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光速の貴公子 ~30年目のトリビュート~  作者: 紫電
第二章 スーパー耐久
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手紙

表彰式が終わり、撤収作業に取り掛かっているころ。


瀬名は何気なく、自分のスマホを手に取った。


軽耐久レースの時に撮った写真のロック画面。


その手前に、見慣れないアドレスからのメール通知が来ていた。

タップして開いてみる。


それは、京一が入院していた病院からのものだった。


『伏見瀬名さま お伝えしたいことがございます。できるだけ早く、弊院までお越しください。』


嫌な予感がした。


チームメイトにメールの内容を伝えると、『作業はやっておくから先に行け』と返ってきた。


自分たちも早く駆け付けたいだろうに、申し訳ないと思いながら瀬名は走った。


病院に着き、受付を通ることもなく京一の病室まで走った。





だが、そこで告げられた結果は残酷なものだった。





「片山京一さんは、今日のお昼頃に息を引き取られました。」


今になってここ数か月の間、見舞いに行けなかった…行かなかったことが猛烈に悔やまれる。


彼と過ごす時間は限りのあるものだって分かっていたのに。


なんで。


どうしてなんだ。


ベッドに横たわる彼の表情はとても穏やかだった。


窓の外は日が落ちた直後で、ピンクがかった紫に染まっている。


『僕もやれることはやるよ。』


夢で聞いたその声が、ふと頭に浮かんだ。


ハッとし、顔を上げる。

横にいた看護師に、問いかける。


「京一さんが亡くなったのは、正確には何時何分ですか…?」


「確か…1()2()()3()2()()でした。」


そんな、まさか。


ありえない。


そんな、そんなことって。


「京一さん…!あなたって人は…!!!」


あの雨は。

あの俺たちを勝たせてくれた雨は。


京一さん、あなたが…。


瀬名は大粒の涙をボロボロ流し、亡骸にすがりつく。


「伏見さん。」


その声に振り返ると、看護師が1枚の紙と紅いお守りを差し出してきた。


「片山さんは最期に、これを貴方に渡してほしいとおっしゃいました。」


お守りはかつて、瀬名が京一に渡したもの。


紙は瀬名に宛てた手紙のようだった。


四つ折りにされたその手紙を開く。

中には震えた手で書いたであろう、弱弱しい文字が連なっていた。


『瀬名へ。ペンを握るのもやっとで、読みづらかったらごめん。最終戦、勝てたかな?きっと勝てたよね。(勝ててなかったら本当にごめん)』


「はい…勝てた。勝てましたよ…!」


『この間、キミたちがお見舞いに来てくれた直後に、長谷部さんと桑島さんって人が来て、なんか感謝されたんだよね。『瀬名くんを育てたのはキミだー』ってさ。でもここまでこれたのは瀬名の実力だよ。間違いなく。うんうん。』


いつもの彼のような軽い口調で綴られている手紙。


『では。ここから新たなステージに向かう瀬名に、1つありがたい言葉を授けよう。』


その次に書かれた文字は、他の文字よりも一回り大きく。

『【絶対に、進み続けろ。】…なにがあっても、くじけずに走り続けなさいな。人生のチェッカーフラッグが振られるまでね。(ちょっと良いコト言うやん僕)ま、僕はDNF(リタイア)になっちゃいそうなんだけどさ。』


「進み…続ける…。」


『あとこれ。キミがくれたお守りね。とうびょう中(漢字わかんね)もめちゃくちゃ励まされたし、お世話になったよ。そこでお願いなんだけどさ。』


そこに続いて書かれていたのは。


『このお守り、瀬名に持っていてほしくてさ。レースしてる時もマシンのどこかに置いておいてくれない?このお守り、僕が沢山握りしめて念がこもってるから何か助けになるかもしれないんだ。』


「そういう事なら、もちろん…」


『(もちろん、枕元に出たり呪ったりはしないから安心して。)』


「フフッ。」


少しだけ、瀬名の顔に笑みが浮かんだ。


『さて、最後になるけど。僕は感謝してる。感謝って言葉じゃ伝えきれないくらいね。楽しかったんだ。みんなと過ごした時間は短かったけど、他の時間よりも何よりも楽しかった。』


「俺もです。京一さん。」


『P.S. みんなにもありがとうって伝えてね。『自分の分の手紙は?』って訊かれたら『チョットナニイッテルカワカンナイ』で押し通せ!!!』


その一文の横に、小さくフィットのイラストと、ひと際強い筆圧で。


『ファイト!!!夢は叶うよ!!!』


その一文が添えられていた。








日の落ちたグランドスタンドに今の今まで座っていた、1人の男が立ち上がる。


ゆっくりと階段を上りながら、ポケットからスマホを取り出す。


そしてスマホを耳に当て、何者かに電話をする。


「私だ。伏見だ。来年度のドライバーが決まった。」


伏見稔は、通話相手のチーム関係者ににこう告げた。


「来年度ウチのチームで走るのは伏見瀬名。そして…」


グランドスタンドを出る前に、コースを一瞥して。





「…中島聡でいく。」




第二章・完

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― 新着の感想 ―
京一さんのところにあまりお見舞いにいけなかったと瀬名くんは後悔してる感じがあったけど、だから最後に夢で会いに来てくれたんじゃないでしょうか……。 京一さんのお手紙も、きっと自分だって走りたい気持ちや…
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