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光速の貴公子 ~30年目のトリビュート~  作者: 紫電
第二章 スーパー耐久
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緊張

「いよいよだね、瀬名。ここからキミの伝説が始まるんだ。」


開幕戦の前日。

都内某所の病院の一室にて。


「緊張してる?」


「そりゃあもちろん」


窓の外を見ながら答える瀬名に、京一は続ける。


「緊張ってのはね、デバフだと思ってるでしょ」


「?」


「でも実はそうじゃない。」


思いがけない言葉に瀬名はベッドの方を向き直る。


「ここだけの話、僕はメチャクチャ緊張するタイプなんだ。大きい大会の前の日なんていつも吐いてた。」


「意外ですね。京一さんはいつもクールなイメージだったから。」


京一はフフッと笑い。


「緊張はある一点を超えると、いわゆる『ゾーン』へと直結する。まぁコレ僕の持論なんだけどね」


通常、ゾーンに入るには『適度な』緊張状態が必要だと言われている。


「緊張しすぎて吐くところまで行くと、身体が危険を感じて思考を整理しだすんだ。妙に冷静になるというか、物事を俯瞰で考えられるようになる。」


緊張の限界を超える。


それは京一が自らの体質に寄り添い考えた結果たどり着いた、至高の領域。


「ま、ということで一回吐いてみることをオススメするよ」


「イヤですよ」


そう言って二人は笑う。


「さて、もう日が暮れるよ。キミたちは明日早いんだ。」


「そうですね。明日の準備もあるし、そろそろお(いとま)します」


瀬名は荷物をまとめ、病室を後にする。


京一は部屋の扉が閉まったのを確認すると、『フゥ…』とため息をつく。

枕元に置いていた紅いお守りをギュッと握り、こらえていた言葉を形にする。


「…チクショウ…!」









『あー、あー。瀬名、聞こえてるか?』


「おう。バッチリだ」


無線の担当は琢磨。


瀬名のサポート役として彼以上の人材はいないだろう。


「ちゃんと星野先生にも言っといてくれよ?『後であなたも走るんですからちゃんと見て俺の走りを参考にしてくださいね』ってな」


『聞こえてんだよクソガキ』


半笑いで言う瀬名に、琢磨の隣で同じく無線を繋いでいた星野が答える。


「入学したての頃にあんな負け方したくせに、よく言うよな」


「いつの話してんスか先生、今の俺に勝てるんですか?」


口だけではなく走りもいっちょ前になってしまった悪童に、星野は黙り込むしかなかった。


「言っとけ言っとけ。俺が出なかったらS耐に参加するのも難しかったんだから、そこはちゃんと覚えておけよ」


S耐に参戦するドライバーは、1チーム最低2人登録する必要があり、ほとんどのチームは3人以上を登録する。


光岡大は当初の予定では瀬名、可偉斗、そして京一をドライバーとして起用する予定だった。

しかし京一が参戦不能となってしまった今、頼れるのはこの人しかいない。


「分かりましたよ。じゃあ先生がミスっても大丈夫なように俺がヤベヤベなタイム出しちゃいますね。」


「なんも分かっとらんコイツ」


予選は各チーム二名のドライバーを選出し、その二名のタイムの合計でスタートポジションを決める。


今回は瀬名と星野が走ることになっているのだ。









「今シーズンから参戦のチーム、大学の自動車部なんだってよ」


「学生のお遊びで来る場所ではないのですがね」


コースのすぐ近く、ピットレーンから二人の男の話し声が聞こえる。


「…お前たまに意地悪なこと言うよな」


一方は体格が大きく、金髪を逆立たせており緑のレーシングスーツを着ている。


「私は若い芽を摘みたくないだけですよ」


もう一方は細身で、眼鏡をかけたレモンイエローのレーシングスーツだ。


「…まぁ、でも単なる学生って訳じゃなさそうだ。尚貴、データ取れるか?」


「対価は?」


「おいおいそんな硬いこと言うなって。オレらの仲じゃんか」


「一応私たちは毎年年間チャンピオンを争っているライバルなんですから、そんな敵に塩を送るような真似はしませんよ」


金髪の男は観念したように肩をすくめると。


「分かったよ。データはいらん、自分の力でやる。またな、尚貴」


「ご武運を。正治。」


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― 新着の感想 ―
京一さんは先輩として瀬名くんに色々とアドバイスをしてくれるありがたい存在だけど、でも……京一さんだってレースにでて思いっきり走りたいですよね(。>_<。) 自分の意思や情熱とは関係ない部分で病気という…
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