表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/157

相手

翌日、朝8時。

ピットに金属音が響き始める。


各チームがマシンのセッティングを行い、レースに備えている。


瀬名もまた、昨日と同じようにピットでレース前の休息を取っていた。

自分のマシンが整備されているところを見つめる。


メカニックがウイングの調整に入った。


口にしていたスポーツドリンクを置き、立ち上がる。

メカニックの肩をポンポンと叩き、話しかける。


「すいません、昨日のセッティングだとちょっとダウンフォースが強すぎたみたいで…もう少しウイング寝(ダウンフォース)かせて(減らして)もらってもいいですか?」


メカニックは驚いた表情をすると、少しの間の後こう答えた。


伏見(監督)さんを呼んできます」


しばらくして、ピットの奥からメカニックに連れられて稔が出てくる。


マシンの状態をじっくり見た後の第一声は。


「あれ~?これセッティング間違えてんじゃん!」

わざとらしく驚いた演技をしたような一言だった。


「ごめんごめん、別の低速コース用のセッティングが適用されてたみたい」


不自然な挙動をしながら、瀬名に謝る稔。


「これで、もっと速く走れるようになりますかね。1位にはなれない…っていうかなっちゃいけないんでしょうけど」


イライラしたような声色で、瀬名が言う。

その様子を見て、稔は一つ提案をする。


「なら、今日のレースはファーストセカンド関係なしの、ガチのバトルをしようじゃないか。」


聡にも聞こえるような大きい声でそう言った。


「開幕戦、わがチームは1-2(ワンツー)フィニッシュを飾っている。少しくらい二人で争ってもポイント的には問題ないさ。それに…」


稔は瀬名、聡の両方の顔色を確認すると。


「キミたちなら、それでも勝っちゃうでしょ?」


隠しきれない笑みを隠しながら、そう言った。






『ヴィーッ。ヴィーッ。』


部屋にスマホのバイブレーション音が鳴り響く。


誰だよ休日の朝っぱらから電話を掛けてくるのは…。

まあ大方アイツだろう。


目を閉じたまま手探りでスマホを探し当て、耳に当てる。


「は゛い゛」


喉ガッラガラだわ。


『寝起きか?悪いな。』


「とっとと要件を言ってくれ。二度寝したい」


電話越しの瀬名の声はなんかちょっと嬉しそうだった。


『お前の見解、合ってたよ。やっぱ低速コース用のセッティングになってたみたい』


やっぱりか。お父さんはそういう事しかねないとは思ってたんだよな。


『それで、今日はセカンドドライバーでも優勝狙っていいってお達しが出たんだぜ!』


これも想定通り。


本来なら瀬名が自力で気づけたら、チャンスが貰えるって感じだったと思うんだけど…。

ま、言わなきゃバレないっしょ。


「マジか、頑張れよ。寝ながら応援してるわ」


『それは応援とは言わん』


心配せんでも、アイツなら勝つだろう。

そう思い、オレは目覚ましのタイマーを午前11時にセットした…。





稔の発言で奮い立ったのは、なにも瀬名だけではない。

もちろんこの男、中島聡も例外ではなかった。


「オレは速い…アイツよりも、誰よりも…」


俯き、目を閉じ、集中する。


「いーや、俺の方が速いですよ。」


いつの間にか隣に立っていた瀬名にも気づいていなかった。

聡はその声を聞くと目を開け、顔を上げる。


「そろそろ時間です。行きますよ。」


「ああ…。ここからは敵同士だな。」


聡の言葉に、瀬名は首を横に振る。


「『敵』じゃない。『相手』ですよ。」


瀬名は聡の手を取り、椅子から立ち上がらせる。

同じデザインのレーシングスーツを着た、相手同士。


瀬名の言葉も、馴れ合おうという意思は一切なく。

相手を最大限リスペクトしたうえで、完膚なきまでに叩きのめす。


両者ともそんな強い気持ちを持っていた。


レースが、始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ちゃんとセッティングにも気づけたということで、聡さんとのガチバトル! 京一さんと瀬名くんは師匠と弟子みたいな関係に見えたけど、聡さんと瀬名くんは本当に対等なライバルという感じで、お互い意識しあって成長…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ