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チームプレイ

29周目、レースの半分が終了。


『『Box,Box.(ピットイン要請)』』


タイヤ交換のため、マシンが続々とピットインしてくる。

ホイールナットを外すインパクトドライバーの金属音が、ホームストレート周辺にこだましている。


トップツー、ルイスと周。

10秒ほど遅れて瀬名、ジャンニ、カレルがピットイン。


F1のピット作業は、まさに超スピード。

静止時間は2秒に満たず、すぐにタイヤ交換を終えてピットアウト。


ここからは瀬名たち後方集団がソフトタイヤ、ルイスらトップグループがハードタイヤでの走行となる。


『ただの天才』、猛追開始。







『『ルイス、瀬名との差が縮まりつつある。用心しろ』』


「『Copy.…流石だ。』」


ルイスの中にも、緊張が走る。

集中力の消費が激しい。


レースが始まって以来、ひと時も休めていない。

その原因は、この男だ。


「激活的DRS…!」


ブロックラインを通る。

この男が、ただの一瞬も離れてくれない。


一度も、1秒圏内から外れない。


「『そんなに俺のことが好きか、周。モテるってのも大変だなぁ…!』」


「『テメェは嫌いじゃねえが、好きでもねえよ…ルイス!!!』」


無線は繋がっていないが、マシンのテールを見ていれば考えていることぐらいは分かる。


強いてお前の嫌いな点を挙げるとすれば、その余裕たっぷりの表情ぐらいだ。

だが、オレにはその余裕を削り取って、張り詰めた表情にする力量は無い。


悔しい。

ああ、悔しいよ。


できるとしたら、ヤツしかいねえんだ。

そんな芸当ができるモンは。


…チッ。

結局、こうなるのか。


「激活的DRS!!!」


今日一番、スピードが乗ってる。

これなら次のブレーキングでインに捻じ込める。


マシンを横に振り、目一杯ブレーキング。

今日初めて、ルイスの前に出る。


「『さあ、オレが抑えてやる…!』」


…今日初めてってか、オーバーテイクはマジの初めてだ。


来るなら早く来い、瀬名。

オレの気が変わらんうちにな。








ロングストレートが来る度、トップツーの順位は入れ替わる。

1周、また1周と時間は過ぎる。


二台がバトルすれば、その分ペースも落ちる。


じわり、じわりと瀬名の足音がしてくる。

しかし、ソフトタイヤは長持ちしない。


次第にその優位性は鳴りを潜めていく。


単純なペースの差ではほとんど互角になる、52周目。


とうとう瀬名が上位二台のスリップストリーム圏内に入る。

現状2位の周はバックミラーで瀬名の姿を視認。


ラストスパートだと認識する。


「激活的DRS…激活的DRS…激活的DRS…!!!」


今一度ルイスの横に並びかけ、ブロックラインを取らせる。

これによってペースがさらに落ち、瀬名が完全に追いつく。


ロングストレート後のコーナーで、周はアウト側にマシンを寄せてスローダウンする。

瀬名に、道を譲ったのだ。


「『ありがとう、周。あとは任せろ。』」


「『やかましい…!一つ貸しだぞ、覚えておけよ…!!!』」


周にオーバーテイクさせた時のように、今一度親指を立てる。

今度は俺が前に行く番だ。


そして、さらに上へ。

孤高を目指す番だ。








『『周冠英の素晴らしいチームプレイ!伏見瀬名が追い付きました!!!』』


周がレースアーカイブを見て、この実況を聞いたら悶絶するだろう。

何も知らない実況は、周の()()()()()()を絶賛する。


残り周回数は6。


タイヤが苦しいのはお互い様である。


片や絶対的なグリップが低いハードタイヤ。

片や寿命の短いソフトタイヤ。


瀬名の全開アタックに、ソフトタイヤはもう悲鳴を上げている。


あと6周。

あと6周だから、頑張ってくれと念を送る。


そう思っていた矢先のことだった。


『『高速の2コーナーでクラッシュ発生!!!これはセーフティーカーが入るでしょう!』』


後方を走るマシンが単独でクラッシュ。

現場にはマシンのパーツがばら撒かれており、セーフティーカーを導入しなければ危ない状況。


トップの二台の反応は、真逆であった。


「『マズい…瀬名は摩耗しているとはいえソフトタイヤ。SC(セーフティーカーラン)で冷えた状態からでは相手に分がある…!』」


タイヤを温めた、レース状態のまま勝負を終えたかったルイス。


「イケる。勝てるぞ…!願わくばファイナルラップにレース再開してくれ…!」


ルイスのタイヤが温まり切らないうちに勝負をかけたい瀬名。


セーフティーカーは1周、2周とゆっくり周回する。


ルイスは悲観的な意見を述べていたが、現状前に居るのは彼である。

レース再開後、瀬名が前に出れなければそれまで。


だが、タイヤが冷えていれば瀬名の方がペースを上げられるのもまた事実である。


3周、4周。

そして、5周が過ぎたとき。


『『セーフティーカーランが解除された!イエローフラッグが消えたらすぐにアタックしろ!!!』』


「「Copy!!!」」


両者に、無線が入る。


瀬名はルイスのすぐ横に並びかける。

しかし、前には出ないように。


イエローフラッグ中の追い越しは違反となるが、ノーズが先行しなければいい。


ルールの範囲内で、できる限り前へ。


そして。


振られていたイエローフラッグが、消える。


いざ尋常に。


「「『勝負!!!』」」


最終戦、最終ラップ。

この最後の一戦で、最後に笑うのはどちらか。


否、彼らならどちらも笑っているだろう。


今、2人の挑戦者が解き放たれた。


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