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13

あれから、5か月の時間が過ぎた。


デビューしてすぐにその座に上り詰めたF4界の三強は、着実にポイントを重ねていった。


第十二戦終了時でのポイントランキング1位は、伏見瀬名で240ポイント。

3位以下を取ることはほとんどなく、堅実にポイントを重ねていった。


その瀬名から2ポイント差の238ポイントで2位につけているのは中島聡。

決まれば上位に入るものの、実力では少しばかり瀬名に見劣りする印象だった。


初戦および第二戦を欠場していながらも、3位は松田裕毅の203ポイント。

若さゆえの不安定さはあるが、ポテンシャルは三者の中でもピカイチだ。


三人のポイントランカーは、この状態で最後の二戦へ。

モビリティリゾートもてぎでの、最終決戦へと挑む。








「よう。お招きいただきありがとな。」


「こちらこそ。VIP席で楽しんでいってくれや」


第十三戦、第十四戦が行われる二日間、瀬名は琢磨をサーキットに招待した。


「長生きはしてみるもんだな…こんないい席でレースが見られるなんて…」


「おめーいくつだよ」


目頭に手を当て、泣く演技をする琢磨にツッコミを入れる。


「じゃ、行ってくるわ。」


「おう。しっかり勝ってこいよ」


琢磨はシャンパンを運んできたウエイターに会釈をすると、出口へと向かうレーシングスーツ姿の瀬名の方へ体を向けて手を振った。


瀬名は出口の扉に手をかけ…ようとしたところでもう一度琢磨の方を振り返った。


「あ、そうだ。レース後に話したいことがあるから、しばらくここにいてくれ。」


「?。まあいいけど。」


シャンパン片手にその言葉を聞いた琢磨は、瀬名の姿が扉の向こうへ消えたことを確認すると目線をコースへ移した。


「さて、どんなレースを見せてくれることやら…。楽しませてくれよ?」



午前8時06分、StarTailピット内。

伏見瀬名、現着。


「瀬名さん戻りました!」


「了解。マシンの最終確認お願いします。」


「ジャッキ上げます!」


クルーたちの声がピット内にこだまする。


「遅かったな。もうすぐ時間だぞ」


「これでも巻いた方っすよ。久しぶりに会った親友と話し込むなっていう方が無理な話です。」


既にヘルメットを被り、グローブをはめている聡。


「まあいい。調子はどうだ?」


「うーん…そこそこ。」


聡は肩すかしを食らう。


「お前、今オレと2ポイント差でトップ争いしてんだぞ?もっと鬼気迫った表情のひとつでもして見せろよ」


「それで速くなるんならやりますけどねぇ…ん?」


なにやら作業をしているクルーたちが騒いでいる。


「なにかありましたか?」


瀬名がそちらに行き、話しかけてみる。


「ほんの少しだけなのですが、燃料系にトラブルが生じてるみたいです。レースまでには直しますので安心してください。」


瀬名の心の片隅に、一抹の不安という雑念が生じた。


これがレースにどう影響してくるかは分からないが、プラスの効果をもたらすことはないだろう。


「そう…ですか。では、お願いします。」


瀬名はマシンから離れると、自分のヘルメットを取りに行った。

レースはもうすぐ始まる。





瀬名のマシンは、作業を終えてジャッキから降ろされた。


ほどなくして、そのマシンにドライバーが乗り込む。


瀬名はステアリングを握り、感覚を確かめる。

右のシフトパドルを一回カチッと操作し、ギアをニュートラルから1へ。


アクセルを踏み込むと、マシンは問題なく動いた。


そのままゆっくりとピットレーンを進み、コースへ出ていった。


コースを一周したマシンは、瀬名のグリッドであるポールポジションへと。


一番前の、見渡す限りだだっ広いサーキットの路面が広がるグリッドに停車した。

スタートまではまだ少し時間がある。


瀬名はエンジンのスイッチを切り、瞑想に入った。





集中…俺は速い…この場にいる誰よりも…。


ここで勝って、明日も勝つ。

来年スーパーGTに行って、そこでも勝つ。


そして…


『スタート一分前です。準備をお願いします。』


チームから無線が入った。

もうそんな時間か、と目を開ける。


瀬名はエンジンをかけようと、スイッチを押す。


『カチッ』と乾いた音がした。


だが、その後に続くべき唸るような轟音は聞こえてこなかった。


もう一度押してみる。


やはり『カチッ』と音がするだけ。

瀬名は焦る。


やはりあのトラブルか。

すぐさま、無線で状況を伝える。


『エンジンつかない!エンジンかからないです!!!』


ピットは騒然とする。


「13号車、瀬名さんのマシンエンストです!」


「稔さん、どうしますか!?」


普段はゆったり、どっしりと構えている稔が、珍しく小走りで駆け寄る。


「無線を私に代わってくれ。」


無線担当からヘッドホンを受け取ると、瀬名との意思疎通を図る。


「手順は間違えてないか。」


『間違えてない!…です。どうしよう、父さん、俺どうしたら…』


シグナルに一つ、また一つと赤いランプが灯っていく。

スタート5秒前。


『落ち着け。もう一度ゆっくりやってみろ…』


4。


「やってるって!!!」


3。


カチカチとヤケクソでボタンを押す。


2。


「どうしよう…どうしよう…」


1。


スタート。


無情にもシグナルは緑色に染まった。

ただ一台、止まったままの瀬名の横をものすごい勢いでマシン群が通過していく。


既に瀬名のポジションは全てのマシンに抜かれ、最後尾となっていた。


瀬名以外のマシンがスタートしてからおよそ25秒。


瀬名がカチカチと押すボタンの感触が、変わった。

直後、彼が待ちわびていた轟音が背後から聞こえてくる。


その状況を報告する前に、瀬名はアクセルを踏んでいた。


伏見瀬名、トップから27秒遅れでのスタート。


13周のレース、どこまで昇ってゆけるか。


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― 新着の感想 ―
「燃料系にトラブル」 なんて不穏な言葉!! おみくじで怪我注意とかあったような気がする……事故とかやめてくださいよ!?頼みますよ!? スタートも遅れてしまったし、このままレースに参加して大丈夫なの!?…
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