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デート

「ッシャァ!!!オレの勝ちだァ!!!」


開幕戦以来の優勝となった聡。

ピットに戻るなり雄叫びを上げ、両拳を突き上げる。


「あの戦い方されたら無理っす。なんか後半速くなってたし…」


瀬名は拍手を送りながらも、悔しそうな表情を見せる。


「文句は無いっす。無理なブロックもしてこなかったし、クリーンな範囲でした。」


「ありがとうな。良いレースだった。」


二人は握手し、健闘を称え合う。

聡にとっては、天才二人から実力でもぎ取った勝利である。


幾多の偶然が重なって完成したレースだとしても、これ以上ない歓喜の瞬間だろう。






ほとぼりが冷めたころ、ピット奥。

瀬名がスマホを弄っていると、メッセージが飛んできた。



11:57亜紀『お疲れ様。テレビで見てたよ~!』

11:57亜紀『ナイスレース!』



「亜紀さん…」


スマホをタイプする。



11:58瀬名『ありがとうございます!久々に緊迫した試合で楽しかったっす!』



「どうした、ニヤニヤして。彼女か?」


「うわビックリした。スマホ覗くのやめてくださいよ…」


シャワー上がりの頭をゴシゴシとタオルで拭きながら、聡が隣に座ってきた。


「今日から第五戦までは結構時間がある。東京戻るのか?」


「そうですね。久々に家でゆっくりしようかな~と。」


「なら今日の夕飯、どこかで一緒に食わねえか?ほら、あの裕毅とかいう子も呼んでさ。」


「いいですね。じゃあ彼にも連絡して…」



11:59亜紀『今日の夜とかに会えないかな?久々に話したいよ~』



「…。」


「中止、だな。」


「ありがとうございます…。」


瀬名は羞恥で頭を抱えた。






「あ、いたいた!おーい!!!」


どれだけ目が良いんだとツッコみたくなるほどの遠距離で、しかも視界に入った瞬間に瀬名を認識して手を振ってくる亜紀。


「お疲れ様です。めっちゃラフな服で申し訳ないっす」


「気にしない気にしない!瀬名くんであればそれでいいよ!」


遠征用の簡素な半袖シャツ。


肌が露わになっている肘から下に、亜紀が直接腕を絡めてくる。

レースの付いた亜紀の服が腕の内側に当たって、少しくすぐったい。


「じゃあ、どこに行きます?」


久々に感じる彼女の体温にどぎまぎしながらも、会話を楽しむ。


「まずはご飯かな~。瀬名くんお腹減ってるでしょ。さっきからお腹ぐーぐー鳴ってるよ」


現在時刻は18時を少し回ったところ。

しかし、瀬名は昼食を抜いていた。


亜紀との待ち合わせに間に合わせるため、できるだけ早く帰路についたのだ。


「…バレました?」


「何食べたい?ちょっと遅いけど、第二戦の優勝祝いとして奢ってあげよう。」


「いや、俺も稼いでるんで流石に申し訳ないっすよ…」


「いいの!キミは私の彼氏であると同時に、可愛い後輩なんだから!」


それから幾度も抵抗を試みたが、結局瀬名は押し負けてしまった。

二人は相談の結果、近くにある焼肉店に入ることにした。





「それでですね、裕毅くんっていう後輩ができて…。」


「うんうん」


瀬名のトーンが上がっていく。

楽しそうに話す姿に、亜紀も笑顔で相槌を打つ。


久しぶりに会えた想い人は、亜紀が好きだったあの瀬名のままであった。

それに少し安心し、飲み物を一口含む。


「瀬名くん、この後映画行かない?今からだったら最後の回なら間に合うと思うよ」


「お、いいっすね!今どんなのやってるんですか?」


ここ最近の瀬名はモータースポーツに打ち込みっぱなしで、俗世にあまり触れていない。

今、上映している映画の種類が分からないのは無理もないだろう。


「瀬名くんが好きなあのレースゲーム、映画化したらしいよ。」


「え!あれを映画化ってどうやってですか…?ストーリー性のあるゲームじゃないですよ?」


「なんかあのゲーム経由でリアルレーサーになった人の話らしい。瀬名くんと一緒だね」


亜紀はスマホで映画のあらすじを読みながら言う。


「よし、じゃあお腹もいっぱいになったことですし行きますか!」


「おー!」


それから二人は映画を楽しんだ。

場内に響き渡るエンジン音に鳥肌を立て、ラブストーリー的なシーンでは手を繋ぎ…。


「いや~、良かったね!」


「ですね。特にどこが好きでしたか?」


「ラストレースの前に、リアルレーサーになる夢に否定的だった、主人公のお父さんが出てくるところかな。親心ってものを考えさせられたよね…」


瀬名はうんうんと頷き、一呼吸置いた後語りだす。


「俺は、大クラッシュから立ち直っていく主人公の心情の変化が良いと思いましたね。もし俺があんな事故を起こしたら…。」


少しだけ顔を下に向け、表情を曇らせた。


「ねぇ、瀬名くん。」


亜紀の方を振り向くと同時に、瀬名の唇が塞がれた。


「辛くなったり、不安になったらいつでも電話してね。私はいつでもウェルカムだから!」


近づいていた顔と顔の距離が、また離れる。

亜紀は腕を前に持ってきて、パンパンと叩きながらそう言った。


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― 新着の感想 ―
焼肉から映画へ……ばっちりのデートコースですね(笑) しかも二人の大好きなレースの映画!! 共通の楽しみがあると長続きするんじゃないかな、素敵なカップルだと思います(*'ω'*)
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