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光速の貴公子 ~30年目のトリビュート~  作者: 紫電
第二章 スーパー耐久
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夏合宿

「そういえばお前たち、定期試験のこと忘れてないだろうな」


7月。


梅雨も明け、夏のじりじりとした日差しが照りつける。


当然のことながら、瀬名たちはまだ大学生。

その事を思い出させる星野の一言に、可偉斗以外の全員が明後日の方向を見始める。


「俺附属高校だったから最後に勉強したの高校受験の時なんだけどだいじょぶそ?」


「だいじょばなそ。」


瀬名に。


「オレはクルマの勉強は死ぬほどやりましたけど」


「だいじょばなそ。2(ツー)。」


琢磨に。


「私は天才なので大丈夫です!」


「先生としてはキミが一番心配です。だいじょばないよ。」


亜紀にそれぞれツッコミを入れていく星野。

特大のため息をつき、可偉斗に目配せをする。


その意図を汲んだ可偉斗は、一際大きな声で。


「自動車部夏合宿(勉強もあるよ)~~~!!!」


「帰りマース」


「同じくデース」


「なんで2人ともカタコトなん」


帰ろうとする3人を星野と可偉斗が首根っこ捕まえてガレージの内側へと戻す。


「なんでや!俺はもうレーサーになるんだから勉強しなくてええやろ!!!」


「エセ関西弁やめなさい。怒る人は怒るから。」


ツッコミどころはそこではない気がするが。


「勉強できたほうがカッコいいよ?ほら亜紀も言ってやってよ」


「瀬名くんはいつでもカッコいいよ!」


「惚気るところじゃねえよ」


ウィンクしながら親指を立てる亜紀の頭に可偉斗がトンッとチョップを置く。

そろそろ収拾がつかなくなってきた。





「で、結局定期試験が終わったらみんなで遊びに行こうねっていうことで収まりました」


『はははっ!みんならしいねえ!』


「京一さん、体調の方はどうですか?」


『体調はすこぶる元気だよ。ただ動かなさ過ぎて体力がどんどん落ちてんだよね』


電話越しにそれを聞いた瀬名の表情がすこし曇る。


去年京一が余命宣告を受けてから9か月。


タイムリミットはすぐそこまで近づいている。


前回お見舞いに行った時、医者は長く見積もって10月、11月までだと言っていた。


「京一さん、近々またフルーツ盛り持っていきますんで。」


『やったー!僕ぶどうがいい!』


「了解です。」


フッと笑い電話を切る。


「さあ、俺たちも頑張らなきゃな」






夏合宿初日。

今日のメニューは総合的な筋トレ。


あと勉強も。


「なあ、勉強と筋トレってどっちが好きよ?」


「どっちも嫌いだわ。強いて言えば筋トレの方がまだ爽快感があって良い」


1年生の2人はグチグチと文句を言いながら大学内にあるトレーニングルームへと向かう。


「しかもその爽快感も束の間、後には勉強が控えてんだぜ?まぢ無理」


「急にギャルになるな」


その会話に水を差すように。


「後に控えてるって、先に勉強やりたくないって言ったのお前たちだろ?やるんだよ!Just do it!!!」


「今日可偉斗さんキャラおかしくない?」


「暑さでイカれたんじゃないですか?お水飲んでくださいね」


もちろん暑さもあるだろう。

しかし理由はもっと単純だ。


小林可偉斗、この男は筋トレが好きなのである。


でなければこんなにデカくはならないだろう。


モータースポーツにおいて必要以上に体重を増やすことはデメリットでしかない。


理にかなった趣味とは言えないが、そこを突いてしまうほど瀬名たちは血も涙もない存在ではない。

それに、トレーニングをやるにあたってその知識を持った人がいるということはとてもありがたい。


トレーナー代わりだ。





トレーニングルームに入る。

綺麗に陳列されたダンベル、そこかしこにあるマシンたち。


嫌々来た瀬名たちだったが、それを見ると少しテンションが上がった様子だ。


さて、モータースポーツをやるにあたって必要な筋肉と言えばどこになるか。


まずは腕。


レースカーのハンドルは『ウソでしょ』と思うほど重い。

シミュレーターを使うことである程度は鍛えられるが、効果的に鍛えるのならダンベルなどでトレーニングをした方が良いだろう。


F1ドライバーなど一部のプロは、ハンドルの形をした専用のトレーニングマシンを使うこともある。


次は足。


レースカーのペダル、特にブレーキペダルは『ウソでしょ』と思うほど硬い。


繰り返しての表現になるが本当に硬い。


ここではレッグプレスと呼ばれるトレーニングをマシンを使って行う。


足から繰り出される最大出力を高めるには、10回やるのが限界の重さで10回3セットやると良いようだ。

最後は体幹…特に首だ。


F1マシンはコーナリング時に5G もの負担が体にかかる。


体重の5倍の力で横に引っ張られるのだ。


身体は六点式シートベルトでガチガチに固定されるものの、首は固定されない。


したがって、強靭な首が必要になるのは自明の理だろう。


もちろん、今瀬名たちが乗っているマシンにはそんな横Gはかからない。


だが、将来を見据えた時にいつか『あの時筋トレしていて良かった』と思える日がくる。

そう信じてキツいトレーニングを行っているのだ。


ちなみに、どんなトレーニングで首を鍛えるのかというと。


「いででででで!もげる!!!頭もげる!!!!!」


ゴム製の帯、とでも言えばいいだろうか。


輪っかになっているその帯を頭に引っ掛け、一定の方向に引っ張る。


それをされても動かないように、首で踏ん張るのだ。


それを各方向5秒を10セット。

瀬名たちはいきなりやっているが、首は大切な神経がいくつも通っている場所である。


準備運動やストレッチは忘れないようにしていただきたい。


「もうダメだ!」


限界に達した瀬名が伸びきったゴムの輪を外そうと手をかける。


「オイちょっと待ていま放したら」


『バチーン』と鈍い音が響いた。


ゴムパッチンである。


その後しばらく、瀬名は激おこの琢磨から逃げ回っていた。


ジムで走るのは大変危険なのでやめましょう。


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― 新着の感想 ―
勉強と筋トレの合宿!瀬名くん、がんばれー! 筋トレも必要な部分をしっかり鍛えて、中でも首が大事というのもよく分かりました! 瀬名くんは先々のことも考えて、しっかり鍛えておきたいところ٩(* ゜Д゜)و
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