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光速の貴公子 ~30年目のトリビュート~  作者: 紫電
第一章 光岡大学自動車部
31/157

エール

「京一さん、後ろとの差は?」


「20秒。しかも最後のピットインを終わらせて、大エースの御登場だよ」


レースの50%以上の周回を同一ドライバーが運転することはできないのだが、大都大学は規定ギリギリまで中島聡に運転させている。


「二時間ちょっと、関東No.2のドライバーと同ペースで走らなきゃいけないんスか。そりゃしんどいねぇ」


『何言ってんの。キミ、ゆくゆくは僕に勝つ気なんでしょ?このくらいできなくてどうすんのさ』


京一の返答に、瀬名は苦笑を浮かべる。


「ほんなら頑張りますよ。京一さんに負けないためにも、逆に引き離してやらぁ!!」





大見得を切った瀬名だったが、現実はそうそう上手くはいかない。


圧倒的な経験値の差が、そのままラップタイムの差として現れた。


20秒のギャップは、ジリジリと詰まっていく。


レース終了まで残り1時間30分。


中島の視界に、青と白のマシンが映る。


「追い詰めたぞ…乗ってるのは一年坊主か。まぁ、よく持った方だな。」


コーナーの進入、中間、そして脱出。


全てにおいて中島の方が一枚上手。

目には見えないが、少しずつ差が詰まる。


「クソ…もうこんなところまで…!」


瀬名は焦っていた。


京一が作り、可偉斗が守ってきた一位の座と二位とのギャップが、自分の走りによって脆くも崩れ去ろうとしている。


このままでは推薦してくれた京一さんにも顔向けができない。


そう思えば思うほど、体の動きは固くなっていく。


「2分37秒2…ペース上げるように言うか?」


「いいえ先生、それは逆効果です。待ちましょう。必ず瀬名は爆発するときが来る。」


ピットでは無線を一時的にミュートしてそんな会話もなされていた。


「今になってもう一度ピットインしてドライバーを変えるとなると、一位は絶望的だ。瀬名に頑張ってもらうほかない。」


「頑張って…瀬名くん…!」


亜紀と体調が回復した可偉斗も集まって、瀬名の走りを見守る。


「…。」


そんな中一人黙って腕を組み、苛立った様子でレースを見る琢磨。

長年一番近くで瀬名と接してきた親友は。


彼のレースを見て何を思っているのか。


「…!マズい!!!」


瀬名のマシンがぬかるみにタイヤを取られてアウトに膨らむ。


「もらったな。このレース。」


後ろにピッタリと張り付いていた紅いマシンがスルリとイン側に寄せ、オーバーテイクを仕掛ける。


勝負は一瞬で付いた。


瀬名はすぐに体勢を立て直し、大都大学のマシンを追う。


しかし、どこまで追っても一向に近づかない。

それどころかどんどん離れていくその背中に、瀬名は絶望を感じていた。


「勝てない…こんなんじゃ…ダメだ…。」


一位陥落の情報を知ったピット陣は、無線ですぐに瀬名とコンタクトを取る。


「瀬名!大丈夫?」


「瀬名くん、ここからだよ!落ち着いて攻めていこう!」


「厳しい局面だが、抜き返すんだ!」


無線をスピーカーに切り替え、全員で声を掛ける。

だが、いくら待っても返事がこない。


「瀬名、キミが本来の実力を発揮できれば中島さんにも絶対勝てるんだ。だから…」


『…無理ですよ』


返ってきたのは、彼らしくもない弱気な言葉だった。


『無理なんですよ。京一さんも中島さんも格が違う。俺みたいなただのガチ勢ですらないゲーマーが勝てる世界じゃないんです。』


「瀬名、キミは…」


『もう期待するのやめてくださいよ!俺はただ、楽しく走れればそれでいい。プロになるとかバカなこと言いました。本当にバカなことですよ…。』


それを聞いて動き出した人間がいた。


それまで後方で腕を組み、傍聴していた琢磨はおもむろに無線の方へ歩き出し、京一に『代わってくれ』とジェスチャーを送った。


席に座った琢磨は、開口一番大声で。


「なっさけねぇなァ!!!お前らしくもねェ!!!」


その場にいた全員、そして瀬名も驚き目を見開く。


「なんだと琢磨テメェ!!!!」


驚きが過ぎ去ったのち、何を言われたのか理解した瀬名は、同じく大声で怒り狂った。


「デケェ声出るじゃねぇかハゲタコ。ボソボソ喋ってみっともなかったぜ。」


その言葉に瀬名が反論する前に、琢磨はそのまま続ける。


「『バカなことを言いました』だぁ?昔っからおめーはいつもバカだよ。星野先生にボコボコにやられたその直後には『松田さんの後継者になる』だの言いだしたりよォ…!」


苛立ちを噛み締めるように話す琢磨。だがそこには別の気持ちも含まれていた。


「だがな!お前のその失敗なんか気にせずに勝手に燃え上がるバカさ加減にオレも、亜紀さんも惚れたんじゃないのかよ!!!」


「ちょっ!!!琢磨くん!?!?」


不意に自分の瀬名への好意をバラされてしまった亜紀が声を上げる。


「大丈夫。見てりゃモロバレだから。」


京一にポンポンと肩を叩かれてそう言われた亜紀は、顔を真っ赤にしてうずくまった。


「わかったか?わかったらお前らしくイキって、そして勝ちに行け。いいな?」


『…!』


「ブチ抜け!!!瀬名!!!」


親友の声援を受け取った瀬名は大きく息を吸い込んで。


Copy(了解)!!!」


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― 新着の感想 ―
自分が松田さんの後継者になると決意してずっと頑張ってきただけに、心が折れてしまったのかな(;´・ω・) 親友琢磨くんの言葉がちゃんと瀬名くんに届いたようで、ホッとしました!!
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