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ただの天才

ルイスと周は見えなくなった。

また、前には誰もいない。


そんな状況。


バックミラーをチラと見る。


後続は赤いマシン。


フェラーリの2人が、一列に並んでついて来ている。

仕掛けてくる素振りは、今まで見せていない。


「『ぼくたちはルイスを倒すため、キミと協力することを選んだ。』」


「『…その決断は間違っていなかったと思う。』」


ただ。


「『キミの走りを見て思うんだ。』」


「『…この者とも、戦っておきたいと。』」


このマシンのリアを拝むのは、このレースで最後。


「「『…ぼく()も悔いを残さないため、全力で走らせてもらう。』」」


折角なら、フロントもしっかり見ておきたいと、思わないかい?


「Attivazione del DRS…!」

「…Activer el DRS.」


瀬名は前との差が1秒以上開いているため、DRSが使えない。

2台のフェラーリが、瀬名に襲い掛かる。


コース中央に陣取っていた瀬名のマシンを、両側から挟み込むようにして左右に並びかける。


三台横並び(スリーワイド)


2台のマシンの鼻先が、瀬名の前に出る。

順位が入れ替わり、瀬名が五番手に後退。


その瞬間。


「…DRS、起動!!!」


1秒差以内に先行するマシンができたことで、瀬名もDRS使用の権限ができる。


加速力が互角になった三台のマシンは、300キロを超えるスピードを維持したまま直線をかっ飛ばす。

三台横並びのまま、コーナーへ突っ込む。


内側からジャンニ、瀬名、カレル。


ブレーキング。

瀬名はここであえてブレーキを少し早めに踏んだ。


フェラーリ勢がじわじわと前に出ていく。


完全に瀬名が後ろにつく形。

瀬名はそこで何を思ったか、アウト側にマシンを振る。


カレルのさらに外側から、コーナーに進入していく。

ジャンニとカレルはブレーキング勝負になるとみて、少しブレーキを遅らせた。


ラインが少しアウト側にはらみ、インコースに空きができる。


一度外側に出た瀬名は余裕をもってラインの変更権を手にした。


立ち上がり重視、クリッピングポイントを奥に取る。

空いたインコースに、今一度車体を捻じ込む。


「『…冷静だ。』」


「『それをやられちゃ、お手上げだなぁ!』」


コーナーの脱出、瀬名は意図的にギアを一つ上げる。


後輪が空転しないように。

ジャンニに教わったテクニックだ。


アクセル全開、コーナーを立ち上がる。

瀬名はまた、3位に舞い戻った。








速えぇ…。

ブラジルの時より、更に速えぇ。


オレはラインの猶予を1ミリたりとも残していないってのに、DRSがなけりゃとうに置いていかれてる。

どこまで攻めりゃ、そうなるんだ。


でも、DRSの力を使ってるとはいえついていけてる。


オレがこのままついていければ…。

ついていければ…。


ついていければ、何だ?


何のためにオレは必死こいてルイスのケツに張り付いてる?

オレがここまでガチになってるのはなぜなんだ?


1つでも上の順位でゴールするため。


まあ、そうだ。

それしかない。


でも、それだけでオレがここまでの熱量を発揮することがあったか?

ここ一年を全力で取り組んだ理由…。


…アイツに勝ちたいから。


だが、これは違う。

アイツは今、俺より後ろにいるんだ。


ルイスに絶対についていかなければならない理由にはならない。

じゃあ何か?


他にオレがやろうとしてる事ってなんだ?


()()()勝ちたい、それだけでここまで来た。

そう思っていたが、違うのか?


もうワケわかんなくなってきた。

時速300キロで走りながら、250キロでコーナリングしながら考えることじゃねえだろ。


あと一つ、思いつくとしたら…。


…ナイ。


それだけは絶対にナイ。


オレがそんなことを思ってたまるか。

よりにもよって、アイツを勝たせるために必死こいてるだなんて。


あってはならない、そんな事。


オレは、オレのためにだけ働くんだ。

プライドとかそれ以前に、アイツは気に喰わねえ。


日本でのバカみたいな成績を引っさげ、オレの敵じゃないと思ってた。


かと思えば、シーズンが始まってみろ。

別の意味でバカみてえな成績を叩き出しやがった。


世間じゃ二代目のアイルトン・セナだなんだともてはやされてるが、オレはそうは思わん。

アイツは…。




オレの嫌いな、いけ好かないただの天才だよ。


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― 新着の感想 ―
ほんの一瞬のできごとなのに「じわじわ」という表現を使うことで、それが読者の頭の中ではスローモーションに感じることができて、すごい!!(語彙力) 地の文ではあるけれど、語り手のセリフとしてのカッコ良さ…
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