黄旗
午後2時。
気温が最も高いこの時間帯に、決勝レースはスタートする。
気温は25℃まで上がり、日向にいると汗ばむくらいになっている。
各チームはホームストレートに隊列を組み、スタートを待つ。
マシンのエンジンには既に火が灯っており、低い唸り声が辺りに響いている。
瀬名たちが参戦しているST-5クラスは一番下のクラスのため、スターティンググリッドも後ろになっている。
ポールポジションのカイザーレーシングの前には、さらに戦闘力が高い上のクラスのマシンがズラリと並んでいるのだ。
しばらくして、隊列の前に鎮座していたセーフティーカーがゆっくりと動き出した。
フォーメーションラップの間、瀬名は無線で他車のデータを琢磨から伝達されていた。
『3番手から5番手のチームはダウンフォースを低めに設定してる。多分これは予選から変えてないと思うよ』
「ストレート重視のセッティングってことか。そのセッティングの単独走行で俺とほぼ同レベルなんだったらストレートでスリップ貰えば追いつけるよな」
『その通り。ストレートは後ろについて、ブレーキングかコーナリングでブチ抜け。』
「Copy。」
セーフティーカーがピットに入り、シグナルが点灯していく。
1つ、また1つ。
赤いランプが全て点灯、オールレッドから…
ブラックアウト。
全てのランプの光が消え、各車が一斉にスタートする。
4時間の長丁場が今、始まった。
1周目、バックストレートで瀬名は前走者のスリップストリームに入る。
そのままイン側にマシンを振り、ブレーキング勝負。
2台を一度に抜き去り、いきなり4番手に浮上。
そのまま5周ほどコンスタントにタイムを出し、前を行く3番手にプレッシャーをかける。
そのプレッシャーに負けたのか、最終コーナーで3番手は外側の砂にタイヤを取られ、スピンアウト。
労せずして3番手に浮上する。
『OK。最高の仕事だ、瀬名。』
「それは良いんだけどよ。前に誰もいねえぞ?俺いつの間にかトップになっちまったのか?」
トップ2はこの6周の間に8秒のギャップを作り出していた。
『上2台は争ってないんだ。ピッタリくっついてずっとランデブー走行してる』
「作戦と違えじゃねえか!いくら俺でもチャンピオン相手にこの差を縮めるのは無理だぞ…!」
『何か事故が起きて、イエローが出れば追いつけるんだが…』
事故でマシンのパーツがコース上に散乱するなど、レースを続行することが危険と判断された場合、イエローフラッグという旗が振られる。
この旗が振られている間は徐行し、追い越しをしてはならないというルールがある。
必然的にどれだけ前が空いていようと差を詰めることができるのだ。
瀬名がトップ2にじりじりと離されだしたその時、なにやらピットがざわつきだした。
「なにが起きたんですか?」
コースの状況を確認していた可偉斗に、琢磨が問う。
「バックストレートで接触だ。FCYになる。」
多くのサーキットには、ホームストレートとは別にバックストレートと呼ばれる長い直線がある。
今回事故が起きたのはそのバックストレート。
スピードが乗るため、大きな事故になりやすい。
願ってもない展開…願ってはいたが。
離れていた差が詰まる。
6周目、オレはFCYが出たことによりアクセルから足を離した。
尚貴との一騎打ちにも疲れてきたころだし、いい休憩になる。
接触があったバックストレート。
散乱するパーツを避け、直線の後半へ差し掛かったころ。
バックミラーにちらりと車影が映った。
イエローが出ているとは思えない速度で迫ってくる、青と白の影。
スピード違反で警告食らうんじゃないか?
でも、その感じ嫌いじゃないよ。
若さを感じる。実にフレッシュだ。
たった6周でここまで上がってきたんだ、実力は本物だろう。
オレは横に並んできた尚貴に目配せをする。
『面白くなるぞ』
そうテレパシーを送り、前を向く。
さあやろうか、新人さんよ…!
2位を走る長谷部尚貴と、3位の瀬名とのギャップは全く無くなった。
ここからは三つ巴のトップ争いが行われることになる。
しかし、差が詰まったことによる弊害も。
『おい瀬名、燃料の減りが速すぎるぞ。もっとセーブしてくれ』
「んなこと言ったってよぉ!ペースは速いわぶつかりそうになるわでペダルベタ踏みせざるを得ないんだよ!」
集団で走るには、相手に合わせる技量も必要になる。
急アクセルはもちろん、急ブレーキも燃費低下の一因となる。
「このままだとピット回数を一回多くしなけりゃならなくなる。そうなったら勝負権はないぞ」
「分かってる…分かってるんだけど…」
少し。ほんの少しずつではあるのだが、またじりじりと離され始めている。
何か、何か打開策は無いものか…。
現時点ではなすすべは無い、と思われた。
しかし…。
「…!琢磨!!!」
「なんだ?」
「雨だ!今ボンネットに一滴、雨粒が落ちたんだ!」
琢磨は急いで雨雲レーダーを確認する。
そこにはわずかにではあるが、確かに雨雲の端がコースにかかっていた。
「ホントだ。お前こういうのマジで敏感だよな。」
「これから強くなってくるか?」
「んー、まぁまぁってとこかな。レーダーは緑色だし」
正午までは快晴であったここ、スポーツランドSUGOであるが。
魔物はドラマを好む。
敵となるか、味方となるか。
それはまだわからない。




