煌めき
午後2時。
徐々に雨が弱まっていく。
しかし、残り1時間でドライタイヤが使用できるまでに乾くとは思えない。
瀬名の勢いは止まらず、後方を引き離し続ける。
既に傾き始めた太陽を遮る雲は、もうほとんどない。
濡れた路面が、キラキラと陽光を反射する。
その煌めきをかき消すように、各マシンがコーナーを駆け抜けていく。
シャーッという水切り音が辺りにこだまし、レコードラインが徐々に乾いてゆく。
マシンが一番多く通るラインであるため、タイヤによって水捌けがなされるのだ。
瀬名のペースアップが止まらない。
彼は路面状況に応じて限界領域ギリギリまで寄せることが得意だ。
その道理なら、雨上がりが一番輝けるシチュエーションとなる。
もはや、勝負は決した。
午後3時、戦いの終わりを意味するチェッカーフラッグが振られる。
この時点で走っていた周回が、各車のファイナルラップとなる。
最終的に光岡大は632周を走り切り、トップチェッカーを受けることとなった。
チームメイトの待つピットへとマシンが帰ってくる。
『OK、瀬名。P1、P1。お疲れー。』
「おいおい、こんな時までカッコつけんなって。もっと喜べよ」
「いや、いま喜びを爆発させたら別のスイッチ入っちゃって泣きそう」
『なんだそりゃ』
珍しく感極まっている琢磨が少しツボに入ったのか、瀬名は笑う。
「それにしても、みんなよく戦ってくれたよ。お疲れ様でーす!!!」
光岡大のピットガレージから歓声が上がる。
「お前がなー!!!」
「Foooo!!!」
「ありがとー!!!!」
最終スティントからは全員が無線を繋ぎ、瀬名の一挙手一投足を見守っていた。
マシンから出てきた瀬名は、チームメイトから手荒い祝福を受ける。
「おい!!!水は良くない!めっぽう良くない!!!風邪引いちゃう!!!」
11月9日である。
15時にはもう太陽は傾いており、少し肌寒い。
そんな中、琢磨はバケツ満杯の水を頭からぶっかけた。
もちろん、大笑いしながら。
その目に浮かんだ涙は、笑いすぎてのものか。
それとも別の意味を持つのか。
1つ確かなのは、そんなことはどうでもいいという事である。
彼らは勝ったのだ。
幾度の逆風も、神からの寵愛も同時に受けて。




