帰り道
その後、1分を切る選手は現れず。
京一の2位が確定した。
「いや~、もうちょっとイケると思ったんですけどね。体力が戻りきってなかったです」
「充分充分!お疲れ!!!」
頭を掻きながら戻ってきた京一に、手荒な祝福を施すチームメイト。
背中を叩き、頭を叩き。
しかし京一は不快ではなかった。
この素晴らしい仲間たちの輪に戻ってこれたのだという実感すら湧いていた。
そのわちゃわちゃを外から見ていた星野が問う。
「京一、どうだった?楽しめたか?」
仲間の背中越しに、弾けんばかりの笑顔で答える。
「はい!!!」
その後、会場の熱も冷め始めたころに表彰式が執り行われた。
表彰台の真ん中に立つのは、大都大学・中島聡。
しかしその表情に笑顔は見られなかった。
どこか不完全燃焼というか、肩すかし的な表情をしていた。
表彰式が終わり、表彰台を降りるときに中島はボソッと。
「10月までに体力を戻しておけよ。」
京一に向かって、そう言った。
シビックを積んだトラックに乗って光岡大学への帰り道。
休憩で寄ったサービスエリアで瀬名は『あの話』を星野に持ち掛けていた。
SUPER GT参戦を目指すという話である。
その話を聞いた星野の第一声は。
「…は?」
であった。
あの居酒屋に居合わせていなかった亜紀と京一も、驚きの表情を隠せないでいた。
星野はひとしきり困惑した後、吹き出す。
「ブフッ…フッ…いや、すまん。すまんけどエイプリルフールはとっくに過ぎてるぞ?」
「だから、本気なんですって」
「えぇ…?」
大真面目に言う瀬名を見て、星野は2周目の困惑フェーズに突入する。
「そのためにまずはスーパー耐久のST-5クラスに参戦したいと考えてます。その際、マシン整備などに部活の力をお貸しいただきたいんです。」
困惑フェーズから抜け出した星野は、少し考えてから。
「まぁ、参戦するのは自由だ…だがお前以外のドライバーはどうする?ピットクルーは?」
「最悪親父のチームから引っ張り出して…」
「迷惑だからやめてあげなさい」
瀬名の返答を聞いた星野は大きくため息をつく。
「よく考えてるのか考えなしなのか、どっちなんだお前は…。」
そこでそれまで静観していた可偉斗が口を開く。
「…部活全体で参戦しませんか?」
その声に全員が振り返る。
「ウチには優秀なメカニックが2人、ドライバーに専念できる人も3人はいます。十分に戦えると思うのですが…」
「星野先生をチーム監督に、私たちで戦うんですね!」
亜紀も目をキラキラさせて言う。
「おもふぃろそうじゃないれふか」
「京一、飲み込んでから喋れ」
いつの間にか買ってきていた、たい焼きを頬張りながら京一も賛同する。
生徒たちがこれだけやる気になっている中で、ダメだとは言えない星野。
悩んだ末、決断を下した。
「プロも参加するレースで結果を残すには、今のままでは力不足だ。そこで、条件を付ける。」
星野は瀬名を指差し、宣言した。
「瀬名、お前が今年度の2月に行われる関東自動車部新人戦で、京一に勝利することができたら部員全員によるS耐ST-5クラスへの参戦を許可しよう。」