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光速の貴公子 ~30年目のトリビュート~  作者: 紫電
第一章 光岡大学自動車部
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岡山国際サーキット

4月14日、早朝4時。新東名高速道路にて。


一台のファミリーカーが、薄暗く誰もいない道を法定速度をキッチリ守りながら爆走していた。


車内では大きな音で音楽がかけられている。


その曲目は、ほとんどがアップテンポのノリのいい曲である。

こんな曲を流しておいて、法定速度内で走っているのは逆に不思議だ。


運転席に座った瀬名は、横で居眠りをしている琢磨を一瞥するとニヤリと笑う。


周りに車がいないことを確認すると、クラクションを短く『ファン!!』と鳴らした。


瞬間、琢磨はビクンと跳ね起き膝をダッシュボードに強打する。


状況を確認した琢磨は瀬名に向かって恨めしそうに。


「おめー覚えとけよ…」


寝起きの声でそう言った。

この一連の流れの中、瀬名は笑いっぱなしである。





午前10時、岡山国際サーキット。


駐車場に車を停めた二人は、コース外の敷地を散歩していた。


「ここどこ?」


訂正しよう。迷子になっていた。


「地図によると…こっちに行けばコントロールラインなはず…」


コントロールラインとは、コースにおける周回の初めと終わりのラインのこと。

平たく言えばスタート・ゴールラインだ。


二人はそのコントロールラインの近くにある観客席、グランドスタンドを目指している。

瀬名と琢磨は、二人とも致命的な方向音痴である。


おまけに地図の読み方を知らない。


「違うだろ。ここは最終コーナー付近のはずだからこのまままっすぐ行けばいいはず」


ここはコースの中間付近。最終コーナーとは真逆の位置である。

そんな絶望的な二人の会話を聞いていたのか、一人の若者が瀬名に話しかける。


「あの…ここバックストレートだよ?コントロールラインは逆側。」


ミディアムヘアを2:8分けにしたその青年は、困惑しながらも笑顔で話す。


「え、マジすか」


「マジだよ。…てかどう見てもストレートなのになんでコーナー付近だと思ったの?」


至極当然の疑問を投げかける青年。


「僕もグランドスタンドの方に行くから、付いて来なよ」


二人は自分たちの地図を読む能力の無さを認識したため、すぐに青年に付いていくことにした。

三人は広いサーキットの敷地内を歩く。


「二人はどこから来たの?」


「東京です」


「お!マジで?僕も東京に住んでるんだよね~。」


この青年は昨日の予選から見に来ているようだった。

恐らく車で来て、車中泊をしたのであろう。


声も柔らかく、感じのいい好青年である。


そうして、三人は雑談をしながらグランドスタンド周辺へとたどり着いた。


話しながらであれば長い道のりも一瞬に感じるものだ。


「じゃあ、僕はこっちの席で見るから。楽しんでね!」


「はい!ありがとうございました!!」


瀬名と琢磨は深々と頭を下げ、歩いていく青年を見送った。 


「なんかあの人どっかで見たことある気がしたんだよなぁ…」


「気のせいだろ。それよりも俺は腹が減ってしゃーない。」


瀬名は日付が変わってすぐに車を走らせて、一度も休憩せずに東京から岡山まで走り切った。

途轍もない体力である。


長時間休憩なしで走ることは事故の元になるので出来るだけ避けてほしいものだ。


サービスエリアに寄ることもしなかったため、瀬名は昨日の夜から何も食べていない。


「お!これいいじゃん!霜降り牛串!!」


イベントやレース時にはグランドスタンド裏にたくさんの屋台が出るのだ。


「またお前はそんな消化の悪そうなものを…腹イタになっても知らんぞ」


琢磨の言う通り、空腹時にいきなり胃に脂身の肉をぶち込むのはオススメしない。


「うめえわこれ」


「速すぎんだろ。見えなかったぞ」


光の速さで会計を済ませて牛串を頬張る瀬名に、琢磨は若干呆れ気味である。

その瞬間、コースの方から甲高いエンジン音が聞こえてきた。


SUPER GTには、前座レースというものが存在する。


F4である。


『フォーミュラカーレースの入門編』、『若手の登竜門』などと呼ばれるF4選手権。


最近ではF4をテーマにしたアニメ作品が作られるなど、今ホットなレースカテゴリーだ。


使用されるマシンは入門編だけあってフォーミュラカーの中では馬力は抑えめで、約180馬力。

日常でよく見るファミリーカーとほとんど同じパワーである。


しかし、ファミリーカーとは比べ物にならないほどの軽さがF4にはある。


500キロ代の車重は、ファミリーカーの半分以下だ。


その軽さによってF4マシンの最高速度は230キロを超える。


瀬名と琢磨はグランドスタンドへ続く通路を抜け、コースが見える場所へ出る。


「どれどれ…父さんのチームは…6位か。まあまあだな」


瀬名はスタンドから見えるオーロラビジョンに映る順位表を見てそう言った。


瀬名の父、稔のチームは個人チーム。


通常上位は企業のチームが占めることが多いため、健闘していると言って差し支えないだろう。


しばらく見ているうちに、レースの終わりを意味するチェッカーフラッグがコントロールライン脇にあるオブザベーションポストという小屋から振られる。


「もう終わりか。早いな。」


「F4のレース距離は60キロ。このコースで言ったら17周だからな。」


F4はスプリントレースと呼ばれる、タイヤ交換や燃料補給をしないレース形態が主となっている。


戦略がなく、マシンの強さとドライバーの技量で全てが決まるのだ。


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― 新着の感想 ―
レースイベントがすごく楽しそう!! 屋台とかも出ていて、迷っていても親切な人が声をかけてくれたり、本当に楽しいイベントって感じ!(*'ω'*)ワクワクします! こういうイベントのような感じだと、私のよ…
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