新人戦
2月15日。
富士スピードウェイの駐車場。
光岡大の面々にとっては複雑な想いが募る大会。
関東学生ジムカーナ新人戦大会が始まる。
会場のテントに集まった一行は4人でミーティングを行う。
「エントリーは済ませてあるが、来ないと思っていた方が良いだろう。」
可偉斗のその言葉に、一同は俯く。
「じゃ、今日はおれ裏方に回るから、1、2年のみんなは頑張って。」
そう言うと可偉斗は立ち上がり、駐車場脇の土手を登っていった。
土手の上は富士スピードウェイの敷地内を移動するための道路が走っている。
可偉斗は小高い丘のようで見晴らしのいいその道路にしゃがみ込み、頭を掻きむしる。
意識せずとも頭の片隅…否、ど真ん中から出て行かない友の顔が浮かぶ。
空は快晴、仲間たちの心境とは程遠い、澄んだ空である。
空から目線を戻したその時、可偉斗の視線のその先に黒い影が映った。
一台のタクシーが、富士スピードウェイの東ゲートをくぐってこちらへ走ってくる。
後部座席に座る顔に、可偉斗は見覚えがあった。
トレードマークの笑顔を見せながら、運転手にお礼を言い降りてくる。
「お待たせしました。まだ僕の番は来てませんよね?」
「京一…!」
可偉斗が声を震わせながら抱きつくと、光岡の大エースは一瞬驚いた表情を浮かべた後、すぐさま微笑んで。
「瀬名の調子は?」
可偉斗の背中をさするその腕は細く、白くなっていたが。
ブランクなど、体力の低下など無いかのように力強く。
勝つ気満々の声でそう言った。
京一の準備が急がれる。
久しぶりにレーシングスーツに袖を通した彼は、今やサポートはお手の物となった琢磨に身の回りのお世話をしてもらっていた。
「なんか嬉しそうですね?」
「人のこと言えないよ、琢磨。」
お互いに笑顔で話す。
そして隣同士に座った二人の目線の先にいるのは…。
2位に3秒以上の大差をつけて暫定トップに躍り出た、光岡の新たなエース。
ヘルメットを小脇に抱え、亜紀から走りのリザルトを聞くその姿には、風格すら感じられた。
瀬名の首筋に流れる汗は、恐らく自身が1年前に流したものと同じものであろう。
「…。さて、行きますか!」
「ハイ、行ってらっしゃい!最近アイツ調子乗ってるんで鼻を明かしてやってください!」
「オイ聞こえてんだよ琢磨ァ!!!」
後ろから聞こえる喧噪に、思わず吹き出しながらヘルメットを被る。
いつの間にかこのヘルメットも、重く感じるようになってしまったな。
そう思うと少し寂しくもあった。
結果から言えば、瀬名の圧勝である。
京一は入賞圏内に足を踏み入れることすら許されなかった。
それでも、京一の目には5月のジムカーナ選手権の時のような涙は無かった。
むしろどこか吹っ切れたような、清々しい表情をしていた。
伏見瀬名の、スーパー耐久への参戦が確定した。
第一章・完




