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ファーストドライバー

『ヴァラァァァ!!!』


テスト走行をするだけの、イベント日ではない富士スピードウェイに快音が響き渡る。


観客席には熱心なレースファンがちらほら居る程度だ。

その観客の目線の先にいるのは、二台のF4マシン。


ホームストレートを時速230キロで駆け抜けてゆくその姿に虜になっていた。





「すげえな…よく曲がるしよく止まる。Gで頭がおかしくなりそうだ。」


瀬名は初めてのフォーミュラカーに戸惑いながらも、楽しんでいた。


「加速、減速、旋回。どれをとってもやっぱり本物のレースカーだ。」


改造されていたとはいえ、今まで乗っていたフィットとは比べ物にならない速さ。

そして、一番大きな変化が…。


「視界が悪すぎる!!!」


フォーミュラカーのコックピットからの視界は劣悪で、近くの路面はまず見えない。


それに加え、Halo(ヘイロー)と呼ばれる頭部保護のためのバーが視界に入ってくる。

慣れないうちは気が散りそうだ。


『よし、それじゃあそろそろタイム出してみようか。』


二人に無線が入った。


Copyの返事と共に、エンジン回転数が上がっていく。


最終コーナーを立ち上がって、エンジン全開。


グランドスタンド前を聡の12号車が通過。


およそ15秒後、再び爆音が聞こえる。


瀬名の視界には豆粒ほどの大きさではあるものの、聡のマシンが映っていた。


「よし、追いつくつもりで頑張ろう」


長いストレートが終わり、待ち受けているのは1コーナーのハードブレーキ。

しっかりと減速し、落ち着いてハンドルを切る。


立ち上がり、アクセルをゆっくり入れていく。


後輪がホイールスピンを起こさないようにゆっくり、されど急いで。


そのときだった。


『ドン!』という大きな音と共に、瀬名のマシンが跳ねたのだ。

どうやらコース脇に落ちていた特大のタイヤカスに後輪が乗り上げてしまったらしい。


瀬名はとっさにカウンターステアを当て、姿勢の制御を図る。


しかし、バランスを崩したフォーミュラマシンはそう簡単に持ち直してはくれない。


瀬名のマシンはクルクルと二、三回ほどスピンし、コースアウト。


壁に接触する寸前で停止した。

走行データを見て異常を察知したメカニックから無線が飛ぶ。


『体とマシンは大丈夫ですか。大丈夫なようなら状況の説明をお願いします。』


「タイヤカスに乗ってスピンしたみたいです。体、マシンどちらも大丈夫です。」


瀬名は内心大焦りだったが、受け答えはキッチリとこなす。


『了解です。マシンの様子を見るので一度ピットに戻ってください。』


流石にこの指示には『Copy』とは答えられなかった。

ピットまで戻る約一周の間、瀬名の脳内は『やっちまった…』という心境でいっぱいだった。




ピットに戻ると、既にピットクルーがスタンバイしていた。


マシンから降りピットガレージに入ると、モニターを見るメカニックとその後ろに立つ稔の姿が見えた。


スピンした当時のデータを見返しているようだ。


「あの~…」


後ろからおずおずと声を掛ける瀬名。


「今日はここまでにしよう。奥で休んでなさい。」


それを振り返りもせずに、無機質な声を発する稔。


怒っている…とまではいかないが、何かしら気に触れてしまったのだろう。

瀬名はシュンとして更衣室に入っていった。





レーシングスーツから私服に着替え終わった瀬名は、更衣室内にあった椅子に座り、スマホをいじる。

ふと、メッセージに通知が来ていることに気が付いた。


タップして開いてみる。


そこに書かれていた内容は…。



11:32琢磨『今日はテストだって言ってたよな。』

11:32琢磨『どうだ、上手く走れたか?』



琢磨との個人チャット。


旧友の、友を思いやるメールだった。


「…琢磨。」



15:13瀬名『なかなかうまくいかんね。』

15:14瀬名『ありがとな、連絡くれて』



そう返信し、スマホを置こうとしたその時。


通知音が鳴った。




15:14琢磨『大丈夫だ。お前は世界一速いからな。』

15:15琢磨『弱気になったらまた連絡しろ。』

15:15琢磨『オレがぶっ叩きに行ってやる。』



「…フフッ」


スマホの画面に、一粒雫が落ちた。


それに気づいた瀬名は、急いで目をこする。


泣いているところを聡に見られるわけにはいかない。

そう思った刹那、更衣室の扉が開いた。


「お疲れ様です、聡さん。」


「おう。大丈夫だったか?」


「全く問題ないっす」


瀬名は顔を俯かせ、スマホをいじっているふりをする。


「あー…言いづらいんだが…」


聡は頭を掻きながら言う。


「開幕戦は、オレがファーストドライバーになるらしい。」


StarTailは、レースに二台のマシンを同時に出走させる。

その場合、エースとなるファーストドライバーとそのサポートをするセカンドドライバーが生まれることになる。


セカンドドライバーは、ファーストドライバーを勝たせるのが仕事になるため、優勝を狙うことはできない。


瀬名は『やっぱりか』と思ったが、分かっていても落ち込むものである。


と、同時に瀬名らしいある感情も浮かんできた。


『絶対に1位にビタビタまで引っ付いた、2位を獲ってやる…!』


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― 新着の感想 ―
瀬名くんの意気込みはすごいから失敗したら落ち込んじゃう気持ちは分かるけど、気にせず、焦らず、行って欲しい! 落ち込んではいても、1位にひっついた2位になってやろうという気持ちはすごくいいと思います!!…
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