山頂
「いや~、食べた食べた。」
「可偉斗さんも満足しましたか?」
「お前らマジでさぁ…」
結局たんまり飲まされた可偉斗は、若干千鳥足になりながらもみんなについて歩く。
メインの目的は果たしたものの、山頂までの道のりはまだ半分以上ある。
ケーブルカーの駅を過ぎて少し歩くと、左手にたこ杉と呼ばれる杉の木が見える。
根っこがタコの足に似ていることからそう名付けられたそう。
瀬名はそのたこ杉の横に置かれた、かわいいデフォルメされたタコの石像を見つけた。
「『開運・ひっぱり蛸』…なんだこれ」
どうやらご利益があるものらしい。
「撫でとけ撫でとけ。人気者になれるかも知れん。」
ツルツルした石像の頭をみんなで代わる代わる撫でる。
たこ杉を通り過ぎると、目の前に分かれ道が現れた。
「えっなにこれ。どっち行けばいいの?」
「師匠、こういう時はその辺で拾ってきた枝を倒してですね…」
「お前それ後ろに倒れたら帰るってことになるやん」
見事に来た道を示した琢磨占いに瀬名がツッコミを入れていると。
「マップによるとこの分かれ道はどっちに行っても同じ場所に着くらしいぞ」
通称「男坂・女坂」。
108段の急な階段となだらかな坂道に分かれた道だ。
彼らはもちろん…。
「男坂で行くぞ。トレーニングだからな」
「でも可偉斗さんフラフラじゃないですか」
「誰のせいだと…。この階段は108段、煩悩の数だ。お前らも煩悩を踏みしめて登れよ。」
一行は階段の一段目に足をかける。
「ポテチ、チョコ、アイス…」
「音ゲー、RPG、シューティング…」
個性豊かな煩悩を一つ一つ消しながら登っていく。
坂を抜けると薬王院という真言宗のお寺が待っている。
朱色の御本社がトレードマークだ。
写真映えも良い。
「ねーねー瀬名くん!一緒に写真とろー!」
「おっ!いいっすよ~!いえーい」
ノリノリでピースサインをする瀬名。
亜紀はその写真を、密かに待ち受けにした。
「そんじゃ、お参りしますか」
「願い事、決めたか?」
各々、お賽銭を入れる。
「あれ、ここって二礼二拍手一礼でいいんだっけ?」
「手合わせて祈るだけじゃないんですか?」
「気持ちがこもっていれば仏様も神様も気にしないと思うぞ」
可偉斗のその言葉に、みんな納得してそれぞれ違う方法でお祈りする。
(病気が完治しますように)
(瀬名くんの夢が叶いますように)
(松田さんの後継者として恥ずかしくない人間になれますように)
(メカニックとしてアイツを支えていけますように)
(自動車部のみんなで仲良くやっていけますように)
どれが誰の願い事か、お分かりいただけただろうか?
さあ、薬王院を過ぎればようやく山頂である。
展望広場へ向かう階段の、最後の一段を踏み、その先に待つ絶景を見渡す。
空は澄み渡る青色であり、遠くまでの景色がとてもよく見えた。
「おお~!!!壮観だな~!!!」
「お!あれ富士山じゃないっすか?」
瀬名が指さすその先には、まだ所々に雪の痕跡が見える富士山がそびえ立っていた。
富士山の手前には、関東山地の山々が連なっている。
「いいでふねこれは」
「お前いつもなんか食ってんな」
今度はソフトクリームを買ってきていた京一。
増量は過酷なのである。




