ジムカーナ選手権
「「皆さん、お久しぶりです!!!!」」
「おう、お疲れ!」
集合場所である富士スピードウェイの駐車場にて、久しぶりに部員全員が集まった。
「とうとう、抜かれちゃったね。」
「いやいや、俺はハンコン使ったんで。」
瀬名と京一はガッシリと握手を交わす。
「色々教えてくださってありがとうございます、師匠。」
「いいよいいよ~!琢磨くんを私の後継者に任ずる!なんちゃって」
琢磨も亜紀とハイタッチをした。
すると、会場のスピーカー越しに声が聞こえてきた。
『光岡大学の皆様、準備のほどをお願いいたします。』
「もうすぐ出番だ。クルマを準備しよう」
一行は本部のテントに向かった。
「おう、お前らか。お疲れ。」
テントの下に並べられたパイプ椅子に座る星野が、生徒に手を上げて挨拶をする。
「調子はどうだ?」
「まあまあですかね」
「僕は病み上がりなので期待しないでください」
「絶好調!!!!」
個性豊かな返答を受けた星野は苦笑いを浮かべ、一年生にも声を掛ける。
「少しは反省したのか?」
「睡眠って、大事ですよね」
「今日も結構朝早かったのでしんどいです」
星野は反省を求めることを諦めた。
「また謹慎食らいたいのか?」
「「すいませんでした」」
現金な生徒たちである。
自動車部の面々がわちゃわちゃと話していると、後ろからザッザと足音が聞こえる。
その音にいち早く気付いた京一は、後ろを振り返ると声を上げた。
「中島さん!」
中島と呼ばれたその男は、鋭い眼光で瀬名と琢磨を睨みつけていた。
「新入生か?部が潰れなくて良かったな。」
中島が含み笑いを浮かべて少しバカにするようにそう言うと、光岡大の部員はムッとする。
「そうなんですよ!彼らが入ってくれてとても助かりました!」
京一以外は。
京一は依然としてニコニコしながら嬉しそうに話す。
少し中島としてはやりづらそうである。
「オイ1年。」
中島の目線が瀬名たちに向く。
「オレは大都大学3年の中島聡だ。10月の6時間耐久を楽しみにしておくんだな。」
1年生のデビュー戦となるのは、10月にある関東学生対抗軽自動車6時間耐久レースだ。
そのレースでの宣戦布告が今、行われた。
「誰?今の」
「お前自己紹介聞いてなかったの???」
少しイラついてすっとぼける瀬名に琢磨がツッコむ。
「大都大学の中島、京一が現れる前まではスーパー1年生としてもてはやされてた奴だよ。」
「ちょっと嫌な人だよね~。私は苦手かな。」
名門・大都大学のエースである中島聡は、入学当初から期待の新人として鳴り物入りで自動車部に入った。
彼が1年生、そして2年生の前半時には彼にライバルと言える人物は存在しなかった。
だが、2年生の2月、新人戦でのこと。
それまで無名だった学校の、無名の1年生にトップの座を奪われる。
片山京一が、前年度の新人戦チャンピオンを2秒の大差をつけて破ったのだ。
それからというもの、中島聡は京一に一方的なライバル心をむき出しにしている。
「そう?僕は新人戦が終わってからすぐに体調崩しちゃって入院したんだけど、お見舞いにも来てくれたよ?」
「それ単にストーキングされてるだけじゃあ…」
亜紀が心配そうに言う。
「なんにせよ、奴の実力は一級品だ。お前たちも見て学べよ。」
「瀬名は特にな」
可偉斗の言葉に、星野が付け足す。
瀬名は反論しようと口を開いたが、星野の言葉がめちゃくちゃ正論であることに気づいて黙り込んだ。
『大都大学・中島くん、スタート位置についてください』
会場アナウンスが入り、場内に緊張が走る。
大都大学のトレードマークである深紅のマツダ・ロードスターがスタート地点に現れる。
『ヴォン…ヴォオオン』と低いエンジン音が辺りに響く。
エンジンをフカしながらゆっくりとスタート地点につくその姿は、カワイイ見た目のNA型ロードスターからは考えられないほどの重厚なオーラを纏っているように見えた。
ほどなくして、スタートを意味する旗が振られる。
キュルキュルとタイヤを鳴らして発進する中島のマシン。
順調にスピードを上げて最初のコーナー、もとい最初のコーンを曲がる。
「…上手い」
琢磨が呟く。
琢磨は外側から走りを見た時、ドライバーやクルマの特性を瞬時に理解する。
中島の走りは、美しかった。
4本のタイヤを限界まで、バランスよく使う能力に長けていた。
「現時点で、大学生の中には走りの美しさでアイツに勝てる奴はいない。純粋な走りの速さでは京一に軍配が上がるが…」
「汚い走りで悪かったですね」
京一がムッとして言う。
それに呼応するように亜紀も。
「なーんかムカつきますよね。性格に難アリなのにあれだけ綺麗な走りされると。」
中島が駆るマシンは最後のコーンを回り、ゴール地点へと到達する。
『只今のタイムは、59秒426。59秒426。』
会場から驚きの声が上がる。
「1分を切ってきたか…!」
可偉斗も腕を組み、天を仰ぐ。
「京一、このタイムはどう思う?」
「燃えてきたよ…!!」
その場にいる全員が、エースの目に炎が宿ったのを感じ取った。