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光速の貴公子 ~30年目のトリビュート~  作者: 紫電
第二章 スーパー耐久
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若さ

「クソッ!!!油断した!!!」


『落ち着け、瀬名。今一番やっちゃいけないのは、無理に抜き返そうとして取り返しのつかない事故を起こすことだぞ。』


激しく動揺する瀬名に、冷静に言葉を掛ける。


「むしろプレッシャーから解放されるいい機会だ。離されないようにだけ気を付けて、ゆーっくりついていけ。」


「…Copy。」


その言葉を聞いて、瀬名も次第に冷静さを取り戻していく。


「ピットには3位で帰ってきてくれればそれでいいぞ。オーバーテイク(追い抜くの)は相手がミスった時だけにしろ。」


今はまだ、勝負に出る時ではない。


経過時間などを加味して冷静に考えれば分かることだが、走っている本人としてはどうしても熱くなってしまうものだ。

そんな時に必要なのがピットからの声かけというわけである。


それが行われているのは桑島たち、他のチームも同様なようで。


「前2台、全然争おうとしないわ。たしかについていくのが正解かも。」


「そうであろうそうであろう。」


琢磨は瀬名のその言葉を聞いて、満足げに『うんうん』と頷いた。


『体力も温存しておけよ。後半になったらまたお前の番がくるんだ、くれぐれも攻めすぎないように。』


その言葉通り、瀬名はトップで走っていた時よりもペースを落として走っていた。


しかしその調子でも前は離れていかない。

先頭2台もペースが上がらないようだ。







瀬名がガンガン逃げていた時に築き上げた、4位以下とのギャップが次第に詰まっていく。


一時は20秒もの差があったが、17時時点でのギャップは8秒にまで縮んでいた。


三つ巴の争いという構図が崩れ始めたのを察知した琢磨は、瀬名にピットインの指示を出す。

経過時間も丁度2時間。


良い頃合いである。


17時09分、光岡大3位でのピットイン。


所定の位置に停車し、ドライバー交代、タイヤ交換、燃料補給を速やかに行う。


「よく走った、瀬名。次は俺が頑張る番だ。指導者としての意地、見せてやる…!」


「頼んます。はぁ~疲れた」


いつになく気合の入っている星野にバトンタッチする。

作業をすべて終えたマシンは走り去っていった。


冬至が近い11月の空は、もうすでに日が落ちている。


各車のヘッドライトにも灯りが灯り始めた。


夜戦の始まりである。






「俺のタイムどんな感じでした?」


「2分05秒後半から2分06秒前半で安定してたよ。後半は少しタイム落ち気味だったけど、タイヤの摩耗が原因だと思うから大丈夫。」


無線担当中の琢磨に代わって亜紀が情報を伝える。


「OKっす。…うわぁぁ…勝てっかなぁ…。」


抜かれた時の映像を頭の中で再生してしまう瀬名。


あまりそのことを後に引くのも良くないだろう。

分かってはいるのだが、後悔は募るばかりだ。


椅子に座って頭を抱える瀬名に、亜紀はしゃがみ込んで言う。


「瀬名くん、ちょっと手どけて。」


「なんすか…ッ!?」


「次の出番は21時からだよ。それまで奥で休憩してきなっ。」


瀬名の右頬に軽くキスをして、休憩に入るように促した。





「あ、今瀬名が奥の方入っていったっす。」


『若いねぇ…。』


「ですねぇ…。」


『お前同い年だろ』


一連の流れを琢磨が盗み見、星野に実況していた。

ちゃんと無線の仕事をしていただきたい。


「で、俺はどんな走りをすればいい?」


『ファビュラスでグレートな走りを…』


「具体的に!頼むわ!!!」


半笑いだが声のボリュームを大にして言う。


「トップスリーを維持してくれれば自由に走っていただいて良いです。ぶっちゃけ残り時間が2時間になるまで3位以内なら瀬名がなんとかしてくれると思いますし…」


『流石の信頼関係だな。でも俺もそう思う』


そう言って星野は頷く。

ヘルメットの下は笑顔であろう。


「でしょう。…ん?」


琢磨の目に、イエローフラッグを振る旗手の姿が映った。


「どこかで事故か何かがあったみたいです!注意を…」


『うわァ!!!!!』


聞き慣れない、星野の悲鳴。

目の前で振られる黄旗と、何か関係があることは自明の理だった。


「どうしましたか!?」


『目の前に…急に横向いたマシンが出てきやがった…』


「当たりましたか!?体は大丈夫ですか!?」


『当たってない。体も無事だが…避けるために砂に頭から突っ込んじまった。復帰に時間がかかるぞこりゃ…』


サーキットの舗装されたコースの外側には、コースアウト時に壁に直接当たるのを防ぐために『ランオフエリア』という領域が設定されている。


ランオフエリアではコースアウトしたマシンのスピードを少しでも落とすため、舗装路ではなく芝生やグラベル()になっていることが多い。


特に砂のエリアに入ってしまうと、駆動部に砂が入ったりタイヤが空転することで抜け出すことが非常に困難となる。


また、抜け出した後もタイヤが砂で汚れることによりペースが上がらない。


事実、光岡大のマシンはこの事故で時間にして40秒近くをロストした。


順位は8位まで転落。


残り時間は十分にあるが、この失速は手痛い。


その後の星野や可偉斗、2度目の瀬名の奮闘で5位までは持ち直したものの、そこからがなかなか上がらない。


時刻は午後11時を回る。

2度目の仕事を終えた瀬名がピットに帰ってきた…。


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― 新着の感想 ―
事故は仕方のないものとはいえ、これはかなり辛いですね(;´・ω・) 星野先生に怪我がなくて良かったと言いたいところだけど、ここからまた上を目指すのはかなり大変そう……。
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