大宴会
12月31日。
世間は大晦日。
人々は仕事も納め終わり、年明けを待つ。
16:56瀬名『皆さん、どのくらいに着きます?』
16:57亜紀『今最寄り着いた!可偉斗さんも一緒にいる!』
16:57可偉斗『あと20分くらいかな。』
16:58琢磨『んじゃオレもそろそろ支度しますわ』
「父さん、もうすぐみんな来るってさ…いつまでそれやってんの」
「この周終わるまで待ってくれ。…最近のレースゲームってホントにリアルだよな…。」
コントローラーを握りしめ、画面を凝視する稔。
一方瀬名はエプロンとバンダナを身に着け、キッチンに立っていた。
17:02亜紀『お土産なんにもないのはダメだよね。』
17:02亜紀『ケンタッキーとか買っていけばいい?』
17:03可偉斗『なんでだよ…』
17:04琢磨『クリスマスじゃないんですから…』
「ケンタッキー…フフッ。」
瀬名は少し吹き出すと、スマホをタイプする。
17:04瀬名『お土産不要です!僕が料理作るので!』
17:04可偉斗『お、何作るの?』
17:05瀬名『蕎麦を、打ちます。』
17:05亜紀『打つところから!?!?!?』
17:05琢磨『打つところから草』
「お、いい反応ですねぇ~」
瀬名は現在のキッチンの様子を写真に撮り、グループに送信する。
17:05瀬名『天ぷらは琢磨に揚げてもらいます。』
17:06琢磨『マジかよ、オレ客やぞ』
17:06瀬名『お前はウチ数えきれないほど来てるやろ。』
17:06瀬名『ウチのキッチンに立てることを誇りなさい』
17:07琢磨『(´・ω・`)ベツニエエケド』
ほどなくして、伏見家のインターホンが鳴る。
「合言葉を言え~」
『そんなんええねん。開けてくれや、外寒いわ。』
家から近いのをいいことに、薄着で来てしまった琢磨。
手足を震わせながら玄関に入ってきた。
「お疲れ、でも流石にその恰好はバカ。」
「うるせえ。」
「今回はコタツ持ってきてないんか?」
「うるせえ。」
締め出されたことを根に持っているのか、『うるせえ』としか返さない琢磨。
暖房の効いた部屋の奥に入ると、極楽といった表情を見せた。
「…あ!お父さんお久しぶりです~!」
琢磨が入ってくるギリギリでゲーム機の電源を落とした稔を見つけると、嬉しそうに挨拶をする。
「琢磨くん!え、会うの何年ぶり?めっちゃ大人っぽくなったね~!」
「多分5年ぶりくらいっすね。」
話し込む二人をよそに、グループで連絡をする。
17:12瀬名『琢磨着きました!』
17:12瀬名『流石に今回はコタツ持ってなかったっす(笑)』
17:13亜紀『そのネタまだ擦ってるんかい!w』
17:14可偉斗『おれ達ももう着くぞ。』
「おし、玄関前で待っておくか。」
「オイ貴様なんだそのオレとの対応の違いは」
後ろから琢磨の罵声が飛ぶが、お構いなしにスマホをいじりながら玄関へ向かう。
扉を開けると、遠目に丁度二人の顔が見えた。
厳しい寒さが身に染みる。
空は曇天で、今にも雪が降り出しそうだった。
瀬名は手招きし、家に二人を迎え入れる。
「は~、あったか。」
「今日は外マジで寒いな。今季一の冷え込みらしい」
カイロを手にこすり合わせる亜紀と、耳当てを外しながら靴を脱ぐ可偉斗。
「遠いところお疲れ様っす。荷物持ちますよ」
後ろで琢磨が血走った眼をしているが、そっとしておこう。
「じゃあ、全員揃ったことですし始めますか。」
「「「「自動車部、最後の大宴会!!!」」」」
次の3月で可偉斗は卒業。
瀬名はプロの道へ専念。
琢磨と亜紀は瀬名のサポートに回ることになる。
実質的に自動車部は解散。
最後の年明けは、みんなで一緒に楽しもうという事になった。
瀬名と琢磨が入学してからの2年弱、色々なことがあった。
時には関係性が危うくなることもあった。
メンバーが離脱することもあった。
でも、最後には5人全員が一丸となってとても大きな勝利を勝ち取った。
本当に、誰一人欠けてはならない勝利だった。
「マジで、マジで蕎麦打ってる…ッ!!!」
初見とは思えない手つきで蕎麦を打つ瀬名を見て爆笑する琢磨。
それを撮影する先輩二人。
「あ、そうだ。こっちの方が良いか。」
瀬名はおもむろにバンダナを外し、ねじり鉢巻きを巻く。
「おま…ッ似合いすぎ…ッアハハハハ!!!」
どこがそんなに琴線に触れたのか分からないが、笑いっぱなしの琢磨。
だが、みんなでいる時こうなったら止まらないのは分からなくはないだろう。
蕎麦を打ち終わったら、瀬名は休憩。
料理音痴・琢磨の天ぷらを揚げるのを見守る会発足だ。
油が跳ねるたびにビクビクしていると、今度は瀬名が爆笑し始めた。
見ていられなくなった瀬名は、笑いながら助太刀に入る。
なんだかんだ言って美味しそうな年越しそばと天ぷらができたのだった。
「じゃあ、この度の勝利と新年を祝して!」
「「「「カンパーイ!!!」」」」
もちろん、彼のことが頭になかった訳ではない。
でも彼なら、喪中とか関係なく楽しんで欲しいと言うはずだ、と全員の意見が一致したのだ。
長い夜が、始まる。