ちのわるい…」


「いや、独り言だ。」


この子が歩みを止めることは…あるのかな。


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― 新着の感想 ―
海外で活躍できるレーサーの素質として、人柄の良さも大切なんですね! その部分でも瀬名くんはすごく恵まれたものをもっている(*'ω'*) お父さんとしても嬉しいようなちょっと寂しいような気持ちでどんど…
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